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Economist Column No.2026-059

加速する金利上昇、銀行・信金における今後の留意点

2026年09月10日 大嶋秀雄


日本銀行(日銀)は、2024年3月にマイナス金利政策を解除して以降、段階的に利上げを進めている。トランプ関税による経済・金融市場の混乱等で利上げが難しい時期もあったが、24年7月、25年1月、25年12月、26年6月と、概ね年2回ペースで追加利上げを進め、現在、政策金利は1995年以来の1.0%となっている。さらに、足元では、インフレ圧力の強まりなどを背景に、日銀が利上げペースを加速するとの見方が広がっている。一方、長期金利(10年物国債利回り)も、予想インフレ率の上昇や日銀の利上げ加速観測、高市政権の財政拡張スタンスに対する懸念などもあって、9月1日には一時3%を超えるなど、約30年ぶりの水準にまで上昇している。
金利の上昇は、銀行や信用金庫(信金)にとって、預貸利ざや(貸出金利-預金金利)の改善を通じて、収益改善につながりやすいが、必ずしもプラスの影響ばかりではない。今後、金利上昇が加速する場合、とくに、地方銀行(地銀)や信金といった地域金融機関においては、以下の点に留意する必要がある。

■金融機関間の収益格差の拡大
預金金利は利上げに連動して各金融機関が概ね横並びで引き上げる傾向がある一方、貸出金利は、個々の融資契約で決まるため、金融機関ごとの差が出やすい。とくに、地域金融機関では、固定金利貸出の割合が高く、貸出金利への利上げの反映が遅行する傾向がある。実際、24年度は、2度の利上げが行われたが、地域金融機関の多くでは貸出金利の引き上げが遅れて預貸利ざやが改善せず、金融機関間の収益格差が広がった。25年度は、利上げが25年12月の1度にとどまり、それまでの利上げの貸出金利への反映も進んだため、金融機関間の格差は縮まった(注1)。
今後、利上げペースが加速すれば、金融機関間の格差が再び広がる可能性がある。また、金利水準が上がるほど、融資先が貸出金利の引き上げに難色を示したり、預金獲得競争が活発化して資金調達コストが上昇するなどして、預貸利ざやが改善しない金融機関が増えることも考えられる。

■円債評価損の拡大
円債評価損の問題も深刻化する。日銀によれば(注2)、地銀・信金が保有する円債(国債・地方債、国内事業債等)の評価損が拡大しており、26年3月末時点で、地銀では約4兆円、信金では約3兆円に、それぞれ前年度から約1兆円増加している。
とくに足元では、信金の円債評価損が問題となっている。円債評価損の金額は地銀の方が大きいものの、地銀は株式評価益等で有価証券評価損益はプラスで、これまでも株式売却益と相殺する形で評価損のある円債の売却を進めてきた。一方、信金は、有価証券運用の大半が円債で、評価損のある円債を売却すると売却損で利益を削ることになるため、対応が遅れた面がある。その結果、信金の円債評価損は純資産(26年3月期 8.2兆円)の4割近くまで拡大している。
業績面でも評価損への耐久力の差が出ている。26年3月期決算をみると、地銀はコア業務純益が2.6兆円(前年比+34%)、当期純利益が1.7兆円(同+37%)と大幅な増収増益となった一方、信金は業績回復が遅れており、コア業務純益は0.6兆円(同+17%)、当期純利益は有価証券売却損の計上もあって、0.2兆円(同▲17%)の減益となった。信金はコア業務純益の約5倍の円債評価損を抱えている。有価証券の平均残存期間(デュレーション)をみても、地銀の約5年(26年3月期末)に対して、信金は約7年(同)と長く、金利上昇で評価損が膨らみやすい。
もっとも、多くの地銀・信金は、自己資本比率規制上の国内基準行であり、満期保有目的とすれば円債の時価評価は不要であり、財務の健全性評価には影響しない(注3)。しかし、財務上問題はなくとも、評価損の積み上がりはリスクを取った経営判断を難しくしたり、将来的に健全性の問題に波及する恐れがある(注4)。
とりわけ、成長投資・成長戦略への影響を注視する必要がある。地域金融機関を取り巻く経営環境をみれば、「金利のある世界」の到来もあって、メガバンク・ネットバンク等との地域・業種を超えた競争が激化し、銀行ビジネスのデジタル化や多様化も加速するなど、経営環境が大きく変化している(注5)。こうした変化に取り残されず、ビジネスの成長性・持続性を高めるためには、人材・システム等に積極的な成長投資を行い、競争力のあるビジネスモデルを構築していく必要がある。円債評価損への対応を優先した結果、成長投資を後回しにしてしまうと、変化に取り残され、ビジネスの持続性を損なうことになりかねない。円債評価損への対応も重要であるが、成長戦略をしっかりと推進していく必要がある。

