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Economist Column No.2025-038

二地域居住はメリットの一方でバブル懸念も―持続的普及を目指せ

2025年08月06日 藤波匠


地方創生2.0が動き出すタイミングで、「二地域居住」に脚光が集まっている。二地域居住には、以下に示す様々なメリットや利点が期待される一方で、そうした取り組みが過熱することにはリスクもある。本稿では、期待されるメリットとリスクの両面から二地域居住を捉え、地方創生のあるべき姿について考える。
二地域居住とは、大都市に暮らしや仕事の拠点を置く人が、地方にももう一つ拠点を置くライフスタイルである。もちろん、親の介護や実家の家守など、必要に迫られて二地域居住をしている人は以前からいた。また、高所得層では、別荘を所有して、休みのたびに訪れるケースもある。現在焦点が当たっているのは、仕事や余暇の拠点として、あるいは積極的に地域コミュニティとのかかわりを築くために、地方に拠点を置く人を増やすことである。
国は、地方創生2.0の柱として、二地域居住を含む関係人口の増加を目指している。例えば、「ふるさと住民登録制度」を新たに創設し、地方での都市住民の活動や暮らしをサポートするとしている。関係人口については、10年後の数値目標も設定された。
人口流出や担い手不足に直面している地方自治体においても、二地域居住に対する期待は小さくない。2014年にスタートした地方創生1.0における10年間の取り組みにもかかわらず、人口流出と経済の縮退に直面した地域が多いためである。
二地域居住が広がれば、都市住民と地方の双方にメリットをみいだすことができる。二地域居住には、ヘルスケアの増進や地域住民とのふれあいによる豊かさの享受などといった実践する本人たちのメリットのほか、受け入れ地域にも、コミュニティの持続性向上や域内消費の増加、さらには都市住民との交流による新たなビジネス創出など、地方創生2.0が目指す「強い経済」と「豊かな生活環境」の創出につながることが期待される。
さまざまなメリットが期待される一方で、二地域居住バブルの懸念もある。二地域居住という考え方の広がりは、今に始まったことではないが、地方創生2.0基本方針で柱に位置付けられたことから、全国で一斉に支援団体が設立され、間もなく関連事業がスタートする。
この構図は、地方創生1.0で号砲が鳴った移住促進政策に重なる点も少なくない。移住促進政策は、集計すれば、移住者は劇的に増えているものの、実態として、地域からの人口純流出の状況を改善するには至っていない。そればかりか、特典の付与による近隣の自治体間で移住者の奪い合いが生じていることも指摘されている。
移住促進政策の問題は、人口流出の最大の原因が質の高い雇用が地域から失われていることにあるにもかかわらず、それを改善することはできないまま、数少ない移住希望者の奪い合いに終始したことである。この10年、東京と地方の企業の生産性格差が拡大したという指摘がある(注)。本来、地方自治体はそうした状況を改善するべきであったが、産業振興は思うに任せず、結果的に移住者獲得合戦がクローズアップされることとなった。
足元の二地域居住政策においても、同様の状況に陥ることを予見させる要素が散見される。関係人口創出の切り札的存在である「ふるさと住民登録制度」については、都市住民に選んでもらおうと、魅力的な返礼品や特典を揃えた登録者獲得競争の過熱が懸念される。また、地方創生2.0の基本姿勢には、「若者や女性にも選ばれる地域づくり」があるが、二地域居住的なライフスタイルは、移住同様、どちらかと言えば中高年男性に選好される可能性がある。近年、東京圏の人口移動の状況を見ると、中高年男性のみ転出超過で、若年男性と女性は転入超過傾向が強まっている。これは、地方創生1.0以降推奨されてきた移住やテレワークといったライフスタイルが、中高年男性に好まれていることの表れであろう。
「若者や女性にも選ばれる地域づくり」を柱にするのであれば、雇用の再生、地域産業の生産性向上、ジェンダーギャップの解消などが地方創生の本丸であり、資源投入の方向性を見誤るべきではない。そのうえで、都市住民と地方の双方にメリットが期待される二地域居住は、地域特性を生かした節度ある取り組みにより、長きにわたり双方が良好な関係性を構築できるよう、丁寧な普及を進めるべきであろう。くれぐれも特典のバラマキ合戦に堕してしまってはならない。


注 村瀬拓人、西岡慎一「東京と地方で広がる生産性格差 ―「集積の経済」で高度化する東京、最低賃金に影響も―」日本総合研究所リサーチ・フォーカス No.2025-027 2025年07月29日



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