リサーチ・アイ No.2025-044
中東情勢緊迫化でアジア経済に下押し懸念 ― 原油価格2倍ならアジアの実質GDP成長率は▲1.4%pt下振れ、原油の調達困難化のリスクも ―
中東情勢は緊迫化。原油供給を巡る懸念の高まりから、原油価格は一時、5月から2割程度高い水準へ上昇。その後、米国トランプ大統領によるイスラエル・イランの停戦合意の発表などを受けて、足元では6月初旬の水準に下落。もっとも、情勢は引き続き不透明であり、紛争の激化により原油価格が再び上昇するリスクは残存。
原油価格上昇は、アジアの生産を下押し。原油純輸入国が太宗を占めるアジア経済では、原油価格の上昇による交易損失の発生が実質総所得を悪化させることで家計消費や設備投資への需要を下押し。仮に原油価格が2割高い水準で推移した場合、アジア全体の実質GDP成長率は▲0.3%pt低下すると予想。また、世界の石油輸送の要衝であるホルムズ海峡が封鎖される最悪シナリオでは、原油価格は約2倍の140ドル程度へ上昇する恐れ(栂野[2025])。この場合、アジア全体の実質GDP成長率は▲1.4%pt低下する見込み。(栂野裕貴[2025]、「イスラエル・イラン紛争は原油価格を押し上げ- ホルムズ海峡封鎖に飛び火すれば140ドルに急騰、わが国GDPを3%下押しも- 」日本総合研究所、リサーチ・アイ、No.2025-041.)
加えて、原油調達の困難化による経済下押しリスクにも要警戒。アジア各国・地域は、ホルムズ海峡経由の原油調達への依存度が高く、中国・インドは3割、韓国は7割、その他アジアは2割程度依存。原油調達が滞る場合、電力セクターや石油・化学などの製造業を中心に悪影響が生じる恐れ。さらに、中国は、イラン産原油にも1割弱を依存。4月に米国が、イラン産原油に関与する中国の精製業者や輸送企業、タンカーに制裁を課した影響で、中国のイランからの原油輸入は▲7割減少。このため、中国は、他国産の割高な原油を調達せざるを得ないほか、一部の石油製品の生産に支障が生じる懸念も。
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