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第8期に向けた介護人材の需給推計ワークシートの開発に関する調査研究事業

2021年04月12日 福田隆士太田壮祐高橋光進


*本事業は、令和2年度老人保健事業推進費等補助金老人保健健康増進等事業として実施したものです。

1.調査研究の背景・目的
 地域包括ケアシステムの構築を進めていく上での資源面での課題としては、財政的な制約に加え、人的資源の制約が指摘される。現状、地域包括ケアシステム構築に必要な人的資源が十分に把握・検討できていないケースもあり、将来に必要とされる人的資源の規模の推計および有効な施策の検討が効果的に実施できない懸念がある。
 厚生労働省の公表資料において、2025年には数十万人の介護人材の需給ギャップが生じるとの推計が示されているが、これは自然体推計に基づくものであることに留意する必要がある。現在の推計は国・自治体等で展開されている施策の効果や従事する介護人材の意向・考え方の変化等について十分に考慮できていない面があり、効果的な施策の検討・適切な施策推進につなげることは簡単ではないと考えられる。
 厚生労働省は、第6期介護保険事業計画策定に合わせて策定した介護人材の需給推計ワークシートを2014年度に各都道府県に配布し、需給推計を実施した。社会保障審議会福祉部会福祉人材確保専門委員会において、2025年に向けた総合的な確保方策の策定の一環として、介護人材需給推計の継続的な実施が提言されたこともあり、2017年度にも第7期介護保険事業支援計画策定と合わせて、需給推計が行われている。これまでに、介護人材需給の推計実施に加えて、需給推計結果を活用した離職防止・定着促進、生産性向上といった施策が推進されており、一定の成果が得られているといえる。
 しかし、介護人材需給の推計においては、供給面に着目するだけでなく、医療・介護の役割分担の変化、地域全体で介護に関連する人材を確保する視点、介護ロボットや新たな介護技術等のイノベーションも踏まえた介護人材の需要のあり方についても検討を行うべきとの指摘もあり、今後も継続的な見直し、精度のさらなる向上を目指すことが求められている。また、2017年度には「介護人材の働き方の実態及び働き方の意向等に関する調査」が実施される等、今後の業界の担い手の意向や考え方に着目した検討も始まっており、この点も考慮していくことが期待されている。
 この他、介護人材確保対策としては、生産性の向上、外国人人材の活用、ICT・ロボット活用、機能分化・役割分担の見直しの推進など、多様な施策が検討・実施されており、これらの施策の推進、その効果なども見据えた検討が必要となる。
 第8期計画の策定に向けては、これまで同様、都道府県における介護人材対策への取り組みが求められる。また、介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施を確保するための基本指針において、市区町村が策定する介護保険事業計画の任意記載事項として盛り込まれた、介護人材の確保・資質向上については、各市区町村でも国や都道府県と連携し、地域の特色を踏まえて取り組むことが求められている。さらに、保険者機能評価推進交付金の評価指標にも介護人材の確保が盛り込まれることとなっており、市区町村においてもより一層の対応が必要となったところである。
 今後は、介護人材の需給動向の把握と検討は、都道府県だけではなく、市区町村単位での検討も期待されており、国、都道府県、市区町村が一体となって検討を進める必要がある。
 これまでに実施された調査研究等において、推計精度の向上に向けたワークシート改定の方向性の検討のほか、施策検討に際して考慮すべき指標・情報の検討・整理、施策の検討・効果把握等に活用できるような都道府県としての運用のあり方の検討などがなされている。第8期計画策定に向けた検討のためのワークシートの検討に加えて、以降の継続性も考慮した検討が行われてきている。介護人材の需給推計およびそのために活用するワークシートについては、第8期だけではなく、第9期以降の活用も見据えて検討することが肝要と考えられる。
 第8期計画向けおよび以降の介護人材確保施策の検討等も考慮し、継続的に介護人材の需給推計を実施していく上では、需給推計のさらなる精度向上、有用性向上に資するワークシート開発、その運用・活用方法等について継続的に検討を重ねることが重要である。また、第8期において、市区町村でも介護人材対策のさらなる推進が期待されることを踏まえると、より介護事業者・介護人材に近い立ち位置にある市区町村にとって活用できるツールの検討も重要になる。

 上記の背景を踏まえ、本事業においては、第8期計画向けに都道府県・市区町村が活用できるワークシートの整備、第8期における具体的な運用フローの整理、第9期以降での活用を見据えたデータ整備、都道府県・市区町村での運用のあり方・適切なPDCAモデルの設計等を目的として、各種調査および検討を実施した。

2.調査方法・進め方
 本事業は、以下の実施内容、進め方で検討を行った。

(1)検討委員会の設置・運営
 本事業では、学識経験者、実務者等の有識者からなる検討委員会を設置し、各種検討を行った。検討委員会は全4回の実施とした。

(2)都道府県向けワークシート等のプレ配布・有効性検証
 先行研究の検討結果等を踏まえて、第8期推計用ワークシート(案)を作成し、47都道府県の介護人材の需給推計担当者に配布した。需給推計担当者には、試行的な推計の実施およびヒアリング調査への回答を依頼し、改定内容の有用性および課題について把握した。

(3)市区町村向けワークシート等のツールの検討・開発
 第8期においては、市区町村でも介護人材の実態把握や需給に係る検討が期待されることから、第8期介護保険事業計画策定に活用するための市区町村向けのツール(案)を作成し、都道府県経由で全国の市区町村に配布した。配布後、いくつかの市区町村へのヒアリング調査を行い、ツールの有用性および課題について把握した。

