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【フードテックと社会課題への挑戦】
デジタル活用による食品ロス削減と事業機会創出の可能性

2021年04月13日 佐藤善太


 国内外で注目の集まる食品ロス削減の取り組みには、デジタルの活用が大きな役割を果たす。本稿では、食品ロス削減に対する社会的要請や、デジタル活用の動向を確認する。またその上で、日本総研の取り組みに触れながら、フードチェーン全体をデータを用いて最適化し、食品ロス削減と事業機会創出を両立していく重要性について述べる。

1.食品ロス削減に対する社会的要請
 食品ロスの削減は、2015年9月の国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)のターゲットの一つであり、2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減させることが目標となっている。日本でも、食品リサイクル法の基本方針(2019年7月公表)において、食品関連事業者から発生する事業系食品ロスを、2000年度比で2030年度までに半減させる目標が設定された。さらに2019年10月には食品ロス削減推進法が施行され、国・自治体・事業者・消費者それぞれに、目標達成に向けた取り組みを進めることが求められている。
 食品ロス削減は、食料の安定確保や貧困対策、資源の効率的な活用、環境負荷の軽減といった社会課題解決に結び付くが、同時に新たな事業機会の創出にも貢献する。需給バランスのずれを是正してフードチェーン全体を効率化し、従来廃棄されていた食品に価値を持たせれば、コストの削減と売り上げ拡大の両面から食品産業に関わるプレーヤーがメリットを享受できる。食品ロス削減は2030年までに6,850億ドルの事業機会を生むとの試算(※1)もあり、事業者にとっては社会課題解決への貢献とビジネスの拡大を両立し得る、重要テーマといえるであろう。

2.食品ロス削減に関するデジタル活用の動向

 食品ロス削減の機運が高まる中、図表1に示すとおり、それに貢献し得るデジタル活用の取り組みも近年数多く登場している。ここでは、(1)生産・輸送、(2)流通・外食、(3)家庭消費の各段階における国内外の取り組み動向を確認していきたい。



(1)生産・輸送におけるデジタル活用動向
 食品の生産・輸送段階では、食品の安全性や鮮度を保ち、保存期間を延ばすための加工・包装技術の開発が行われている。例えば、防菌・防カビ・防虫加工技術や、温度・湿度の制御や酸素・二酸化炭素・エチレンなどのガス排出によって食品の状態を保つ包装技術が挙げられる。
 これらに加え、デジタル活用の取り組みとして注目されるのが、食品の生産・出荷履歴や、輸送時の温度・湿度情報などを記録するコード・タグの導入である。記録された情報を、食品の鮮度に応じた価格設定(後述するダイナミックプライシング)などに幅広く活用することで、食品ロス削減に貢献することが期待されている。
 使用するコード・タグとしては、バーコード・QRコードの他、近年低廉化が進みつつあるRFIDタグなどの電子タグも選択肢となる。経済産業省では、食品ロスの削減や店舗オペレーションの効率化を念頭に置き、2017年4月にコンビニ各社と「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」(※2)を行うなど、かねてから電子タグの食品流通への活用を推進してきた。さらに2020年度には、食品産地からネットスーパー、家庭に至るまでのフードチェーン全体でRFIDを活用し、食品ロス削減を図る実証事業(※3)を行っている。日本総研も参画したこの実証事業については、後段の「3.今後の展望」で改めて触れる。

(2)流通・外食におけるデジタル活用動向
 食品製造から卸・小売りまでの流通過程や、外食産業における動きとしては、例えば期限の近い食品や、売れ残りの食品の取引を仲介するフードシェアリングサービスの活用が挙げられる。飲食店・小売店の売れ残り品を通常の半額以下で消費者に販売するデンマーク発のサービス「Too Good To Goは、15カ国・3,000万人超のユーザーが利用する。日本でも飲食店の売れ残り品を消費者に安価に提供するサービスで、食品ロス削減に向けて全国の自治体とも連携している「TABETE、生産者・食品流通業者と食品を求める外食店・企業・団体などを主にBtoBでマッチングする「tabeloopなどが注目を集めている。また、食品事業者からの寄贈品をフードバンクとマッチングするサービス(※4)も登場している。
 このほかに注目されるのが、ダイナミックプライシングである。イスラエルのスタートアップ・wasteless社では、POSデータと在庫情報に基づく機械学習によって消費期限別に商品の適切な価格を導き、電子棚札に表示するソリューションを欧米各国で提供する。スペインのあるスーパーでは、ソリューションの導入によって食品廃棄を32.7%削減し、6.2%収益が上昇する成果が得られた(※5)。廃棄されるはずであった食品を販売することによる収益の上乗せに加え、プライシングの自動化や廃棄に伴う店舗での作業が効率化されることもこのサービスの魅力である。
飲食店での食品ロス可視化に貢献するデジタル活用の動きもある。英国のwinnow solutions社は、独自の重量計と画像 認識AIによって、日々ごみ箱に捨てられる食品の重量と種類を判別し、コスト換算するソリューションを40カ国以上で提供する。どのような食材がどの程度捨てられ、いくら無駄なコストが生じたのかが可視化される仕掛けである。データに基づき仕入れや調理法などを見直すことで、導入した飲食店では40~70%の食品ロスと、2~8%の食材コストを削減しているという(※6)

