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ビューポイント No.2025-015

【参院選を受けた政策提言】国際秩序の変化と人口減少時代に対応可能な自立した国家を目指して

2025年07月25日 石川智久西岡慎一蜂屋勝弘瀧口信一郎山崎新太


今般、衆参両院とも少数与党となり、政局も大きく動いている。今後は与野党で政策論議が深まるとみられるなか、いま進めるべき政策について提言したい。一言でいえば、内外の激変する環境変化に対応できる自立した国家を目指すべきというものである。

1.国際環境認識~世界経済の歴史的転換を踏まえた経済安保・エネルギー安保の必要性
我々は世界経済の歴史的な転換点に立っている。米国が自国第一主義となり、中国も保護主義化するなか、自由貿易は危機に直面している。こうしたなか、日本としては、既存の枠組みに捉われない、新たな国家戦略の構築が求められている。同盟国である米国との友好関係を維持しつつ、近隣諸国との対立も回避しながら、グローバルサウスを含む世界各国との関係の多角化・深化が重要であり、わが国は激動の国際経済のなかで自立した国家となる必要がある。また、自由貿易世界の先導役となるほか、円の国際化を進めるなど、国際社会でのリーダーシップを発揮することも重要だ。

さらに、環境・エネルギー政策も大きな転換点にあるなか、脱炭素派と脱・脱炭素派で対立が激化することが予想される。世界の潮流や技術動向を踏まえたうえで、新たなエネルギー政策を考えるべきであるが、その際、短期的な対応のほか、長期的にはエネルギー安保に向けて新エネルギー開発を強化すべきである。そのためには技術革新が重要であり、わが国が豊富に抱える山の資源、海の資源をエネルギーに活用していく必要もある。

2.国内環境認識~長期金利上昇、人手不足、サプライチェーンの再編、地方の疲弊が課題
国内では、これまで低位で安定していた日本の長期金利が上昇するなか、財政再建が喫緊の課題である。加えて、資産が高齢者に偏り、社会保障費の拡大も増加し、税・社会保障負担の国民負担率の上昇が続くなかでは、現役世代の負担を減らした社会保障制度・税制度が重要である。

また、団塊の世代が後期高齢者入りするなか、人手不足は喫緊の課題である。労働供給をいかにして増やすか、少ない労働投入でいかにして供給力を確保するのかが重要な論点である。供給力の強化を通じて、経済安保も確保していくことも日本経済の自立にとって不可欠である。

地方の疲弊も待ったなしの状況である。現在の行政区分は現状に合っておらず、行政区分を超えた政策を実施する必要があり、行政機構も含めた抜本的な変革を通じて、真の意味の地方創生を進めるべきである。

国際情勢の不透明性が高まり、国内でも深刻化する課題が山積するなか、市場にすべてを任せるのではなく、必要な部分については政府の介入も求められる。もっとも、わが国の財政状況や昨今の長期金利上昇等を考慮すれば、ただ単に規模を膨らませるのではなく、必要な部分に的を絞った対応が必要である。以上の認識のもと、経済政策、財政政策、エネルギー政策、地方創生の観点から提言を行う。

3.経済政策についての提言~供給力強化とそれを通じた経済安保の確立
経済政策については、戦後の自由貿易体制が危機に瀕していることを認識する必要があり、国際情勢の変化に柔軟に対応しつつ、対外的な自立性を高めていくことが重要である。そのためには、経済安保の観点も踏まえた供給力の強化が不可欠である。特に、高付加価値分野で国際市場でも通用する高い産業競争力を磨き、生産拠点の国内回帰やサプライチェーンの再編等を通じて、輸出可能な水準の供給体制を構築すべきである。

同時に、安定した供給網と販路の確保が前提となり、信頼性の高い国々との間で経済連携を深化させることが欠かせない。同盟国である米国とは日米が共に成長するための協力関係を力強く推し進めるのと同時に、中国に対しては「戦略的互恵関係」の原則を徹底し、日本の財やサービスが相手国の経済運営にとって不可欠な存在として組み込まれることを基本方針に据えるべきである。

