Business & Economic Review 2010年12月号
【特集 成長戦略とグローバル化】
新興国におけるインフラ市場での「勝ち組」を目指して-真の「ジャパン・パッケージ」構築を急げ
2010年11月25日 山田英司
要約
- 経済成長の牽引役は、先進国から新興国に着実にシフトしつつあり、新興国においては社会インフラの新設需要が増加している。一方、社会インフラの整備・維持に関しては、財政と技術という課題から新興国が自国で対処できず、先進国にとってのビジネスチャンスとなっている。
- こうした状況下、本年6月に政府は「新成長戦略」を発表したが、その重要施策の一つとして「パッケージ型インフラ海外展開」の名のもと、新興国、とくにアジア地域に向けての社会インフラ市場での日本企業の連合軍によるプロジェクト受注獲得を、政府支援のもとに積極的に推進することを標榜している。
- しかしながら社会インフラ市場の拡大によるビジネスチャンスの存在に着目しているのは日本だけではない。社会インフラの整備でノウハウを蓄積した欧米企業はもちろんのこと、近年では韓国・シンガポール、さらには中国などが国家のバックアップを得て社会インフラ市場への参入を進めており、厳しい競争が予想される。
- 社会インフラビジネスの競争優位は、価格、品質、持続性という三つの項目で評価されると考えられる。「ジャパン・パッケージ」の競争力を確保するためには、これらの項目において多くの改善の余地がある。とくに財務的持続性をいかに発揮するかという点で、日本においても新興国、とりわけアジアに通じるPFI/PPPの枠組みを構築することが非常に重要となる。
- さらに、日本企業にとって単に市場に参入するだけでは意味が無い。企業の最終的な目的は企業価値の向上であり、新興国への参入は、利益創出の一つの手段である。厳しい競争環境において当該マーケットで利益を創出することは容易ではないため、参入企業においてはリスクに応じて立ち位置を柔軟に変えていくことが必要であるとともに、現在の国内中心の組織構造を見直す必要がある。
- 国際競争力を有する真の「ジャパン・パッケージ」とは、単に対象となる新興国に向けて、社会インフラ形成のための建設・機器を一まとめにして輸出することではなく、資金調達や維持管理も含めた事業への取り組み、さらには社会インフラの構築、維持に関する政策・人材提供という支援の提供までが含まれる。これらを踏まえ、「ジャパン・パッケージ」を具体的に進めるため、民間企業の経営としてとりうるリスクを勘案したうえで、適切な役割分担を明示・実践することが、将来の社会インフラビジネスを担う事業者の育成につながるものと考える。