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第2回 ラウンドテーブル プライマリ・ケアチーム体制の整備

2022年03月10日 持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム


第2回ラウンドテーブル 実施レポート
第2回ラウンドテーブル 当日資料等

2021年に3つの柱からなる政策提言を公開

 株式会社日本総合研究所 持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム(以下「本研究チーム」)は2021年5月に中立的視点から「持続可能で質の高い医療提供体制構築に関する提言」と題した政策提言 を公開(※1)しました。
 わが国の医療制度は、国民の健康に大きく寄与をしている一方、少子高齢化、増え続ける財政負担などの諸課題に対する改革の必要性が訴えられてきたところです。新型コロナウイルス感染症拡大で、国民の関心が高まっている今こそ、将来世代も含めた国民が安心でき、持続可能で質が高い医療提供体制を構築するための国民的な議論を行い、必要な改革を速やかに実行することが必要です。しかし、これまでの日本の医療制度改革に関する議論は専門的であり、「社会的ニーズの最も高い医療資源を、将来のあるべき医療提供体制の姿を起点として、どこにどのように配分し、どう国民が負担すべきなのか」という、国民視点で分かりやすい議論が欠けていると考えます。
 そこで、本研究チームでは、あるべき医療提供体制の将来像を示し、その実現に向け、特に重要な論点を示し、この議論が、国民視点でさらに加速すべく貢献したいと考えています。
 我々は、持続可能で質の高い医療提供体制の構築に向けて、あるべき姿として、「国民の一生涯の健康を地域多職種連携で診ることができる持続可能な医療提供体制」を示し、その実現に向けた重要な論点として「給付と負担の均衡性の確保」「プライマリ・ケアチーム体制の構築」「価値に基づく医療の実装」の3点を示しました。そして、これらの論点を個別に議論するのではなく、包括的に議論している点が、この提言の特徴でもあります。
 参考:持続可能で質の高い医療提供体制構築に関する提言
    持続可能で質の高い医療提供体制構築に関する提言【追加資料】 
 
課題の議論を前に進めるための新たな会議体を設置

 2021年5月に提言を発表して以来、我々はさまざまな有識者の方々との議論を重ねて参りました。その中で、私達が示した論点の検討が進みにくい構造的な問題の共有に至りました。1つは、負担増を伴う選択肢も考えなければいけない、政治的に難しい論点である点、2つ目は、多くの関係者が同様の課題認識を持っているものの、議論の場が十分ではない点です。
 さらにこれらの議論を深めるためには、「あるべき姿を設定した中長期的かつ継続した議論」「既存制度の改善だけでなく構造的な変革も伴う議論」「政策課題に対する国民的理解・関心を高めるための取り組み」が必要と考えます。
 そこで、議論の時間や関係者の利害関係などに制約されず、現在十分に扱われていない論点を扱い、子どもや子育て世代、今後生まれてくる世代も対象とした議論が行える中長期的な視座を重視した議論の場を設定する必要性があると考えます。

今後の論点を整理すべく、第2回目としてプライマリ・ケアチーム体制の実装についての議論

 こうした認識のもと、2022年1~2月にかけて、有識者による議論の場(ラウンドテーブル)を3回設け、論点整理や今後への期待をうかがうこととしました。
 第1回は「給付と負担の均衡性の確保」、第2回は「プライマリ・ケアチーム体制の実装」、第3回は「国民が議論に参加するために」というテーマを扱います。
 今回はラウンドテーブルの第2回目として、プライマリ・ケアの実装、そしてこの議論とも関わる価値に基づく医療の実装のために今後議論すべき論点などを有識者の皆様と議論しました。具体的には、「検討を期待する論点はどのようなものか」「日本総研による新たな会議体に期待することは何か」との日本総研からの投げかけに対し、ご議論いただきました。

プライマリ・ケアの重要性やプライマリ・ケアの位置づけを整理すべき

 プライマリ・ケアによる受診行動の適正化は患者・医師・保険者にとって、三方良しとなる可能性が高いとの意見が提示されました。具体的には、患者にとっては重複投薬や検査の繰り返しが減る、複数疾患への対応がしやすくなる等のメリットがあり、医療従事者にとっては、働き方改革につながり、そして保険者にとって、無駄がない医療の実現によって医療費の適正化につながるということです。
 そして、COVID-19の流行時に、もしプライマリ・ケアが普及していれば、発熱外来の混雑は避けられ、オンライン診療も実行しやすかったのではないかという指摘もありました。この点に関し、エビデンスが構築され始めているオンライン診療が今後拡大されていくことで、プライマリ・ケアが実装されやすくなるとの指摘もありました。
 医療資源が限られている中で、新しい技術を活用しながら、皆保険を維持していくために、かつ、医師と患者の“信任”関係を維持していくために、プライマリ・ケアを実装していくことの重要性が登壇者の共通認識として改めて示されました。