こうした財やサービスの供給体制の整備に向けて、政府は企業に対して研究開発から社会実装に至るまで一貫した支援を実施すべきである。その際、バラマキを排除する観点から、民間では過少投資になりやすい分野や経済安保の観点から必要なものに集中する必要がある。さらに、海外市場の多元的な開拓にも積極的に取り組み、特定国への過度な依存を回避する必要がある。また、こうした支援の対象となる重要度の高い物資や技術を適切に選定するため、政府はガイドラインを策定し、野放図な支援を回避することも不可欠である。

また、可処分所得の拡大を経済政策の柱に据え、家計の自立性を高めることも重要である。政府は、生産性の向上や供給能力の拡充によって生まれた富を賃金の形で家計に還元する政策を後押しするほか、社会保険料の引き下げにより手取りを増やしてくことに取り組むべきである。この点、政府は企業の投資支援、労働力の確保、労働移動の円滑化といった従来の取り組みの継続も欠かせない。

生産性の向上に向けて、産業の大規模化や集約化を一段と進めることも不可欠である。たとえば、中小企業の再編に向けて、優遇税制の見直しなどを通じて、企業規模の拡大や統合を後押しする制度設計へと転換すべきである。あわせて地域金融機関を再編・統合し、企業再編に資する資金供給力を強化することも検討に値する。農業分野でも、収益性の高い経営を志向する法人や大規模農家に農地を集約するほか、AI やロボットなどアグリテックの導入で国際競争力を高める取り組みが求められる。

供給能力の増強に向けて政府は、雇用確保の義務を現在の 65 歳から 67 歳に引き上げ、意欲とスキルを持つ高齢者の積極活用を促進すべきである。外国人労働者については、日本人に納得感が得られる政策とすることで、国家分断を回避することが必須である。そのためには、日本社会への高い適応力と就業意欲を持つ外国人材に絞り、なし崩し的な受け入れを避けるとともに、特定国に偏らないよう配慮する必要がある。同時に、日本の社会保険サービスを求めて入国する無業の外国人に対しては、応益負担の原則を徹底し、適切な対価を求める制度整備も導入すべきである。

社会保険料を引き下げ、現役世代の負担を軽減するためには、先の雇用促進策を通じて自立性を引き上げながら、高齢者に応分の負担を求めることが必要である。なかでも、年金の支給開始年齢を 67 歳に引き上げることや、一定以上の所得がある高齢者を対象に、医療費の自己負担割合を見直すことも選択肢となる。

4.財政政策についての提言~市場からの信認維持と現役世代の負担軽減
世界経済におけるわが国経済の相対的な地位の低下が一段と進むなか、巨額の政府債務を抱えるわが国の経済が成長を続けるには、投資先としてのわが国の魅力を一段と高めることが不可欠であり、財政面では、わが国の財政規律に対するマーケットの信認を獲得し続けることがこれまで以上に重要となる。わが国の財政状況が将来的に改善する具体的な姿を、財政計画や財政ルールと併せて示すとともに、財政計画や財政ルールの遵守状況を監視し、客観的あるいは批判的に評価する機能が求められる。財政計画や財政ルールの法制化や独立性の高い監視の仕組みの構築を早急に開始し、財政健全化を規律に基づいて実行できる姿を示す必要がある。

歳出面では、EBPM の活用等によって、支出の配分のメリハリを徹底する。医療と介護のあり方を一体で見直す等によって社会保障給付の最適化を図るほか、老朽化した社会資本について必要度に応じた“トリアージ”の徹底等によって公共投資の選択と集中を図ることが重要である。高い社会保険料負担を引き下げる一方、歳入面では、高齢世代が多くの資産を有していることを踏まえ、高齢世代内での支え合いや、高齢世代が次世代を支えるとの構図を強く打ち出すとともに、これまで以上に資産を考慮した応能負担によって、若い世代に偏る国民負担の比重を少しでも高齢世代にシフトさせる政策を実施すべきである。

5.エネルギーについての提言~経済安保に向けた「山の資源」倍増と「海の資源」ギアアップ
脱グローバル主義のリスクに備え、エネルギーの安価で安定的な供給は欠かせない。脱炭素は維持しつつも経済安全保障に重心を移す必要がある。

