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第10回:未来洞察の小説化を実践する その⑤「動機カラクリ」

八幡晃久 & SF-Foresightプロジェクト


 連載第10回となる今回は、ベーシックインカムが実現した後の「自治体の役割」について、改めて考えてみたい。実は、第6回でも、プロポーカープレイヤーを目指す男性をモチーフにしたショートショートにて、「夢を追いかける人を支える」という新たな自治体の役割を描いている。しかし、実際には、追いかけたい夢を持つ人は少数であろう。現代においては、「生きるためにやらなくてはならないこと(大きくは仕事)」をこなすことに忙しく、ゆえに、自身の夢ややりたいことと向き合わなくても、自尊心を持って生きていくことができる。だが、ベーシックインカム後は、そうではなくなってしまうかもしれない。 「やらなくてはならないこと」がはがされた時、人は、「やりたいこと」をどうやって見いだすのか?そのような問いを思い浮かべながら、インタビュー形式のショートショート小説に目を通してみてほしい。

タイトル:動機カラクリ

 「あなたが、やりたいことと出会った時のエピソードを、教えてください」

インタビュー①:32歳、男性、コンサルタント
 あれは、1年ぐらい前でしたかね。当時は仕事が忙しくて、かなり疲れてたんですけど、プロジェクトも一段落して、久しぶりにゆっくり休める土曜日を迎えたんですね。独身ですので、誰に邪魔されるでもなく、昼ごろまで寝て、おなかすいたなーと思って、なんとなく駅に向かって歩いてたんです。そうすると、なんだか、おいしそうなソースの匂いがしてきたんです。大阪出身なんで、懐かしいなぁと思って、匂いに誘われてふらふら歩いていくと、たこ焼きの屋台にたどり着いたんです。ソースの匂いに気づいてから、5分ぐらい歩いたので、こんなにソースって強力なんだっけ…とちょっと不思議に思いましたが。
 気のよさそうなお兄さんに500円払い、8個入りのたこ焼きを買いました。ソースもそうですが、関西風のだしが効いた生地で、おいしかったですね~。聞くところによると、お兄さんも、関西出身とのこと。親近感わいちゃいましたよ。
 と、おいしくたこ焼きを食べ終わって、もうちょっとなんか食べたいなーと思っていたら、お兄さんのスマホが鳴ったんですね。どうやら、子供が保育園で熱を出したみたいで、すぐに迎えに行かなくちゃいけないだって。聞くところによると、シングルファーザーで、近くに親戚もいないとのこと。「何かの縁なので!」と、急きょ、店番を頼まれちゃったんです。たこ焼きなんて、焼いたことがないけど、お兄さんが置いていってくれた眼鏡をかけると、ARでガイダンスがはじまり、その通りにすれば、なんとかおいしくできたと思います。食べもの屋さんになるなんて想像したこともなかったけど、「おいしい!!」って言ってもらえる、目の前で喜んでもらえるのは、新鮮でうれしかったんです。これがきっかけで、飲食店をやってみたいなと思ったんです。でも、せっかくやるなら、コンサルタントらしく、ちょっと変わった、ユニークな飲食店をやりたいと思ったんですよね。

インタビュー②:18歳、女性、学生の場合
 その日は、夏休みで、ちょうど1年ぐらい前だと思いますけど、すごく暑かったから、友達とコンビニの前でアイスを食べてたんです、「暑いね~、っていうたびに、暑くなるよね~」なんて言いながら。そこに、ちょっと透けたネコが、ヨタヨタと歩いてきたんです、いかにも、暑くて弱ってます~みたいな感じで。そりゃ、気になるじゃないですか、死にそうなネコがヨタヨタ、ですよ。コンビニで、牛乳のアイスを買って、ネコにね、ついていったんですよ。そうすると、公民館みたいなところの横にある木陰に進んでいって、す~って消えたと思ったら、その奥にネコが寝てたんですよ。始めは警戒したみたいですけど、アイスを少しずつ、食べやすいようにあげてると、慣れてきたみたいで。アイスをなめているネコを眺めてたら、急に動画がはじまったんですよね、公民館の壁がディスプレイになって。そのネコをめぐる住民のあれこれ、っていうのかな、ある人にとっては、そのネコが、飼いネコみたいになっていて、毎日餌をあげにきてるみたいなんです、おじいちゃんですけどね、一人暮らしみたい。でも、ある人は、家の車の前に「ふんが落ちてた!」って、ぶつぶつ言いながら掃除してるんですよね、「誰かが餌をやるから居ついちゃうんだよ」とか言って。友達と、思わず顔を見合わせましたよ。どうすればいいのって。そうすると、声をかけられたんです、近所の自動車修理会社の人らしいんですが、野良猫を保護して、引き取り手を探す活動をしているんだって。良かったら、手伝ってくれないかって。友達と一緒だったし、このネコがどうなっちゃうのか気になるというのもあって、保護されてるネコが暮らしてるところにいったんです。それからですね、ネコとか犬の、殺処分を減らすために何ができるのかなって考え始めたのは。

