近年、急速な進化を遂げてきた生成AIだが、「現実世界の物理的な法則や時空間のつながりを正しく理解していない」という課題に直面している。例えば、動画生成でコップが倒れたにも関わらず中の液体だけが不自然に飛び出したり、視点が移動すると物体が変容・消失したりというような、物理的・時空間的な一貫性の欠如が大きな課題となっている。
この課題を乗り越えるブレイクスルーとして、いま大きな注目を集めている概念が「世界モデル」である。世界モデルの明確な定義は定まっていないが、本レポートでは「物理的な因果関係や法則といった現実世界を理解・予測するAI」と位置づける。人間が頭の中の「メンタルモデル」を用いて断片的な情報から理解・予測をするように、AI自身が世界の仕組みをシミュレーションするアプローチを指す。
世界モデルの応用範囲は幅広く、自動運転やロボットといったフィジカルAIをはじめ、自律型エージェントや人間行動を再現する社会シミュレーションに至るまで、多くの分野での活用が見込まれており、AI開発を次のステージへと加速させることが期待されている。本レポートでは、動画生成による学習・評価基盤や高度な自動運転シミュレータといった海外の主要サービスから、空間把握や人の心理状態・不安を予測して先回り制御を行う国内のサービスまで、近年の動向を紹介する。
一方で、世界モデルには「長期的な一貫性の獲得」や「物理法則の理解度を測る共通指標・ベンチマークの整備」など、依然として多くの課題も残されている。また、定義が曖昧なためバズワード化する懸念もあり、技術評価や社会的インパクトを客観的に見極める視座が求められる。
現実世界を理解する「世界モデル」の進展は、AIが真に社会に溶け込み、普及していく未来をさらに加速させうるものと考えられる。その新たな可能性を捉え、本レポートが自社ビジネスへの活用を検討するための一助となれば幸いである。
▼目次
はじめに
世界モデルとは何か
なぜ世界モデルが注目されるのか
フィジカルAIへの活用
世界モデルをめぐる動向
世界モデルの初期の研究
世界モデルの広がり
世界モデルのサービス事例(海外)
世界モデルのサービス事例(日本)
考察・今後の課題
まとめ
参考文献
▼執筆者
先端技術ラボ 山銅 康弘
先端技術ラボ 山銅 康弘
専門領域
SMBCグループにおけるクラウド開発に従事した後、2026年より先端技術ラボに所属。AIの技術動向調査の他、人文・社会科学的な側面からの研究も行っています。
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