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アジア・マンスリー 2020年8月号

2020~21年の中国経済見通し

2020年07月30日 関辰一


中国経済は想定以上のペースで回復している。もっとも、在庫調整、外需の停滞、所得不安が重しとなり、回復ペースは鈍化する見通しである。2020年は+1.4%成長、2021年は+8.6%成長と予想する。

経済活動は想定以上のペースで回復
中国では、新型コロナ感染のピークアウトを受けて、経済活動が回復傾向にある。4~6月期の実質GDP成長率は前年同期比+3.2%とプラスへ転じた。

足元では、供給の急回復が成長率をけん引している。近年、企業活動に対する政府の影響力が高まるなか、中国政府による経済活動の再開指示を受け、企業が操業を急いで再開した。この結果、工業生産は早くも4月から前年同月比+4%程度の増加に転じた。

需要側の統計をみても、輸出は足元で前年比プラスへ持ち直した。マスクなどの医療用品、テレワーク・5G関連の情報通信機械などの需要が拡大したほか、コロナ前に受注した分が出荷されたためである。

政府公表の季調値から試算した固定資産投資も6月に前年比プラスに転じた。内訳をみると、不動産開発投資とインフラ投資の拡大が顕著である。政府が3月に不動産価格抑制策を緩和したほか、政策金利を引き下げ、中小企業向けの銀行融資拡大を指示した結果、不動産市場への資金の集中がみられる。政府がインフラ投資計画の前倒しを要請したこと、国有企業が5G関連投資を積極化したこともあいまって、建設機械の稼働率は前年を上回る水準へ回復した。

小売売上高はいまだに前年割れながら、持ち直しの動きをみせている。とりわけ、家電と自動車の販売は急回復した。従来、中国政府は電気自動車の普及に向けて、ガソリン車に対して購入台数を厳しく規制してきた。しかし、3月以降は需要刺激策としてガソリン車に対しても購入補助金を拠出し、購入規制を緩和する動きが各地でみられる。例えば、広東省広州市は2020年3月から年末まで1台当たり3,000元の補助金を支給する。

生産回復を主因に、政府が重要視する雇用環境にも改善がみられる。国家統計局の「2019年農民工観測調査報告」によると、2019年末時点の出稼ぎ労働者は1億7,425万人であった。2月末時点では1億2,251万人という同局の発表を勘案すると、新型コロナの感染拡大により約5,000万人の出稼ぎ労働者が仕事を失ったとみられる。2月の失業率の公式統計は6.2%だが、新型コロナで仕事を失った出稼ぎ労働者および新型コロナ前から仕事を得られない農村部人口を計上すると、潜在的な失業率は一時的に20%まで急上昇した可能性がある。もっとも、国家統計局の4月末の臨時調査によると、出稼ぎ労働者数は新型コロナ前の9割程度まで回復した。したがって、約3,500 万人は職場に復帰し、潜在的な失業率も大きく低下しているとみられる。社会保障費の減免や企業への銀行融資拡大などもあいまって、企業倒産の急増、雇用悪化、消費減少という負の連鎖を回避している。

先行き回復ペースは鈍化へ
今後を展望すると、的を絞った活動制限の下で中国経済は回復傾向をたどるものの、足元のペースでV字回復を続ける可能性は低い。

まず、製造業の生産増に需要が追い付かず、在庫が急増している点が注目される。主要月次統計の水準をみると、5月の小売売上高、固定資産投資、輸出は昨年12月をそれぞれ▲7.6%、▲8.0%、▲1.0%下回った一方、工業生産と工業在庫はそれぞれ+0.3%、+6.0%上回った。実需を伴わない在庫が大きく積み上がっているため、今後、生産抑制の動きが顕在化すると見込まれる。実際、7月入り後の6大電力会社の石炭使用量は再び前年水準を下回るようになった。これは、工場の操業率が低下していることを示唆する。

加えて、世界経済の停滞によって、輸出は再び減少に転じるとみられる。国家統計局の製造業購買担当者指数(PMI)をみると、輸出向け新規受注はリーマン・ショック時に匹敵するほど落ち込んでいる。日銀短観に相当する中国人民銀行アンケートの輸出向け新規受注DIは、さらに厳しい状況を示している。

内需をみても、家計や企業は所得不安を払しょくできず、個人消費・設備投資の回復力は弱いものになろう。中国人民銀行の消費動向調査の結果をみると、収入の見通しDIは統計開始以来の最低水準のままである。今のところ雇用調整や収入減は免れているが、いずれ企業がコロナ・ショックで受けたダメージを従業員に転嫁すると考えられる。また、民間企業は資金繰り難に直面しており、総じてみると設備投資に慎重である。

以上より、年後半の成長ペースは鈍く、2020年は+1.4%成長と44年ぶりの低成長になると見込まれる。2021年は、前年の水準が低いため、その反動でやや上振れ、+8.6%成長になると予想する。もちろん、新型コロナ流行の状況次第では、成長率が大きく下振れる恐れもある。
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