■金利上昇の融資先への悪影響
金利上昇の実体経済への影響にも留意が必要となる。現状、金利上昇による目立った悪影響はみられないが、今後、金利が一段と上昇すれば、企業・家計の資金繰り等に悪影響が広がる可能性がある。銀行・信金は、融資先企業に対して、金利上昇局面でも債務返済能力を維持・改善できるように、収益性・生産性向上等を支援していくことが求められる。家計についても、住宅ローンの大半は変動金利で、借入期間も長期化しており、金利上昇の影響を受けやすい。5年ルール・125%ルールといった返済額の急増を抑制する仕組みはあるが、返済総額の抑制ではなく、返済を先送りするものであり、住宅ローン債務者に対して丁寧な説明や返済シミュレーションの提示などを行い、家計の資金繰りが悪化しないよう、先回りした対応が求められる。

■わが国のクレジットサイクル・景気循環の転換
個別の融資先への影響評価・対応に加えて、マクロの観点での金融・経済への影響の把握も重要となる。金利(金融)と経済は密接な関係があり、一般的に、クレジットサイクルと景気循環は相関する。金利上昇が企業・家計の経済活動を抑制したり、株式・不動産などの資産価格を下押しすることによって、クレジットサイクルが転換し、景気後退につながる(注6)。
わが国の景気循環をみれば(注7)、1990年代のバブル崩壊・金融危機はクレジットサイクルの転換であったが、それ以降は、ITバブル崩壊(景気の山:00年11月)、世界金融危機(同:08年2月)、欧州債務危機(同:12年3月)、米中貿易摩擦・コロナ危機(同:18年10月)といった外的ショック等による景気後退であり、わが国のクレジットサイクルが転換したものではなかった。今後も、米国経済の腰折れ等、外的ショックによる景気後退のリスクもあるが、わが国で金利が上昇するなか、30年ぶりに、国内のクレジットサイクルの転換によって景気後退が生じる可能性がある。
国内でクレジットサイクルが転換する場合、金融緩和で金融不均衡や低生産性企業などが蓄積され、金利上昇によって、徐々に悪影響が広がっていくため、対応が後手に回りやすい。深刻な経済・金融危機を回避するためには、予兆を捉え、フォワードルッキングに対応することが重要となる。
こうした“予兆”の把握では、金利上昇の企業・家計への影響を直接把握できる銀行・信金の役割は大きい。銀行・信金は、政府・日銀とも連携を強化して(注8)、わが国全体の金融・経済環境の実態把握に貢献して、フォワードルッキングな対応につなげていくことが期待される。


(注1)詳細は、大嶋秀雄「地方銀行における業績改善の広がりと今後の課題― 利上げペースの加速で再び格差が広がる可能性も」日本総研リサーチアイNo.2026-021(2026年6月11日)参照。

(注2)日本銀行「2025年度の銀行・信用金庫決算」金融システムレポート別冊シリーズ(2026年7月)参照。

(注3)ただし、金融庁の「早期是正措置」では、「含み損を加えた純資産価値が負の値である場合や、負になることが明らかに予想される場合は、業務停止命令を発出することがありうる。」と規定されており、評価損が大きく膨らんだ場合には金融機関は対応を迫られる。すでに「早期是正措置」の基準に抵触する信金も出てきており、25年7月に、栃木信用金庫が信金中央金庫(信金中金)から40億円の資本支援を受けた。本年も稚内信用金庫が信金中金から200億円の資本支援を受けることを発表している(26年9月予定)。信金中央金庫は、従来、不良債権増加などによる自己資本比率の低下への対応として資本支援を行ってきたが、25年7月に、円債評価損への対応でも資本支援を行えるよう支援制度を見直した。ただし、信金中金の支援余力は3千億円程度とされ、無尽蔵に支援できるものではない。

(注4)円債評価損の問題は、評価損のある債券の売却を迫られることで顕在化する。たとえば、業績不振や不祥事などによって預金の流出が加速し、評価損のある債券の売却を迫られるケースなどがある。(例:米国のシリコンバレーバンク破綻の事例…大嶋秀雄「わが国地銀の預金流出リスクをどうみるか」時事通信『円債投資ガイド』2023年4月7日配信、参照。)

(注5)詳細は、大嶋秀雄「地方銀行を取り巻くビジネス環境と成長戦略の重要性~多様化×激化する競争環境の生き残り戦略~」日本総研リサーチ・フォーカス No.2025-041(2025年10月6日)参照。

(注6)詳細は、大嶋秀雄「岐路に立つ米国のクレジットサイクル」日本総研リサーチ・フォーカスNo.2025-023(2025年6月20日)参照。

(注7)内閣府経済社会総合研究所「景気基準日付」
https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/di/hiduke.html

(注8)日銀も「政策金利の水準が一頃に比べて上昇しているなかにあっては、金融環境がどのように変化していくかを点検していくことも重要」(『経済・物価情勢の展望(2026年7月)』)と指摘している。


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