(3)家庭消費におけるデジタル活用動向
 家庭で食品ロスを減らすには、食材を必要な分だけ購入し、適切に在庫管理を行って、計画的に使い切ることが求められる。最近では、スマート家電やアプリがこれらのプロセスを手助けする機能を提供している。
 例えば、サムスン電子の冷蔵庫のうち「Family Hub」機能を搭載するモデルでは、庫内カメラでどこからでも在庫を確認できる。さらに画像認識AIによって食材を自動判別し、調理レシピを提案する。足りない食材はタッチパネルから直接注文することもできる。アイルランド発のスタートアップが提供するレシピアプリ「Drop」は、専用キッチンスケール(Drop Scale)と組み合わせて使うことで、食材の使い切りに役立つ。自宅にある食材を計量すると、その分量に応じたレシピをアプリが提示する。不足する食材がある場合には、アプリから代用品を提案してもらうこともできる。
 これらのスマート家電やアプリは、家庭での食材管理・調理体験を快適にすることを目的に開発されているが、結果として食品ロスの削減にも貢献するものとなっている。

3.今後の展望~データを活かしたフードチェーン全体の変革へ

(1)データを活かしたフードチェーンの全体最適化
 ここまでに見てきたように、フードチェーンの各段階においてデジタル活用による食品ロス削減の動きが見られ、今後の広がりが期待される。しかし、2030年までに食品ロスを半減させるという大きな目標を達成するには、個別最適化の視点だけでなく、フードチェーンの全体最適化を図る視点も重要となる。
 全体最適化の鍵になると考えられるのが、食品に関わるデータの可視化と共有の仕組みである。図表2に示すとおり、食品の生産・出荷、流通・在庫、鮮度、販売・消費に関わるデータが可視化・共有されることで、生産サイドでは需要を見極めながら生産計画を組み立て、マーケティングにも役立てることができる。流通・小売り・外食事業者は、鮮度情報等を活かした食品のダイナミックプライシングや、販売実績に基づく消費者個人の嗜好に応じた商品・サービス提案が可能となる。流通・在庫状況を見極めつつ、食品在庫のBtoBでの取引、期限の近い食品のBtoCでの販売といったフードシェアリングに取り組むこともできる。こうして食品ロス削減につながる多様な食品購入の選択肢が生まれることは、消費者にとっても大きなメリットであり、一人ひとりが消費行動を見直すきっかけともなるであろう。



(2)日本総研実践例~RFIDを活用した食品ロス削減の実証
 上述した日本総研の参画する経済産業省の実証事業は、データに基づくフードチェーンの全体最適化を目指す取り組みの一例である。
 この事業では、全国の食品産地に協力を得て、生鮮品・日配品約60品目にRFIDタグを付与した。さらにRFIDによって個別に流通履歴が管理された食品をeコマースサービスで消費者に販売した。その際、消費者には食品ごとの鮮度(採れたて度)と、それに応じてダイナミックプライシングされた価格を提示し、自分に合った商品を選択できる仕組みとした。加えて、商品購入後も変化する鮮度を可視化し、今の鮮度に合ったレシピを提案するアプリを提供して、家庭での食材の使い切りを促した(※7)
 なおこの事業は、日本総研に加え、伊藤忠インタラクティブ株式会社、株式会社イトーヨーカ堂、凸版印刷株式会社、三井化学株式会社の連携の下で行われた。今後、各社とともに実証成果を検証し、本格的なサービスの事業化を目指す予定である。

(3)全体最適化に向けた課題とその解決に向けて
 コロナ禍で食品流通のあり方が見直しを迫られている今は、変革に向けて動き出すチャンスともいえる。消費者においても、社会課題解決に資する商品・サービスへの関心は高まっている。単なる啓発活動に止まらない、食品ロス削減と事業機会創出を両立する仕組みづくりが、消費者からも求めているのである(※8)
 ただし、フードチェーン全体の変革の取り組みは始まったばかりであり、実現に向けて乗り越えるべき課題も多い。例えば、図表2でも触れているとおり、業態を超えたデータ流通・活用の仕組みを築くことや、その際に事業者間で共通化すべき「協調領域」と各社の創意工夫の余地を残す「競争領域」を切り分けることが課題として挙げられる。加えて、それらの論点についてステークホルダーが合意形成していくためのコーディネーションも求められる。日本総研では、上述の実証事業における経験も活かしつつ、フードチェーンの全体最適化に向けたこれらの課題解決にも貢献していきたいと考えている。

(※1)The Business and Sustainable Development Commission, 2017, “Better Business Better World”,
(※2)電子タグの低廉化をはじめ一定の条件が整うことを前提に、2025年までにコンビニ各社が全ての取り扱い商品の電子タグによる個品管理を実現することなどを宣言したもの。
(※3)経済産業省委託事業「令和2年度流通・物流の効率化・付加価値創出に係る基盤構築事業(IoT技術を活用したスーパーマーケットにおける食品ロス削減事業)」。
(※4)株式会社クラダシが2021年2月より開始。詳しくは同社プレスリリースを参照。
(※5)wasteless社公表資料参照。
(※6)winnow solutions社ウェブサイト参照。
(※7)実証事業の詳細については弊社プレスリリースを参照。
(※8)損保ジャパン日本興亜株式会社「社会的課題・SDGsに関する意識調査」(2019年7月実施)によると、社会的課題の解決やSDGsの達成に向けて消費者が企業に期待する役割の第1位は「社会的課題の解決に資する商品・サービスの開発・提供」(39.6%)であった。「人材や知識の提供」(14.0%)や「社会貢献活動の拡充」(12.8%)といった啓発・CSR活動よりも、事業を通じた社会課題解決が期待されていることを示す結果となっている。同調査の詳細についてはこちらを参照。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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