アジア・マンスリー 2026年10月号
中国の成長分野における赤字企業の増加
2026年09月29日 関辰一
中国では、赤字企業が増加している。とりわけ、成長分野における増加が顕著である。この要因の一つは、し烈な企業間競争による選別である。また、赤字でも潜在力が評価される次世の成長企業も多い。
■成長分野における赤字企業の増加
近年、中国では成長分野における赤字企業の増加が顕著である。上場企業数に占める赤字企業の比率(赤字企業比率)は2019年の9.6%から2025年に26.9%へ急上昇している。赤字企業の業種分布をみると、2019~22年は、新型コロナウイルス対策として実施された厳格な外出規制や不動産不況を受けて、飲食・宿泊業上場企業(以下、上場企業を省略)や不動産業など非製造業を中心に増加した。一方で、2022~25年には、情報通信機器・電子部品・デバイス、はん用・生産用・業務用機械、電気機械、化学工業で赤字企業が急増している。これら4分野だけで全体の上昇分の約6割を説明できる。
これらの分野は中国製造業の代表的な成長分野である。実際、この4分野の付加価値額の増加率は、いずれも中国製造業の平均値を上回る。中国政府が重点的に育成してきたハイテク製造業も、これらの分野に多数含まれる。たとえば、5G基地局や半導体は、情報通信機器・電子部品・デバイスに分類される。ロボットは、はん用・生産用・業務用機械に含まれる。太陽電池や蓄電池は電気機械、バイオ医薬品や有機化学素材は化学工業に属している。
情報通信機器・電子部品・デバイス製造業の近年の動きをみると、2019年頃から世界的に通信規格が4G(LTE)から5Gサービスへの移行がみられ、2022年11月にChatGPTが公開された。これらが、同分野の成長の追い風となっている。足元では、一般の消費者や企業がAIサービスを日常的に利用できることが示されたことで、AI向け端末や半導体、データセンターの需要が急増している。こうしたなか、多くの企業が開発・製造・販売の強化に注力しており、同分野の付加価値額は2022年の7,800億元から2025年に9,100億元へと増加し続けている。その一方で、赤字企業数は同期間に113社から198社へ増加し、赤字企業比率は17.2%から30.1%へと急上昇している。
■企業間競争を通じた選別
成長分野でありながら赤字企業が増加している理由の一つは、し烈な企業間競争である。市場シェアを巡って、設備投資競争や価格競争が過熱している。情報通信機器・電子部品・デバイス製造業についてみると、2022年から2025年の期間における固定資産残高の増加率(+35.4%)は、付加価値額の増加率(+16.9%)を大きく上回る。これは、供給能力が需要を上回るベースで拡大していることを示している。また、消費者物価指数(CPI)は同期間に+0.4%とほぼ横ばい、そのうちサービス価格は賃金上昇などを反映して同+2.2%上昇している一方で、財(モノ)の価格は製造業における供給超過により同▲0.7%下落している。情報通信機器価格の下落幅は▲3.5%と財全体と比べても大きい。
企業間競争を通じた選別が進んだ結果、利益は競争力の高い少数企業に集中している。情報通信機器・電子部品・デバイス製造業の利益総額に占めるトップ1%企業の利益の割合が2022年の24.0%から2025年に43.3%へと、大きく上昇している。
有力企業は「国内チャンピオン企業」であると同時に「グローバル・チャンピオン企業」としてのポジションを形成しつつある。
■赤字でも潜在力が評価される次代の成長企業
ただし、赤字企業を敗者としてひとくくりにすることはできない。近年、世界的には赤字であっても成長性が高い企業に対する投資家の関心が高まっており、中国においても同様な赤字企業が少なからず存在している。
情報通信機器・電子部品・デバイス製造業についてみると、赤字企業の2社のうち1社は投資家が高い関心を示している企業である。上海総合株価指数は、2023年初の3,089ポイントから2025年末に3,969ポイントへと+28.5%上昇した。2025年の赤字企業198社のうち2023年時点で上場していなかった20社を除くと178社となる。この178社のうち96社(53. 9%)の当該期間における株価上昇率は、上海総合株価指数の上昇率を上回る。
この相対株価パフォーマンスの良い96社の特徴の一つは、研究開発や無形資産への投資に積極的である点である。96社の2022年のR&D集約度(研究開発投資/売上高)の平均値は9.6%、無形資産残高の対付加価値額比率も60.5%に達している。無形資産には、コンピュータのソフトウェア、特許、著作権、顧客や仕入れ先との関係などが含まれる。これに対し、相対株価パフォーマンスの悪い赤字企業82社のR&D集約度は6.5%、無形資産残高の対付加価値額比率は38.9%にとどまる。
このように、中国の成長分野における赤字企業の増加は顕著であり、その背景には企業間競争による選別だけでなく、潜在力が評価される次代の成長企業が生まれていることも大きい。
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