2025年4月13日から、大阪において55年ぶりの万博(大阪・関西万博)が開幕する。本コラムでは、8人の日本総研の研究員が考える大阪・関西万博について、Part1・2に分けて紹介する。
■創発戦略センター 研究員 南かのん
「2080年に『いのちの輝き』を届けられるか」
私は1970年の日本万国博覧会(大阪万博)からおよそ30年後に生まれたが、「こんにちは こんにちは 握手をしよう」と、当時のテーマソング「世界の国からこんにちは」を歌うことができる。万博のテーマが「人類の進歩と調和」だったことも認識しており、当時の展示の写真やビデオでワイヤレステレホンや人間洗濯機を見て、「人類の進歩」を感じ、曾祖父の残した記録や祖父の話から、戦争が終わり平和な時代になることへの強烈な願い、「人類の調和」への熱い想いを受け取った。
先の大阪万博では、参加国数や入場者数において、当時の新記録を打ち立てたことが最もフォーカスされ、「成功」のイメージが付いた。一方で、その来場者数の多さから、当時の新聞には「最大の展示物は観客」「管理され、耐える6千万」という見出しがつけられ、とある家族の追跡調査では「会場にいた五時間五十分のうち展示館のなかにはいっていたのはわずか一時間十分」と紹介されていた。 万博について熱心に語る祖父も、よく聞いてみれば「ひどい混雑で、目玉とされていたようなものは何一つ見ることができなかった」と言っている。「人類の進歩と調和」を象徴するような展示を1つも見られていなかったとしても、自分自身の中にある終戦への安堵感とこれからの時代への期待を重ね合わせ、それぞれが「人類の進歩と調和」を感じることができていたのではないか。
万博の成功を測る最も分かりやすい指標は、来場者数や経済効果だろう。一方で、開催から55年経っても万博を語り継ぐ人がいて、それを受け取る世代がいるというのは、一つの大きな成功と言えるのではないだろうか。今回の大阪・関西万博において、私たちは「いのち輝く未来社会のデザイン」を感じ取り、自分の中の意識と併せて、それぞれの「いのちの輝き」について考えることができるだろうか。
今回の大阪・関西万博の総事業費は数兆円に上るとの試算がされている。この祭りをたった半年で終わらせるのではなく、できるだけその効能が長く続くことを願っている。大阪・関西万博から55年後の2080年、万博のことを覚えている若者はいるだろうか。この半年間、夢洲に集まる人々の「いのちの輝き」に注目したい。
■リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 齊木 乃里子
「『見る万博』から『育てる万博』へ」 ―私やあなたの意見が万博の新しいコンテンツにつながるかも!-
私は大阪生まれの大阪育ち、生まれてこの方一度も住民票が大阪を出たことはない。したがって、小学校の遠足は太陽の塔の前でお弁当を食べたし、家族で出かけるお花見はほぼ「万博公園」である。記憶にはないが、55年前の万博の写真すら残っている。
だからといって、今回大阪に万博が誘致されると決まったときは不思議と心躍ることもなく、むしろ冷ややかな気分であった。マーケティングを専門とする私からすると、とにかく「“モノ”をつくって、ドドーン」っていう世界観がもう古臭いでしょ、っていう気持ちしか浮かばないし、そもそも「先端技術、すごいでしょ?」ってドヤ顔をされたところで、この課題満載な世の中で、喜ぶ人は少数ではないかと思ったのだ。
そこで目にとまったのが、理念として掲げられた「いのち輝く未来社会のデザイン」である。もう壮大すぎる。「そんなの誰にもわかんない」が正直な感想である。ただ、開催に向けたプロセスに関する様々な報道や、それぞれの取り組みに関するリリースを見ていくうちに、「いのち」とは、今ここにある一人ひとりの“いのち”、そのいのちがつなげる次の“いのち”だということに気づかされた。
今はSNSの時代である、というのは誰も異論を唱えることはないであろう。ツールによっては、90%を超えるような利用率のものもあるくらいである。ここ数年実施された選挙、多くの自然災害、その他の事件において、SNSの影響力の大きさを感じた局面は多くあった。
そう考えると、今回の万博では、これまでと違って、多くの人が、例えば、4月オープンに向けてかかわった人、来訪した人、体感した人、働いた人の誰かしらが、何かしらのツールでメッセージを送ったり、コメントを発信したり、写真や動画をシェアしたりするわけである。何なら、参加していない、したくない人まで発信するかもしれない。つまり、55年前の万博と本質的に違うのは、万博のコンテンツと、私たちとの「距離“感”」なのである。
実は、万博の開催期間は思っているより長い。オリンピックやワールドカップのような数週間というレベルではない。その間に、「市井の人」から発信される情報の量はいかばかりになるのであろうか。
このような情報がどれくらいのインパクトをもって、万博の中にうめこまれていくのか、それが非常に楽しみだ。そもそも提供側(今回でいうと、パビリオンなどを出す側)の考えている「見せ方・表現方法」や「お金のかけ方」が最も効果的だとは限らない。「いのちを輝かせる」ことが「未来社会」に根付くために、その「デザイン」をみんなにとっての「自分ごと」にしていくためには、怒涛のように毎秒生まれてくる情報が、どう万博を変えていくのか、育てていくのか、にかかっているといってよい。私も、あなたも、当事者である。大阪万博の真価は、開幕から時を経て、どう育ったか、によって問われるのではないか。