 さらに、プライマリ・ケアの位置づけについて、今後議論が行われるべきとの意見もありました。例えば、公衆衛生・予防医療とプライマリ・ケアの関係性、病院での総合診療の位置づけ、地域包括ケア病棟の位置づけ、プライマリ・ケアと健康の社会的決定要因の関係性、プライマリ・ケアと健康経営との親和性等について検討するべきではないかとの意見が提示されました。

プライマリ・ケアを実装するために、日本に即した登録制・支払制度の検討を真剣に行うべき

 日本の医療保険制度はフリーアクセスが前提となっており、診療に応じた出来高払いとなっています。これによって、コンビニ受診(一般的に外来診療をしていない休日や夜間の時間帯における、本来は救急外来を受診する緊急性のない軽症患者の行動)が生じ、患者が不健康になればなるほど医療機関の収益が上がるといういびつな構造になっていることが指摘されました。この状況を踏まえると、プライマリ・ケアを担う医師の登録制度の導入を検討するための議論の必要性を主張する意見が多く出ました。
 フランス/ドイツ/スウェーデン等が相次いで登録制に移行しており、任意登録なども含めて、日本に即した制度の検討の余地があるとの指摘がありました。登録制は一見、患者の自由を阻害するように見え、患者にとってデメリットが大きいように見えます。しかし、医療資源が有限であることを鑑みると、患者が適切な医療を受けるためにはむしろ登録制の方が望ましいことも想定されます。「フリーアクセスの制限」ではなく、「適切な医療へのアクセス」、「信頼(信任)できる医師との継続的な関係構築」というポジティブなメッセージを国民に向けて発信することも必要との指摘がありました。
 現在の紹介状を持っていない場合の追加負担の仕組みに加えて、任意の登録制として、登録医療機関を持つ患者は自己負担や保険料を減らす等の国民に登録制が受け入れられるためのアイデアも出ました。

 さらに、出来高払いから包括払いへの移行に関する議論へ展開しました。医療機関から慎重論の多い包括払いにもメリットがあることが周知されるべきとの指摘がありました。例えば、人口集積度の低い地方圏では現行の出来高払いのままでは、今後病院・診療所の収入が減っていくことが想定され、むしろ包括払いの方が望ましいというものです。

プライマリ・ケアの担い手として医師の育成・配置について議論するべき

 プライマリ・ケアを担う医師として、総合診療専門医が挙げられます。この、総合診療専門医制度は、2021年から始まった制度で、今後毎年約百数十人程度の医師が資格を取得することが計画されています。しかし、全国的にプライマリ・ケアを担っていく医師の人数は不足しています。従って、この総合診療専門医の枠を広げるという方向性があるのではとの指摘がありました。一方で、一定の専門性を担保するためにも、安易に専門医取得レベルを下げるべきではないとの意見もありました。
 教育という観点では、プライマリ・ケアの臨床は病院研修では勉強しにくい点が指摘され、プライマリ・ケアの実習生を診療所に派遣する等教育の仕組みを再考する必要性も挙げられました。
 総合診療専門医の人数だけでは、プライマリ・ケアを担いきれないという現状認識は登壇者の間で一致していました。既に在宅医療を担っている医師等含めて、誰がプライマリ・ケアを担うかについて整理が必要との指摘がありました。
 加えて、このようなプライマリ・ケアを担う医師の養成目標も同時に検討するべきだとの意見もありました。
 安定して得られる報酬があり、ステータスがあり、教育体制をしっかりと確立していくことで、プライマリ・ケアを担う医師を目指す医学生が増えるのではないかという意見もありました。

 さらに、医師の配置問題にも言及がありました。日本は医療機関の開業の自由を認めていますが、その結果、都心に医療機関が集中し、地方で医師の数が不足しています。医師が不足している地域では、都道府県が医療機関の開業を促進する等、医師の配置を見直す動きも必要ではないかとの指摘がありました。

病診連携・医療と介護の連携・多職種の連携のあるべき姿について議論をするべき

 病診連携が重要であるのは言うまでもなく、診療所間、医師間での連携の重要性や、プライマリ・ケアと介護との連携、医療機関と市町村との連携が求められるとの指摘が多くの登壇者からありました。横須賀市での在宅医療介護連携等、地域での好事例の調査を行い、具体的な連携の在り方について提言するべきとの提案もありました。
 プライマリ・ケアにおける、薬剤師や看護師の重要性も何名かの登壇者から指摘がありました。
 薬剤師は日本に30万人程度おり、薬局・薬剤師ネットワークをプライマリ・ケアで活用できるのではないかとの提案がありました。
 そして、看護師についても、診療ができるNurse practitioner(診療看護師)を養成し、プライマリ・ケアを支えてもらうという選択肢も提示されました。
 英国では、地域のプライマリ・ケアチームと専門医行政が連携してサービスを展開している地域もあり、介護施設や精神科病院に関しても、急性期レベルから回復期、慢性期そして地域での在宅介護等のコミュニティーケアまで連携していることが指摘されました。このような海外の有望事例を踏まえて、日本に適した各ステークホルダーの連携の在り方を検討するべきとの指摘がありました。

