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アジア・マンスリー 2019年11月号

中国の景気対策効果と政策スタンス

2019年10月28日 関辰一


中国政府の景気対策の効果は、インフラ投資、自動車販売、民間投資の3つの分野で表れるとみられる。

ただし、政府は経済成長率目標を引き下げる方針であり、内需刺激策も小粒にとどまる公算が大きい。

インフラ投資は底入れ
中国では、景気減速が続くなか、政府が矢継ぎ早に景気対策を講じている。これまでの政策効果は、具体的には以下の3つの分野で顕在化するとみられる。

第1は、インフラ投資である。政府の昨年前半までの投資抑制方針によって与信と債務の急拡大に歯止めがかかった一方、地下鉄や空港、高速道路など数多くのインフラ整備プロジェクトが中断した。しかし、昨年後半には投資抑制策の手綱を緩めたため、一部のプロジェクトが再開され、インフラ投資は底入れした。

本年入り後は、地方債の発行枠が引き上げられ、金融機関による地方債引き受けも積極化した。さらに中国政府は9月、調達資金を着実に消化するよう要請し、地方政府は10月末までに調達資金を残さずプロジェクトに配分するよう義務付けられた。2020年の地方債発行枠の発表前倒しも決まった。この結果、来年分の地方債が本年10~12月期に発行され、インフラ投資の回復に寄与すると予想される。

自動車販売と民間投資も下げ止まりへ
第2は、自動車販売だ。自動車販売台数は昨年後半に大幅減少したものの、本年入り後は下げ止まりの動きがみられる。とりわけ、地方で人気の排気量1,600㏄以下の小型車の販売が回復している。

7月1日から始まった新たな排ガス規制による販売への悪影響は事前に懸念されたほど大きくなく、むしろ景気対策によって地方経済が安定化しつつあることが自動車需要の下げ止まりに結びついている。

今後を展望すると、自動車販売は地方経済の回復や販売てこ入れ策を受けて緩やかに持ち直すとみられる。ビッグデータやAIなどIT産業の隆盛で活気づく貴州省貴陽市政府は9月、環境問題の改善や渋滞緩和を理由に、他の都市に先駆けて自動車購入規制の撤廃を決定した。今後、他の都市においても購入規制を緩和・撤廃する動きが広がり、自動車販売の回復に寄与する見通しである。

第3は、民間固定資産投資である。足許にかけては、2016年からの投資急拡大の反動が出ているほか、米中貿易摩擦の激化や企業収益の悪化を受けて、民間投資の低迷が続いている。

しかしながら、ここにきて企業部門の収益悪化に歯止めがかかったほか、政府・当局が複数の投資促進策を打ち出している。具体的には春以降、半導体集積回路とソフトウェア産業に対する企業所得税の減免を打ち出した。地方政府も産業補助金を導入している。

中国人民銀行も9月、預金準備率を8カ月ぶりに下げるとともに、新しい政策金利LPR(最優遇貸出金利)を2カ月連続で引き下げた。さらに、中小企業や製造業向け融資を拡大するよう要請している。これらを受けて、すでに情報通信機器製造業などの固定資産投資は持ち直しつつある。

以上3点から、年内には景気減速に歯止めがかかり、成長率も6%台をキープするとみられる。

大規模な景気対策には消極的
ただし、中国政府はリーマン・ショック後のような大規模な景気対策を講じることには消極的である。大規模な景気対策が、過剰設備・過剰債務を深刻化させるリスクを懸念しているとみられる。

中国の企業債務残高の対GDP比は2016年まで急上昇し、その水準はすでにバブル期の日本を上回る。企業が設備投資だけでなく、膨大なリスクの高い金融資産投資も行ってきたため、その裏で債務が膨張した。加えて、地方政府がインフラ投資や不動産開発投資をするために、融資平台と呼ばれる特別目的会社を用いて資金調達してきたという要因もある。

そのため、政府はリスク管理を強化している。地方政府の資金調達を例にみると、中国政府がコントロールしにくい融資平台からの調達を抑制する一方、地方債発行による調達を緩和し、その発行上限や発行基準を中国政府が機動的にコントロールしている。リスク管理を犠牲にしてまで、インフラ投資を増やすつもりはない意向の表れといえよう。

加えて、サービス業の拡大によって、6.5%以上の実質GDP成長率に拘らなくとも、雇用の安定を確保できるようになったことも大きい。出稼ぎ労働者の就職先も、工場労働者からスマートフォンを利用したランチのデリバリーサービスなどへと多様化しつつある。

このように、政府は経済成長率目標を引き下げる構えであり、先行きの内需刺激策は小粒にとどまる公算が大きい。
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