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アジア・マンスリー 2021年10月号

コロナ禍の東南アジアから広がる供給網の混乱

2021年09月29日 野木森稔


東南アジアでは、ワクチン接種率が伸び悩むなか厳格な活動規制による景気下押し圧力が続く。ベトナムを中心に工場稼働制限により供給遅延も発生し、サプライチェーンを通じた影響も注視する必要がある。

■東南アジアで続く厳しい活動規制
東南アジア諸国では、本年半ば以降、経済活動規制が強化されたことを受けて景気が大きく低迷している。東南アジアの製造業PMIは6月以降急速に低下し、8月は域内の国全てで判断の分かれ目である50を大きく割り込むなど、好調な欧米とは対照的な状況となった。新型コロナ禍での活動規制は、個人消費はじめ内需を下押していることに加え、東南アジアでは工場の稼働制限も厳しくなるなど製造業の生産活動への悪影響も目立つ。

東南アジアで厳格な経済活動制限が続く背景には、ワクチン確保が遅れ、接種率が伸び悩んでいることが挙げられる。9月13日時点のワクチン接種率(完了ベース)は、マレーシア(53.3%)を除けば、ベトナム(5.7%)、インドネシア(15.4%)、フィリピン(15.6%)、タイ(17.7%)で、世界平均の30.1%を大きく下回る。足元では先進国によるワクチン提供が増え、状況は改善に向かっているが、冷凍での輸送や保存、接種するための医療態勢など様々な課題があり、接種を急速に拡大することは簡単ではない。新規感染者数は、フィリピン(9月1~15日平均:19,336人、100万人当たり178人、以下同じ)、ベトナム(12,371人、127人)、マレーシア(19,072人、579人)で増加が続いている。インドネシア(5,891人、22人)、タイ(14,374人、206人)では減少傾向にあるが、ワクチン接種率が低いなか、活動制限は小幅にしか緩和できていない状況である。東南アジアでは活動制限継続により、年内の景気は下振れリスクが高い状態が続くと予想される。

とりわけ、ベトナムは活動規制が厳しく、経済が極めて苦しい状況にある。工場操業の条件が非常に厳格なため(製造業の従業員に対し住宅地からの通勤を認めず、「労・食・住」を工場内に集約することが必要)、多くの工場が操業を停止していることもあり、8月の鉱工業生産指数は前年同期比▲10.0%と7月の同▲2.7%からマイナス幅を拡大させている(右下図)。供給制約により輸出は同▲1.7%(7月:同+11.9%)と減少した。輸出財別では、履物(同▲39%)、木製品(同▲30%)、衣服・繊維製品(同▲11%)の減少が全体を押し下げた。

なお、近年、先進国において製造業の海外拠点を中国から分散する経営戦略「チャイナ・プラスワン」が進められ、ベトナムは生産移転先の最有力国となっていた。しかし、足元のベトナム経済の失速は、そうした動きにも影を落とす。ベトナム以外の東南アジアの国でも、経済不振が続いており、サプライチェーンにおける存在感が高まっていない。実際、中国では、8月分の輸出が前年同月比+25.1%と前月の同+18.9%から伸び率を大きく高めているが、これは東南アジアの工場に代わって中国の生産ラインが稼働率を上げた可能性が一因として指摘されている。

■サプライチェーンへの波及、日本企業への影響と注意点
東南アジアでの活動規制強化、とりわけ工場稼働制限は同地域の製造業の生産を下押しするとともに、サプライチェーン全体に混乱をもたらしている。特に自動車産業では大きな問題となっており、自動車製造に使われるワイヤーハーネス(車用組電線)とマイコン(車載半導体)の供給が不足している。わが国では、ワイヤーハーネスの輸入をベトナムに依存している。ワイヤーハーネスは、一般的に電線を束ねる工程で人手を必要とすることが多く、活動規制の影響を受けやすい。ホーチミンでの厳格な規制が9月末まで延長されたことなどを考慮すると、供給難は当面続くことが見込まれる。一方、マレーシアにはマイコンなど半導体の生産拠点が集中している。同国での工場稼働停止がマイコンの供給不足を通じて世界の自動車産業に大きな影響を与えており、年初から続く世界的な半導体不足に拍車をかけている。生産拠点があるペナン州などを含め、マレーシアではワクチン接種が進展しており、工場稼働の再開も早晩進むとみられる。しかし、需要サイドか早期に工場のフル稼働を求めているなかで、十分な供給力を回復するまでには時間がかかる可能性がある。

日本の輸入財は、ワイヤーハーネスに加えて履物や衣類などでベトナムへの依存度が高いが、その他の財ではタイへの高依存が目立つ。タイにある鶏肉の下処理工場などで新型コロナ感染が発生したことで、日本でのタイ産冷凍食品の販売が9月半ば以降停止するとの報道もある。タイでは、9月から店内飲食などの規制が緩和されているが、「厳格最高管理区域(ダークレッドゾーン)」に指定されているバンコクを含む29都県においては、夜間外出の禁止や在宅勤務の徹底などが引き続き求められている。

日本企業にとっては、ベトナムやマレーシアでの工場稼働規制が自動車産業に与える影響にとどまらず、タイの規制の行方が様々な産業に影響をもたらすリスクにも警戒する必要があろう。




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