インタビュー③:27歳、男性、公務員の場合
 こんにちは。はい、モチベーション創出課の山本です。今日は広報部の取材でしたよね。よろしくお願い致します。はい、この部署で働き始めて、1年になります。それまでは、市の施設管理の仕事をしていました。施設管理は、どちらかというと、守りというか、内向きの仕事なんですけど、この課では、市民に対して働きかけたり、何かのきっかけをつくることができる点が、面白いなと感じています。
 難しいところ…ですか?そうですね、需要と供給のバランスというか、求められる役割や職種に応じて、モチベーションのボリュームをコントロールするのが、難しいですね。我々の課では、庁内のいろいろな部署と連携しながら動いているのですが、各課からあがってくる要望を見ながら、どんな市民を、どんなアプローチで動機づけして、その要望を満たしていくか、調整をしています。
 私がこの部署に異動して始めのころの案件は、やっぱり覚えてますね。1年前なので…えーと、例えば、この案件は、中小企業振興課からの要望ですね。「駅周辺に空き店舗が目立ち始めており、飲食店も不足気味。駅周辺エリアの振興のために、ひとひねりした飲食店を増やしたい」というものです。「ひとひねりした飲食店ってなんだよ!」と思わずツッコミを入れてしまいましたが、そういうことを考えてくれそうな人として、コンサルタントみたいな小難しいことを考えるのが好きな人をまず探しました。そのうえで、その方についてリサーチすると、今の仕事がかなり忙しくて、疲れ気味の様子でしたので、もしかしたら脈があるかなと思い、関西出身とのことで、たこ焼きで攻めてみたんですね。都市OSで、その方がたこ焼き屋さんに気づくように、ソースの匂いでお誘いして、うまいこと、たこ焼き屋さんの大将を体験してもらえるようにプログラムしました。結果ですか?これは、うまくいきまして、駅前の空き店舗を改装して、ロボット・ロカボ・カフェをオープンしてくれたんです!24時間営業で、基本無人なので、おひとりさまでも気兼ねなく入れたり、夜のお仕事をしているけど、健康をケアしたい人に人気みたいです。
 1年前というと、この案件も印象的でしたね。SDGs推進課から、「アニマルウェルフェアの啓発につながるような取り組みを進めてほしい」という要望がありましたので、ARのネコをつくりまして、特に若い人に関心を持ってもらいたいなと考えて、野良猫や野良犬の殺処分について考えるきっかけとなるようなイベントを設計したんです。ARのネコについていくと、殺処分に関する動画を見たり、野良猫の保護活動をしている人と出会ったりするようなイベントですね。100人ぐらいには体験してもらいましたが、中でも、夏休み中の女子高生は、保護活動に参加してくれるようになって、結果、アニマルウェルフェアをテーマにしたNPOを立ち上げてくれています。小学校などを訪問して、探求学習のプログラムとして、アニマルウェルフェアの授業をしているみたいですね。

 はい、この仕事が好きか…ですか?ええ、好きですよ。人の人生に直接影響を与えてしまうので、怖いというか、慎重にならなきゃ、という思いはあるんですけど、やっぱり、誰かがやりたいことを見つける、そのお手伝いをできているというのは、やりがいがありますよね。この仕事を通じて、いろいろな年代の方々が、やりたいことと出会う場面を目撃することになるんですが、やはり若い人、特に、中高生の人たちがやりたいことを見つけた後に、やりたいことに向かっていく、そのお手伝いがしたいな、と思うようになったんです。馬力のある人は、ロボット・ロカボ・カフェをオープンしたり、NPOを立ち上げたりできるんですけど、普通の人は、一足飛びにそこまでいけないですからね。なので、学校以外の学びの場として、進学目的の塾ではなくて、それぞれのやりたいことを実現する、そのサポートをする個別指導教室みたいなものを開設したいと思っているんです。ひとりひとりの相談にのりながら、どんな道のりがありそうか一緒に考えたり、先駆者的な人とお話できる機会をセッティングしたり、そんな活動がしたいなと思っています。できれば、近々、退職して、開業したいんですよね。
 え、教育課からはどんな要望があがっているか、ですか?え~と…突然の質問ですね(笑)
 あ、ありました、ありました。え~と、「中高生が抱える、それぞれの“やりたいこと”を後押しするような、多様な学びの場・機会が不足している」ということみたいです…。あれ、これって、私がやろうとしていること、そのものですよね…。私がこれをやりたいなと思ったのも、誰かが仕組んだストーリーなんですかね…。

(終わりに)
 ショートショートを読み終えた皆さんはどのような感想をお持ちだろうか?
 ベーシックインカム後の社会において、やりたいことを探す、やりたいことと出会うサポートを、自治体が担うこと自体は、悪いことではないだろう。ただ、そのベクトルが、行政課題を起点に、コントロールされているとすれば、どうだろうか?例えば、そのシステムが、全体主義的政治と結びつけば、どうなってしまうだろうか?動機をコントロールされることの気持ち悪さは、このあたりに起因しているのかもしれない。
 一方で、自治体によりモチベーションがコントロールされる未来像は、「現在に生きる私たちの動機は、本当に自由なものとして存在しているのか」という問いを投げかける。そもそも私たちは、「これが、あなたが消費すべき楽しいこと、かっこいいものですよ」とあおるメディア上での喧伝から、また、「こういうのがお好きですよね?」と言わんばかりに、個人の嗜好にあわせたコンテンツを次々とリコメンドしてくるSNSから、自由でいられるのだろうか?そう考えると、動機づけの主体が多様化すること自体は、悪いことではないのかもしれない。

 あなたは、どのような未来を、望みますか?

以上
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