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JRI Future Signal#7 プライバシー共有で「共助のフラグ」を立てる


(背景)無意識のスマートセンシング技術で生活者のプライバシー情報を取得する
近年のスマートセンシング技術は日進月歩だ。さまざまなシーンにおいて、日常的に人の行動データや生体データなどを取得することが可能となった。得られたデータの活用にも注目が集まっている。
例えば、2020年9月にFitbit社が発売したスマートウォッチ「Fitbit Sense」は、皮膚電気活動反応を計測できるセンサーを搭載することで、皮膚の発汗量による些細な電気量の変化を計測し、ストレス状態をチェックできる。


また、ウエアラブル端末を「装着する」といった個人の行動や、特別なセンサーを使わずとも個人データを収集することも可能になりつつある。例えば、ワシントン大学の研究では、金属で表面処理を施したポテトチップスの袋から反射される光を利用して、周囲の環境を画像として復元できたという(参考:光沢あるものは何でもセンサーになる)。
このように、社会全体で、さまざまな物体・デバイスから無意識で個人のプライバシー情報を収集する技術が活用されていくだろう。


(変化の概要)プライバシーは「遠隔×無意識的」に共有される
プライバシーの共有方法と密接に関連するのが、実は共助の仕組みだ。


デジタル技術の登場以前では、ご近所の井戸端会議での近況の共有、勝手口の近くを通った際の隣人の状況確認等、近所での情報共有がプライバシー共有の基礎となり、お裾分け等の共助がその上に成り立っていた。
つまり、自身が意図せずとも、プライバシー情報が近所に共有されており、それに基づいて助け合いが成り立っていた。すなわち、「近接×無意識的」なプライバシー共有による共助が成り立っていた。


一方、現在では、プライバシー共有の場はツイッターやLINE、インスタグラムなどのSNSに移行している。お互いの投稿をもとに近況を把握し合い、Twitterでつらそうな投稿を見ると、心配になってLINEで個別にやり取りして相談に乗る、といったコミュニケーションが一般化している。


この現状は、場所が離れていてもコミュニケーションができるというメリットがある一方で、自ら投稿しないと自分の状況を他人に知らせることができず、助けてもらえない、というデメリットもある。つまり、「遠隔×意識的」なプライバシー共有による助け合いとなっている。


無意識なスマートセンシング技術の発達によって、プライバシーが共有可能になった社会では、過去と現在の双方のメリットである、「遠隔×無意識的」なプライバシー共有に基づく共助の仕組みが構築できるのではないだろうか。
具体的には、家庭内にあるIoT化したスマート家具から収集されたプライバシーを公開したい相手に常時公開することで、得られたプライバシー情報の異変(これを「共助のフラグ」と見立てる)に気付いた誰かがその当事者を手助けする社会が実現するのではないだろうか。


例えば、現在でも恋人や友人同士で位置情報を共有し合う若者(参考:位置情報を共有し合う女子高生)が存在するように、普段は別々に生活する家族と照明の点灯時間を共有することで双方の健康や生活の変化に気を配るようになるだろう。
あるいは、仲良しの大家さんと互いの冷蔵庫の在庫ストックを共有することで、ちょうど良いタイミングで食材のお裾分けをし合うようなシーンが日常生活の一部となるだろう。


(変化後の社会)共助のフラグを共有し合うネットワークを構築する
この社会では、冷蔵庫や椅子などあらゆる生活用品から生活者の情報を取得することができるようになるだろう。
開示することによって共助を促すフラグを立てることができ、共助が期待できるというメリットが大きいためだ。


そのため、個々人は信用のおける人に一部のプライバシーを切り取って提供することで、自分好みの共助のフラグを共有し合うネットワークを構築するようになるのではなかろうか。
家族に対しては室内の全照明の点灯時間や冷蔵庫のストックまで共有するが、仲良くなったばかりの友人にはIHヒーターや電気ポットの使用時間だけを選んで共有するようになる。


かつては「近接×無意識的」で行われていたプライバシー共有の在り方はSNSの普及によって「遠隔×意識的」に変化する。スマートセンシング技術によってこれが「遠隔×無意識的」な情報共有の在り方に変化するだろう。


情報共有を起点にした共助の在り方もそれに伴って変貌し、都市化によって希薄になっていた他人との共助の関係がより密接になるかもしれない。


背景となる未来の兆し
光沢あるものは何でもセンサーになる
ポテトチップスの袋のような光沢のある物体を利用して、その周囲にある光景を再現するアルゴリズムが開発された。この技術を使えば、カメラなどのセンサーをわざわざ大量に設置せずとも、3D空間を再現できる可能性がある。比較的簡易な設備を使って、自宅内等をVRで再現して他者と共有する、等の応用も期待できそうだ。
[出所]https://wired.jp/2020/05/12/how-to-see-the-worlds-reflection-from-a-bag-of-chips/?fbclid=IwAR0pNHJQIn2SMLc7qP5voHMa8-F4XGAQNyOCH0GurhCUoQQqankvUw2Ywhs


位置情報を共有し合う女子高生
女子高生の間で位置情報を共有し合うアプリ「ゼンリー」が人気を得ている。行動が常に見透かされてストレスに感じるという意見がある一方、待ち合わせや都合がつく友達探しに便利だという。多少なりとも便利な側面があれば、個人情報を公開する傾向が強まっていると考えられる。
[出所]https://japan.cnet.com/article/35134797/



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