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<前編>Web3.0を活用した環境・社会的価値の可視化とオルタナティブな経済モデルの可能性

2022年10月25日 木村智行


 Web3.0やNFTなど様々な新しい言葉が世上をにぎわせています。一方で、実際に何を意味するものなのか、どこに使えるものなのか、明確なイメージを持つ読者は多くはないかもしれません。今回は、Web3.0の概念や現在、主流となっている事例を簡単に解説しながら、Web3.0を活用した環境・社会的価値の可視化とオルタナティブな経済モデルの構築可能性を提案したいと思います。
 まずWeb3.0について簡単に説明しましょう。Web3.0とは、「ブロックチェーン技術を基盤とした分散型ウェブ」を指します。Web3.0の定義はまだ統一見解がありませんが、ここでは弊社レポート「Web3.0トレンドを俯瞰する ~ブロックチェーン技術が実現する次世代のインターネット」に則りこの定義を採用します。そして、ブロックチェーン技術とは「特定の誰かが管理することなく、電子的に表現された価値(=トークン)の受け渡しができる技術」を指します。
 具体例として、価値の代表といえる「お金」でこの意味を考えてみます。現実の世界では、送金や決済のために銀行をはじめとした中央集権的な金融機関が介在します。ところが、ブロックチェーン上で価値を送り合うことができれば、銀行のような中央集権的な機関は不要です。(現状のWeb3.0においては、中央集権的な機能は存在していますがここでは簡略化します。)つまり、Web3.0とは、「管理者を置くことなく、インターネットを介して様々な価値の移転ができるもの」だと理解していただければと思います。
 では、このWeb3.0は何の用途に使われているのでしょうか。現状では、Web3.0の多くは特定の活動への資金集めに使われています。代表的な例として、Ukraine DAO *1があります。Ukraine DAOはウクライナの民間人や軍人を支援する資金を集めるために、Web3.0の一例であるNFTを使い誕生した組織です。NFTとはNon Fungible Tokenの略で、主に所有権をデジタル上で表現できるというWeb3.0の使い方の一つです。Ukraine DAOは、ウクライナ国旗の画像をNFT化して、暗号資産との交換を行いました。それによって、世界中から約675万ドル相当の暗号資産を集め、大きな話題となりました。他にもNFTを活用した国内の事例では、旧山古志村のNFTによるデジタル村民集めなどもあります。
 こうした事例の通り、Web3.0によって活動主旨に賛同する人からの資金を世界中から募ることが可能になったといえるでしょう。クラウドファンディングとの違いは、暗号資産の受け渡しについては、円やドルなどの法定通貨を前提とした決済手段を利用する必要がないという点です。例えば一般的な海外送金は国際的な銀行間ネットワークを通じて行われます。また、クレジットカードを使う場合は国際ブランド(Visaやマスターカードなど)のネットワークが使われます。いずれを使うにせよ、銀行やクレジットカード事業会社の審査・手続きを経る必要があります。一方で、Web3.0を使うことで、既存の仕組みを使うより、容易にかつ直接的に、支援を求める人が資金提供を受けられるようになります。(ただし、これはアンチマネーロンダリングや金融商品における消費者保護の観点から各国金融当局の規制の議論にもつながっているという別の側面も付け加えさせていただきます。)
 このように、グローバルな資金集めという点において、実現可能になった調達金額の規模や手続きの簡便さから、Web3.0は大きく注目されています。ただし、これらの事例はあくまで「暗号資産という、財務的価値もしくは財務的価値への転換が期待されている価値」を扱う手段として、Web3.0を活用しているに過ぎません。一方で、Web3.0つまりブロックチェーンの本質的な価値に目を向けると、別の可能性が見えてきます。それが、Web3.0を使った環境・社会的価値の可視化とその流通によるオルタナティブな経済モデルの構築です。中後編では、この具体的な活用事例をご提案したいと思います。

*1 DAO
Decentralized Autonomous Organization(分散型自律組織)の略。
Web3.0を運営に活用した組織形態。Discordというチャットツールを使い、ガバナンストークンという投票権による意思決定をデジタル上で行うのが現在の主流。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

関連リンク
    連載:Web3.0を活用した環境・社会的価値の可視化とオルタナティブな経済モデルの可能性
            
    ・【前編】
    【中編】
    【後編】
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