プライマリ・ケアを推進する上で重要な保険者の役割について議論するべき

 医療機関は保険者と契約を結んで保険診療を提供しているため、保険者は医療費の支払い側として、プライマリ・ケアの実装において、重要なステークホルダーである点が改めて示されました。
 保険者の立場に立つと、医療費が増えている現状では、保険者がプライマリ・ケアを推進してしても良いのではないかとの意見がありました。例えば、健康保険組合が会社の近くの診療所と契約を結び、従業員の健康管理・診療をする等の形もありえるのではないかといった、保険者の役割についての提案もありました。さらに、都道府県が地域医療構想の推進や医療計画の策定などの医療提供体制改革を担っているため、自治体の役割も重要という意見も出ました。

アウトカム評価が難しいプライマリ・ケア領域での評価の重要性を議論するべき
 急性期医療と比較して、プライマリ・ケア領域ではアウトカム評価が難しい側面があることがデータ解析を専門とする登壇者から指摘されました。プライマリ・ケアは非常に個別化された医療であり、患者の背景が1人1人全く異なっており、そのデータをひもといて結論を言うことは非常に複雑になるということです。
 さらに、個別の医療を見ると、効果がないというエビデンスがある治療が慣習的に行われてしまうこともあるとの指摘もありました。例えば、抗菌薬利用に関する効果について厚労省がガイダンスを発出したが、その発出前後で、抗菌薬の処方量は変化しませんでした。これは、患者が抗菌薬を欲しがることも要因にあり、現場の医師として処方せざるを得なかったという側面があったということです。
 このような状況でありますが、困難であってもデータをできるだけ集めて、データに基づく俯瞰的な分析を進め、現場の医療従事者の意見を踏まえた、価値に基づく医療提供の議論が勧められることが望ましいとの示唆がありました。
 そして、質の評価が難しい中では、患者の語りや患者の情報発信も大事な評価指標となり、ナラティブを重視する医療社会学や医療人類学等の知見なども入れながらプライマリ・ケアの価値を示す必要があるとの意見も出ました。

新たな会議体への期待

 この議論を前に進めるために、多種多様な分野の方々が参画し、多様な角度から議論を行うことについての期待が多く挙げられました。そして、結論ありきや開催すること自体を目的にするような会議体にはならないように注意するべきとの指摘もありました。
 発信力という観点で、有識者のみだと発信力が限定的であるため、メディアとの問題・課題意識の共有も必要との示唆も挙げられました。
 プライマリ・ケアという視点では、プライマリ・ケア、総合診療医の良さを国民に伝えていくことも会議体の意義ではないかとの意見もありました。

今後のアクション

 今回のラウンドテーブルでの議論によって、プライマリ・ケアの実装に関し、今後検討が必要な論点の抽出ができました。そして、登録制・包括払いへの移行等、これまでの我々の提言に加えて新たに検討すべき論点についても多くの示唆が得られました。
 さらに、有識者より新たな会議体について、健康・医療分野における政策的課題を検討し、国民的理解の向上に貢献する点などについて意見を頂きました。
 そして、この第2回目のラウンドテーブルでの議論をもとに、当該研究チームでは、政策検討の一助となる新たな会議体として、日本総研としてのコンソーシアムの立ち上げを今後企画したいと考えております。引き続き、ラウンドテーブルでの議論を進め、コンソーシアム設立に向けた準備を進めてまいります。


参加頂いた方々
・コアメンバー
康永秀生 教授
東京大学大学院 医学系研究科 公共健康医学専攻 臨床疫学・経済学分野
堀真奈美 教授
東海大学 健康学部 東海大学大学院 人間環境学研究科人間環境学専攻
吉村健佑 特任教授
千葉大学医学部附属病院 次世代医療構想センター 千葉県医療整備課医師確保・地域医療推進室、元厚生労働省医系技官
西沢和彦 主席研究員
株式会社日本総合研究所 調査部

・メンバー(本テーマ有識者)
草場鉄周 医師
日本プライマリ・ケア連合学会理事長
仲井培雄 医師
地域包括ケア病棟協会 会長
佐藤主光 教授
一橋大学大学院 経済学研究科 国際・公共政策大学院
占部まり 様
宇沢国際学館 代表取締役
三原岳 主任研究員
ニッセイ基礎研究所 ヘルスケアリサーチセンター

・モデレーター
川崎真規 シニアマネジャー
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 ヘルスケア・事業創造グループ
兼 持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム 提言とりまとめ

<本件に関するお問い合わせ>
コンサルタント 小倉周人
E-mail: ogura.shuto@jri.co.jp

株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門
小倉周人川崎真規鈴木麻友山本健人
協賛:米国研究製薬工業協会(PhRMA)


(※1) 米国研究製薬工業協会(PhRMA)協賛
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