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Economist Column No.2025-054

「身寄りのない高齢者」の解像度を高めよ

2025年10月28日 岡元真希子


■「身寄りのない高齢者」の多様性
最近、「身寄りのない高齢者」について多くの人々が関心を寄せている。もっとも、議論が深まること自体は良いと思われる一方で、不謹慎と言われるかもしれないが、その議論を聞いていると、『アンナ・カレーニナ』の「幸福な家庭はどれも似ているが不幸な家庭はいずれもそれぞれ」という一節を思い出してしまう。「身寄りがある」高齢者には、親孝行をする意思、それを実行するための経済力、情報収集能力、体力や行動力を兼ね備えた子がいる場合が多い。あらゆる条件が揃っているという点で「どれも似ている」。これに対して「身寄りがない」高齢者の状況はさまざまである。戸籍をたどると、親族がまったくいないという人は少ない。子がいても関係が断絶している、子に障害がある、ダブルケアで支援が難しい、仲の良い兄弟姉妹がいるが高齢のため支援できない、関係良好な姪・甥がいるが叔父・叔母の支援までは難しい、遠縁の親族がいるが名前も顔も分からないなど、多様な状況がある。
提供できる支援の内容についても同様である。「身寄りがある」場合は、子が一貫して、生存中の支援から死後の対応までを引き受けるという点において、ワンパターンである。そうでない場合は、遠方だが手続き書類にサインだけはしてくれる場合もあれば、亡くなった後のことだけはするが生きている間は連絡をしないでほしいと言われる場合もあるなど、多様なケースがありうる。

■「身寄りのない高齢者」に対する支援の検討
自立した生活を送っている限りは、身寄りがないことに起因する支障はさほど発生しないが、支援が必要な状況になったときに問題が顕在化し、公的な制度や民間のサービスで対応をすることが多い。このときに、介護が必要であれば介護保険制度、経済的に困窮していれば生活保護制度や生活困窮者自立支援制度、判断能力が乏しいのであれば成年後見制度の利用が検討の俎上に上がる。これらに当てはまらない場合には、「地域福祉」「地域共生」などの文脈において支援体制の構築が模索される。
国の審議会等においても、制度的な切り口から議論が行われている。社会保障審議会介護保険部会では「身寄りのない高齢者等の抱える生活課題への対応」として、ケアマネジャー等が業務外で、親族代わりの支援を実施せざるを得ない状況が少なくないと報告されている。社会保障審議会福祉部会では、日常生活支援、入院・入所時の身元保証、死後事務を担う親族がいない人を対象とした事業が検討されている。
介護保険部会では「親族がまったくいない人だけでなく、親族がいても関係が悪くて頼れない、相手も高齢で頼れない、といった場合も想定すべき」という指摘が、福祉部会では「身寄りがあっても、家族・親族等の関係は様々であり、一律に身寄りがある者を(事業の)対象外とすることはできないのではないか」などの指摘もあった。

■「身寄りのなさ」の度合いの段階的整理
「身寄り」という言葉は単なる血縁者を指すものではなく、その支援可能性も要素として含むため、「身寄りがない」という状態を広く捉える必要がある。一方で、広く捉えようとすればするほど、境界線があいまいになりがちである。制度や事業を設計する上では、対象者像をできるだけ具体的に捉える必要がある。前述のように「身寄りのなさ」は多様であるものの、便宜上整理すると、以下の5段階ぐらいが考えられる。

A)戸籍を照会し、親族や推定相続人がいないことが確認されている
B)戸籍上の親族はいるが、会ったこともなく、連絡先も分からない
C)連絡先が分かる親族はいるが、関係の悪化あるいは希薄なため、支援を求められない
D)連絡先が分かる親族がおり、関係も良好なものの、高齢などのため支援をする力がない
E)支援ができる親族はいるが、遠方・多忙等のためすぐには/頻繁には来られない

今後、ニーズの把握や需要の予測をして、支援体制を構築するにあたっては、上記のような具体例に照らしながら、誰が対象なのかを明確にしていく必要がある。例えば、福祉部会で検討されている事業のうち、入院・入所時の身元保証については上記のD・Eのような状況でも親族の支援が得られる可能性がある。死後事務についてはD・Eに加えてCの状況でも親族が対応する可能性がある。一方で、ケアマネジャーの業務外支援はA~Eのいずれの場合においても、求められる可能性がある。しかしこの中でも、Eの親族に対しては方法によっては支援に関与するように促すこともできる。例えば、日本総研が昨年度実施した調査(注)では、本人・親族と介護職員と主治医がオンライン会議で、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)について話し合い、容態が急変した場合に円滑に入院して治療方針を決定できるよう準備を行っている施設もあった。「身寄りのない高齢者」についての解像度を高めていくことによって、解決策の糸口となることに期待したい。


(注)日本総合研究所「介護現場における身寄りのない高齢者等に対するサービス提供の実態にかかる調査研究事業 報告書」(令和6年度老健補助事業)、2025年3月

(関連レポート)
岡元真希子『頼れる親族がいない高齢者に対する自治体の支援 -自治体アンケートから見た連携・協働の可能性-』日本総研リサーチ・フォーカス No.2024-046(2024年11月21日)

岡元真希子『増加する「身寄り」のない高齢者-頼れる親族がいない高齢者に関する試算-』日本総研リサーチ・フォーカス No.2024-021(2024年07月23日)


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