まず、「水力発電」や「バイオマス発電」という「山の国内資源」の発電量を倍増すべきである。ダムや路網を再整備し、脆弱な配電網を補完する電気自動車を含む蓄電池、CCU(二酸化炭素の分離回収と素材製造)インフラなどを自治体が整備することで、水力発電やバイオマス発電のポテンシャルが引き出されるとともに、民間企業によるエコツーリズム(地域固有の自然・星空観光)、アクアポニックス(陸上養殖・水耕栽培)、電気自動車・蓄電池、バイオ素材、小規模分散型データセンターといった新産業への波及効果が生まれ、地方創生の起爆剤とすべきである。このインフラ投資は、短期的にみれば負担もあるが、長期的に海外資源の価格変動にさらされにくい、地方の産業・生活基盤の強化につなげていく必要がある。

この事業を官民協調で実現するため「地域版GX債」を発行すべきである。長期・複数年度にわたる先行的なインフラ投資を自治体が主導し、民間事業者の予見可能性を高めることで、新たな市場・需要の創出が期待できる。日本では歴史的に山間部と河川流域一体で地域経済圏が形成されてきたため、地方創生は地域経済圏内での協力関係が重要である。経済成長と環境負荷低減の両立を目指すGX債の枠組みを拡大し、複数自治体をまたぐ山間部と河川流域一体の広域圏での市場創出を想定する。例えば、都道府県が地域版GX債を発行し、複数自治体をまとめて事業を推進することが考えられる。

不透明な国際動向を考慮すると、既存の原子力発電の安定稼働は当然として、日本技術による「新世代エネルギー」の開発が急務である。領土・領海・経済的排他水域(EEZ)で世界 6 位の日本は、海水中に含まれる重水素、リチウムによる「核融合発電(フュージョンエネルギー)」、海面の受電設備で宇宙空間からの太陽光発電の電力を受け取る「宇宙太陽光発電」、浮体式の「洋上風力」など「海の国内資源」による「新世代エネルギー」に可能性がある。

6.地方創生についての提言~行政区画にとらわれない水平連携・垂直補完を
人と金の不足が顕著な小規模自治体が、単独で地域を守り抜く努力は早晩限界を迎える。手遅れになる前に、越境・広域・集約をキーコンセプトとして、地方自治の権限・財源・体制を再構築しなければならない。

住民の生命に関係するソフト・ハードのインフラ(福祉・道路・上下水道等)の維持管理は、都道府県と市町村による垂直補完、連携中枢都市による水平連携をこれまで以上に強化し、規模の経済を働かせるべきである。行政サービスの徹底的な DX と標準化・効率化を図るとともに、広域自治体と基礎自治体の事務所掌について聖域なく整理・再編し、段階的に権限を移譲する。垂直補完の強化は基礎自治体主導では進まない。各地域の意見を丁寧に汲み取りながら、国と広域自治体が慎重かつ不退転の覚悟で推進する必要がある。

地域のアイデンティティに関わる分野(文化・観光・コミュニティ等)については、産学官金労言による対話の場を立ち上げ、そのあり方を自律的に意思決定すべきである。歴史、地勢、生業などの文脈に基づき、行政区画を越境した水平方向の連携を深め、地域固有の魅力を言語化し発信することが望まれる。

垂直補完の強化を実現するためには、基礎自治体のフルセット主義を支える財政システムから脱却し、事務所掌に応じた財源の再分配が必要である。広域自治体の役割に応じて、地方交付税の交付方法を見直す。過疎債や立地不利地域(中山間地域・離島等)への支援策についても、広域化の観点から、そのあり方を見直すべきである。また、東京に遍在する税源の再分配にも取り組むべきである。魅力の創造については、自由度の高い交付金によってボトムアップの取組を支えるとともに、取組の社会的インパクト評価を徹底することで実効性を担保する。

権限と財源の再編と並行して、地方創生を牽引する体制の整備が必須である。官民連携事業、官民の人事交流・人材共有、副業推進など、特に都市部の民間の力を最大限に活用するべきである。また、基礎自治体から広域自治体への人材配置替え、技術者などの専門人材プール、地域金融・教育・医療など公益性を有する機関の再編による機能強化など、考えられ得るあらゆる手立てを講じる必要がある。こうした地域の挑戦的な取り組みをスピーディーに進める観点からは、地方議会の質向上にも取り組むことが不可欠である。

当社は、市民や自治体、企業、国などの各主体が「自律」しながら、ビジョンや目標を共有し「協生」する「自律協生社会」を提唱しているが、我々としては、これらの政策の実施による「わが国の自立」の先には、この自律協生社会があると考えている。


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