JRI Future Signal#11 関係人口を創り出す「ふるさとVRtech」
~無意識な体験・記憶の活用~
(背景)「感覚に連動した記憶の想起」を利用した世界
従来、人間の脳における記憶の想起のされ方は、「突然フラッシュバックして無意識に思い出すもの」として考えられてきた。しかし最近、「感覚」を起点にすることで「記憶」を意図的に思い出せるような仕掛けや製品が徐々に生みだされている。例えば、富士通が開発した「香る単語帳」(参考:五感を使って記憶しよう)は匂いを起点として、記憶を呼び覚ます仕掛けになっている。
「感覚」と「記憶」をバーチャルマップ/バーチャル世界と連動させるような試みも徐々に発展してきている。例えば、「感覚」との連動としては、場所の匂いをマップ上に表示するアプリが登場している(参考:場所の匂いのマップ化)。また、「記憶」との連動の例としては、スマホカメラを通してみた外部のAR空間にメモを配置する形で記憶をさせる、情報記憶アプリ「moom」(参考:位置とともに記憶する)がある。
バーチャルマップ/バーチャル世界自体の発展も著しい。例えば、Google Earthを使って、過去30年間のデータまで遡れるようになっている(参考:地球の3D未来年表)。
これらの試みが発展し、「感覚によって記憶を想起させる技術」×「バーチャル世界/マップ」が組み合わせて使われるようになると、あるバーチャル世界に入り、そこでの「感覚」への刺激を通して、遠隔地からでも過去に行った場所での「記憶」を思い起こすことが可能になるだろう。
(変化の概要)「ふるさとVRtech」が作り出す関係人口/変化する文化教育
上で触れた「感覚によって記憶を想起させる技術」×「バーチャル世界/マップ」の組み合わせは、「ある場所への愛着を深める」ために用いることが一つの面白い使い方になるのではないだろうか。例えば、自分の地元のバーチャル世界を旅しながら、原っぱの土の匂いを同時に感じることによって、小さい頃にそこで遊んだ思い出が思い起こされたりするようになるはずだ。あるいは、街の風景と太鼓の音によって、お祭りの記憶が鮮明に蘇ってきたりするかもしれない。このように、「ある場所への愛着を深めるために用いられる、『感覚』によって『記憶』を想起させる技術」のことを、ここでは「ふるさとVRtech」と呼ぶこととする。
「ふるさとVRtech」によって、懐かしい体験ができるバーチャル世界が発展すると、バーチャル世界での事後的な体験を前提に、リアルな場所での体験の仕方も変化してくるはずだ。例えば、どこかを旅行する際には、感情や周囲の五感を記録するようなセンサーを携帯し、「この場所・感覚→この気分」が記録されるようになる。そして、旅行が終わった後も、いつでもバーチャル世界で同様の体験を思い出せるようになる。さらには、その反対として、ある気分になった際にその場所が思い出されるようになる。このようにして、日々の生活の中に、訪れた土地の記憶が埋め込まれていくことによって、別の場所にいながらも、なんとなく常にその場所を意識しながら生活する人が増えていくだろう(このような人々は、「進化した関係人口」とでも呼ぶべきだ)。
訪れてもらう地域の側でも、地域の伝統的な行事や特定の風景と、感覚・感情の関連性についての研究が進み、それをもとにした地域独自の新しい商品や体験がプロデュースされるようになってくるだろう。例えば、食生活に一見偏りがあるが実際には長寿の村があったとすると、その村の食習慣だけでなく、心理的に落ち着く風景等の地理的要因と感覚・感情等との関係が明らかにされ、「長寿に繋がるデトックス体験」のような滞在型の体験としてプロデュースされるようになる(関連する兆し:分散型ホテルでまちの生活体験)。もちろん、この体験はリアルに訪れる人に対してだけでなく、バーチャル世界上でも提供されるだろう。
また、郷土教育も進化していくだろう。その地域での暮らしと感覚・感情の結び付きを常に感じることが可能になることにより、地域の良さを日々の生活において具体的に認識する機会が増え、その地域の発展に貢献する「ローカル文化人材」が育っていくだろう(関連する兆し:文化観光を学び、生み出す専門職大学)。
