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【デザインによる仮説探索・検証型公共サービスの新たな価値創造】
番外編 地域の長期的な「ありたい姿」を創り出す未来洞察アプローチ

2021年11月18日 市岡敦子


 行政の現場で公共サービスを含む政策検討・実施をされている自治体職員を主な読者と想定する本連載では、市民ニーズや市民起点のアイデアを適切にくみ取り、柔軟に公共サービスに取り入れていく方法の一つとして、「デザイン」をテーマに考察を進める。極めて先行き不透明な社会環境における、市民のライフスタイルの変化や価値観の多様化、それに伴うニーズの変化・細分化などへの対応に、デザインの力を活用する可能性について理解を深めていく。
 今回は番外編として、長期的な「ありたい姿」を創り出すための未来洞察アプローチを紹介したい。

1.求められる長期的な未来への想像力
 少子高齢化や脱炭素など、数十年先を想定しながら解決策を策定すべき社会課題が、近年ますます増加している。そのような長期的な未来における社会課題について検討を行う際には、未来の社会は現在とは異なっているという前提で、現在の常識から離れて発想することが望ましい。社会経済環境の予測不確実性の高まりが認識されるなかでは、なおさらだ。しかし、前例主義などの圧力に流され、現状からのなりゆきの未来像しか描けず、結果、今と変わらない政策や施策しか考えられていない、という自治体も多いのではないか。
 本連載で取り扱っているデザインの分野、特にデザイン思考では、ユーザーを観察して得たインサイト起点で未来のニーズを見つけ出すが、未来の時間軸の設定は数年先程度と短期で設定することが多い。これは、デザイン思考が「(今存在する)生身の人間からニーズ・欲求・動機を理解すること」を重要視しているためといえる。
 長期的な未来を前提とする際、今現在の常識に囚われない発想を起点に政策や施策を検討する方法として、未来洞察(フォーサイト)のアプローチがある。

2.未来社会への想像力を磨く未来洞察
 未来洞察とは、想定外な変化を取り込んで、多様な参加者と複数の未来の可能性を発想していくアプローチのことをいう。デザイン(特にデザイン思考)では生身の人間を主な情報源にしているのに対して、未来洞察では人間のみならず技術やビジネスなどさまざまな社会変化に関する情報を発想の源としている。それら情報のうち不確実性の高い「未来の兆し」と捉えられるような情報も使って、「社会は今後どのように変化し得るのか」を種々様々に発想していく(詳しくはコラム「「想定外な変化」に “未来洞察”で備えよう」参照)。デザインのアプローチでは、多くのアイデアを作る「発散」のフェーズとそのアイデアから優れたものを選択する「収束」のフェーズを繰り返して仮説探索を行うが、未来洞察でも同様に、さまざまな未来の情報を取り入れて「あり得る未来」を多様に想像し、未来社会に関する仮説探索を繰り返して「ありたい未来」に収束させていく。
 未来洞察は、バックキャスト(※1)を行う起点となる未来像を作成する行為に当たる。総務省研究会「自治体戦略2040」や、第32次地方制度調査会「2040年頃から逆算し顕在化する地方行政の諸課題とその対応方策についての中間報告」など、地域政策でバックキャストの必要性が説かれるようになって久しく、実践する自治体も昨今増えている。しかし具体的な方法論が明示されていないこともあり、国等から提示された一つの未来像をそのまま地域に当てはめ、それを前提として今後の政策を検討している場合も多いのではないだろうか。
 一方、未来洞察では、未来像を一つに絞る前にさまざまな未来社会を自ら主体的に想像することで、立体的でオリジナリティの高い「ありたい未来像」を描くことを可能にする。起点となる未来像のオリジナリティが高いことから、バックキャストによって導出された政策・施策も独自性が高くなると想定される。

3.公的機関における未来洞察の実践例
 公的機関における未来洞察の導入は、主に海外政府で進んでいる。図表に挙げたイギリスやシンガポールのように、未来洞察専門の組織・プロジェクトを設けている国もある。その目的は、さまざまな未来を想定するフェーズを政策形成プロセスの中に組み込むことで、不確実な変化に向けて備えることだ。
 近年は国内での実践事例も増えつつある。例えば、経済産業省では、未来洞察アプローチによって作成した未来のシナリオを年表上にマッピングし、庁内の部屋(未来対話ルームと名付けられている)に掲示・公開して、庁内外との未来に関する対話や協働の促進を試みている。
 また、横浜市環境創造局でも同様に、未来洞察のアプローチで未来年表を作成した上で、そこからビジョンを策定し、バックキャストで政策・施策を検討する試みを実施している(横浜市については、詳しくは「未来年表を活用した、バックキャストでの政策検討 ~横浜市環境創造局の取り組み事例~」を参照)。



4.地域の未来を自ら創造する
 未来洞察とデザインとで共通しているのは、望ましい解決策や未来像に向けてアイデアを数多く出す「発散」とアイデアを絞り込む「収束」を繰り返す点、そして観察や検討の中で見つけた新たな発見を、既成概念にとらわれずに積極的に取り入れる点だ。また、どちらも想像力を駆使して地域の未来を主体的に多様に考える姿勢が求められている。
 コンピューターの父と呼ばれるアラン・ケイは、「未来を予測する最善の方法は、自ら未来を発明することだ」と言ったという。未来洞察やデザインは、地域に関わる人々が地域の未来を想像力豊かに検討し、創り出していく際の一助になると確信している。

(※1) バックキャストとは目標となる未来のあるべき姿を定め、そこを起点に現在を振り返り、今何をすべきか考える発想法

以 上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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