■調査部 主任研究員 若林 厚仁
「大阪・関西万博の費用対効果を考える」― 真に追求すべき効果は非金銭的な価値にあり ―
2025年4月より開催される大阪・関西万博(以下、万博)は、日本政府が主催する一大国際イベントとして期待が高まる一方で、当初想定から費用が大きく上振れするなど、費用対効果の面から批判的な声も上がっている。
万博に直接関係する費用である、会場建設費、運営費、基盤整備費などを積み上げると、費用総額は約7,600億円に達する。これに対し、チケット・グッズ等の売り上げ計画は1,160億円にとどまり、不足分は国や大阪府市の税金、経済界やパビリオン出展者の拠出金で賄われる。3,000億円程度の税金が投入されることを踏まえると、その費用対効果については議論を継続的に深める必要がある。
万博の経済波及効果は約2.9兆円と試算されているものの、経済波及効果と費用は表裏一体であり、費用をかけた分だけその効果は大きくなる。また、経済波及効果は生産額を足し合わせたフローの数字であり、資本のストックを表すものではないが、閉幕後の会場は原則更地に戻す必要がある万博の特殊性も、費用対効果の議論を難しくしている。加えて、大阪・関西地域だけを見ると費用対効果は大きいものの、その他の地域における経済的な恩恵は限定的であることも、他地域での事前の盛り上がりに欠ける一因になっていると思われる。
もっとも、金銭的な尺度で計りやすい短期的・直接的な価値ばかりに注目していると、万博がもたらす非金銭的な価値の大きさを過小評価してしまう恐れがある。具体的には、①各国・企業など出展者のSDGs対応とブランド価値向上、②次世代を担う人材の科学技術に対する知的好奇心の向上、③大阪・関西発の東京一極集中の是正と地方創生の推進、などが挙げられる。
GDPや経済波及効果は財貨・サービスの生産量を市場価格で捉えたものであり、万博が掲げる社会的課題の解決やSDGsの達成により生み出される経済厚生を測定することはできない。万博の真の費用対効果を考えるには、金銭で表せる短期的・直接的な価値だけではなく、次世代に残す長期的・間接的な価値についても考慮する必要がある。関係者・来訪者が開催期間にとどまらず、将来にかけてそれをどのように極大化するかを考えていけるかどうかが、後世における万博の評価を左右することとなろう。
<詳細は下記レポートご参照>
大阪・関西万博の費用対効果を考える ~真に追求すべき効果は非金銭的な価値にあり~

■調査部長/チーフエコノミスト 石川 智久
「大阪・関西万博に向けて」―地方創生とレガシー創出の努力が重要―
本年は大阪・関西万博が開催される万博イヤーである。開幕が目前に迫っているが、ぜひとも良いスタートを切ることを期待したい。
とはいえ、万博は半年間のイベントであり、開催期間が長いという特徴がある。そのため、開催期間中にバージョンアップしていけるという点もメリットとして指摘できる。実際、過去の万博を見ると、前半よりも後半の方が来客数も多くなり、盛り上がりも増していった。例えば、1970 年の大阪万博も開催初日の来場者数は事前予想の半分程度であり、関係者は肝を冷やしたが、その後は口コミで良さが広がり、最終的には 6400 万人を超えることとなった。開催中にも参加者の声をうまく吸収して、ピークを最終日に迎えられるよう努力していくことが重要である。
しかし、万博を一時的なお祭りで終わらせてはならない。日本経済や地域の活性化を促進するためのツールとすべきである。その観点から重要なことが 2 つある。
1 つは、地方創生のイベントとすることである。東京ではなく、大阪・関西で開催される意義の一つはそこにある。今回の万博は、会場に観光客を囲い込むのではなく、万博をゲートウェイにして、そこから全国の観光地に誘客することが期待される。インバウンドについては、有名観光地でオーバーツーリズムが問題となっている一方、地方の観光地においてはコロナ前の観光客数を回復していない。万博と地方の観光地がうまく連携することで、こうした問題を解決していくことが望まれる。
もう一つは、レガシーを創出することである。万博は、未来の技術のショーケースであることに加えて、SDGs や日本文化の発信を促進することも重要なコンセプトである。これらをうまく融合して新たな産業を作っていくことが大事である。特に大阪においては、万博後にカジノ付きリゾートである統合型リゾート(IR)が開業する。万博を契機に、大阪が世界に冠たる観光都市となる戦略を進めていく必要がある。
1970 年万博で太陽の塔を製作した岡本太郎氏は、かつて著書等で大阪への期待を熱く語った。具体的には、①ここが世界の文化の中心になるのだという、巨大な魂を誇る、②大阪ナショナリズムになってはならない、③超近代的な現代感覚で打ち出していけば、大阪は世界の最も魅力的な文化都市の 1 つになる、といった趣旨のこと等を述べた。長年にわたり地盤沈下が指摘されていた大阪・関西経済にとって、万博は再成長の起爆剤となりうるイベントである。大阪・関西の復活には、岡本氏の言葉を真摯に受け止め、上述の課題にしっかりと取り組んでいく必要があろう。
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