(変化後の社会)「ふるさとVRtech」が新たなふるさととの出会いを生む
一度その土地に訪れた人が、進化した「関係人口」となっていくだけでなく、まだその土地に訪れていない人が、バーチャル上で再現されたその地域での体験を通じて、「新たなふるさと」となり得る場所を見つけるようになるかもしれない。
例えば、出身地が北海道であっても、バーチャル世界で宮崎の土地や食べ物、さらには人間関係を体験し、実はそちらの方が自分に合っていることを発見し、実際に宮崎を訪れてその場所を「新たなふるさと」として感じ、最終的には定住するようになるはずだ。
それぞれの人が、生まれた地域での「ふるさとVRtech」による文化教育を通じて、その地域の良さを発展させていく一方で、自分に合った地域を探し出す動きも同時に進み、結果として、より個性が強く、かつ、住んでいる人や関りを持っている人にとっては居心地のいい地域が多数生まれるようになるかもしれない。
背景となる未来の兆し
五感を使って記憶しよう
日本企業のタイラが富士通の開放特許で香る単語帳「FLAROMA(フラロマ)Remember’s(リメンバーズ)」を開発・発売した。何かを覚えたいとき、別の感覚とセットにして覚えるというのは、記憶の定着、呼び起こしにもよさそうだ。将来、大学の試験会場で匂いを嗅ぎながら試験に臨む学生たちがいるかも。
[出所]https://newswitch.jp/p/14152
場所の匂いのマップ化
場所の匂いをマップ化するアプリが登場。訪れたユーザーが評価する仕組み。匂い(臭いも含めて)を売りにする街が出てきそうだ。居住地や旅行先の選択基準の一つになるだろうか。
[出所]https://tabi-labo.com/291071/wt-digitalnative-smellmycity
位置とともに記憶する
情報記憶アプリ「moom」は、アプリを通して仮想の「メモ空間」をつくり、部屋にモノを配置する感覚で情報を管理できるツールであり、聴覚障碍者と共に開発した。こうした無意識に実施していた記憶をアプリを通じて自動的に位置に割り振られ記憶を鮮明にしていくのは面白い。障碍者をエクストリームユーザーとして取り込んでアプリ開発を行う動きは今後も続くかも。
[出所]https://moov.ooo/article/605995bb07e6fc52a1906bab?fbclid=IwAR1S59rdM0tuhabDf3l3NMTbsYQ4dFNMTKlEEzBirEgs6yakMdqkZjjqZ-U
地球の3D未来年表
Google Earthの3D地球儀に過去30年の地球上の変化を閲覧できる機能が付いたという記事。 what ifの線形予測を加えれば、国土開発、環境対策の3Dデジタル未来年表ができそうだ。
[出所]https://techable.jp/archives/153041
分散型ホテルでまちの生活体験
分散型ホテルとは、「町全体をホテルにする」というコンセプトの下、飲食スペース、宿泊スペース、浴場などの設備や施設が地域内に分散しているホテルの提供形態。日本でも、岡山の矢掛屋、東京のhanareなどが実践。コロナ後の旅の形態は、旅先の生活者により近づいていき、旅先との共存・共生を志向するようになっていく。
[出所]https://eleminist.com/article/475?fbclid=IwAR1YGiG5KpFdZ5QqplHP7ViNEQlFpawWxPsmfUY9Pih0kE3jRdDt4oYAt10
文化観光を学び、生み出す専門職大学
「芸術文化」と「観光」の関係を学び、地域経済を牽引する専門人材を育てる専門職大学が豊岡市に誕生した。これまでの地域の、目先を追う観光政策や若者の呼び戻し策とは根本的に異なる点に注目したい。
[出所]https://forbesjapan.com/articles/detail/41161/1/1/1?fbclid=IwAR1f9ZB-cGYRP5dbNarBxgRMuTUtRzsNJGlZEqQn7Cmk5yPTmfNYzyKOQP4
関連リンク:
◆スペシャルウェブサイト:デジタル社会の未来シナリオ