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【フードテックと社会課題への挑戦】
連載開始にあたって

2021年04月13日 和田美野


1.フードチェーンにおけるイノベーション(フードテック)の加速
 「フードテック」という言葉を耳にすることが多くなってきた。各種メディアにおけるフードテックという言葉の出現回数を確認すると、2019年から2020年にかけて、その数は3倍以上に増えている。まさに2020年はフードテック躍進の年であったといえるのではないか。フードテックは、「フード(食品)」と「テクノロジー(技術)」を掛け合わせた言葉である。特定の業界や技術を指すものではなく、包含する範囲は広範囲にわたる。本連載では、フードテックを「フードチェーン全体(生産、製造・加工、流通、販売、消費)におけるイノベーション」と定義することとする。
 フードテックという言葉自体は新しい言葉ではなく、少なくとも1980年代には利用されていたようである。この頃のフードテックとは、単に食品製造業等における新たな技術を意味していたようである。他方、昨今のフードテックという言葉は、前述の通り単なる技術適用ではなく、新たな技術も活用しつつ業態の変革も目指すイノベーションを指すものとなっている。この流れは、2009年頃のアメリカから開始されたという見方がされている。また、特にここ最近、フードテックという言葉をより一般的に普及させた要因としては、ビヨンドミート(米国)やインポッシブルフーズ(米国)をはじめとした代替肉製造企業の存在が大きいと思われる。
 フードテックという言葉に躍らされることなく、また、各種フードチェーンに関わる業界・企業の目の前で起きているイノベーションを正確に捉えるためには、フードテックの源泉となっている社会・環境の変化を正確に捉えておく必要がある。

2.フードテックの隆盛の背景
 日本総研では、フードテックの隆盛の要因は大きく2つ存在すると捉えている。1つ目は、食の価値の変化(多様化)とそれらへの対応を可能とする技術の発展である。2つ目は、社会課題への関心の高まりである。



(1)食の価値の変化
 「安定した食品の供給」を至上命題とするフードチェーンに関わる業界は、「おいしい」ものを「より安く」や、「健康な」「安全な」食品の供給にも力を入れながら発展を続けてきた。また、共働き世代の増加等を背景に「効率性」「利便性」なども重要な価値として取り込んできた。
 現代では、消費者の求める価値(食が提供できる価値)が、上記よりもさらに多様化していることを疑う余地はない。特に2020年の新型コロナウイルスの影響によって、求められる新たな価値が一層顕在化した。例えば、食べることそのものを楽しむ、調理をすることを楽しむ、食を通じて自身の健康を確保する、食を通じて他者とコミュニケーションする、1つのエンターテイメントとしての食といった価値を、誰もが感じたのではないか。
 これらの新しい価値は、まだマジョリティではない。しかし、技術の発展によって、新しい価値を志向するマイノリティの消費者に対して、DtoC(Direct to Consumer)やOne to Oneといった異なる価値を届けることができるようになってきている。

(2)社会課題への関心の高まり
 2つ目の社会課題の関心への高まりは、2015年の国連総会において採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に掲げられた「持続可能な開発目標 (SDGs)」によるところが大きいと思われる。SDGsが設定される以前から、フェアトレードやエシカル(消費)という概念は存在したものの、目標が設定され、それに伴い課題が明確化されたことのインパクトは大きかったと考えられる。
 加えて、これからの消費の中心に担っていくとされるZ世代は、環境や社会に配慮したモノ・サービスを好む傾向があるとされており、今後ますます社会課題への関心は高まっていくものと考えられる。

3.おわりに
 日本総研は、フードチェーン内の特に農業分野における、これまでの知見・実績を活かしながら、さらにフードチェーン全体にわたりクライアントを支援していくためのチームを立ち上げた。本チームにおいては、食領域(ここでは農業分野を除くフードチェーン全体)における社会課題の解決に資するサービス・事業を生み出すことを目指している。食領域と呼ばれる業界や業種よりもさらに広い範囲を対象範囲としているのは、社会課題の解決は、特定の業界・業種のみの対応では困難と考えているからである。本連載では、本チームで検討してきた内容をベースに、フードテックのトレンドにも触れつつ、フードテックに期待される社会課題解決の可能性について考えていきたい。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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