(4)介護人材の需給推計を活用した施策検討・効果検証等の運用モデルの検討・整理
 介護人材の需給推計については、単に推計を行うだけではなく、人材確保施策の検討、効果検証等への活用が期待されている。第8期計画以降において、より有効に介護人材需給推計を活用していくためにも、施策検討・効果検証等に係る都道府県・市区町村の運用モデル(PDCAモデル)を整理することは重要である。
 そこで、都道府県・市区町村での介護人材の需給推計を踏まえた施策の検討の流れ、具体策、実施イメージ、施策推進を考慮した推計への影響検討、実施施策の効果検証の方法などを検討・整理することで、PDCAサイクル確立に資する検討・整理を実施した。

(5)報告書のとりまとめ
 (1)~(4)における検討を踏まえ、報告書のとりまとめを実施した。

3.結果の概要・考察
 本事業においては、主に(1)都道府県向けワークシートの改定内容の整理・有効性検証、(2)市区町村向けワークシート等のツールの検討・開発、(3)推計結果を活用した運用モデルの検討・整理を実施した。以下に、主要な結果について整理する。

(1)都道府県向けワークシートの改定内容の整理・有効性検証
 需給推計ワークシートは、2040年までの長期推計、サービス3区分(入所系・訪問系・通所系)と地域密着型サービスの推計、常勤換算推計を可能とする構成への改定を行った。これらの改定内容は、先行調査研究において課題として指摘されてきた、より精緻な実態把握、施策検討への活用促進、長期的な視点での検討の実施に対応することを企図したものである。
 上記のワークシートの改定の有効性の検証のために、都道府県へのヒアリング調査を実施した。改定内容に関するヒアリング調査の主な結果について、以下に示す。

<長期推計の実施について>
●長期的な視点で介護人材確保を考える必要性をいずれの府県も認識しており、長期推計を実施したことに対しては、おおむね好意的な意見であった。

<常勤換算推計の実施>
●パートタイム労働者の比率が高まっていることから、常勤換算推計の方が実態に近いとの意見がみられた。推計の負担感もなく、常勤換算推計を実施したことに対してはおおむね好意的な意見であった。

<サービス別推計の実施>
●サービス別の需給動向が把握できたことによって、ターゲット別の施策を検討・実施しやすくなる(なることが期待される)との意見がおおむね全ての府県で確認されており、サービス別の推計を実施したことに対しては、おおむね好意的な意見であった。

 上記のとおり、ワークシート改定の趣旨・目的がしっかりと都道府県担当者に理解されており、改定内容に対してはおおむね好意的な意見が聞かれた。また、今回の改定が、より精緻な実態把握、施策検討への活用促進等の当初企図していた目的に資する(可能性がある)ものであるとの意見も都道府県ヒアリングおよび検討委員会における検討の中で確認されており、改定の一定の有効性は確認できたといえる。
 一方、改定版のワークシートの推計結果に基づく各種検討は、今後本格化することが想定され、来年度以降も継続的な有効性の検証および今後のワークシートの見直しに向けた課題の抽出が期待される。

(2)市区町村向けワークシート等のツールの検討・開発
 今般、市区町村においても、より一層介護人材確保・質の向上に努めることが求められている。そこで、市区町村が活用できるツールや介護人材確保のための考え方等を整理することは重要との考えから、本事業において第8期計画向けに簡易的な市区町村向けのワークシートの開発・配布を実施した。本事業で開発した市区町村向けワークシートの推計ロジックはおおむね都道府県向けワークシートと共通の考え方にて設計を行った。
 開発したワークシートの有効性等の検証をするとともに、各市区町村の人材の過不足感の把握状況に関する実態や要望等を確認し、推計ツールの方向性の検討の材料とすることを目的とし、市区町村へのヒアリング調査を実施した。
 ヒアリング調査の主な結果について、以下に示す。

【ワークシートの活用状況、活用にあたっての課題】
●需給推計結果を第8期介護保険事業計画に活用する(したい)との意向を有する市区町村が複数存在。
●市区町村における介護人材の需給推計の基本的な考え方等を整理することに対して期待する意見が多く見られた。
●需給動向を把握したいとの意向を有していたものの、方法等が分からないため把握を断念している実態が改めて確認できた。

【介護人材確保に関する取組状況】
●いずれの市区町村も、第8期計画に介護人材に関する事項を盛り込んでおり、人材確保に向けた施策を実施する予定との回答であった。
●一方、都道府県がさまざまな施策を実施している中で、市区町村に期待される役割は何かが不明確と感じており、どのような施策を実施すべきか悩ましいとの意見も出された。

 市区町村においては、その規模や置かれている状況が異なっており、市区町村での検討を考える上では、規模や状況に応じていくつかのパターンのワークシートやツールを考えることも検討すべきであると考えられる。本事業で作成した市区町村向け、ワークシートは都道府県向けワークシートの推計ロジックを参考に設計したものであるが、都道府県向けワークシートの推計ロジックが援用可能な条件や範囲についてもさらなる検討が必要である。

(3)推計結果を活用した運用モデルの検討・整理
 需給推計の運用については、①需給推計の結果が各地域での人材確保策の検討に基礎資料として活用されること、②PDCAサイクルの適切な運用に有用なツールとして活用され、継続的な施策の効果検証、施策見直しの際にも活用できること、の2点を最終的な目指す姿として想定している。
 上記の目指す運用のあり方の実現に向けては、施策検討(P)、施策の実施(D)、モニタリング・結果の把握(C)、施策効果の検証・課題抽出(A)のサイクルが回ることが必要になる。しかし、先行調査研究において、需給推計結果が施策検討(P)に活用されていない実態が示されていることから、本年度は施策検討(P)に焦点を絞って検討を実施し、需給推計から施策決定を行うまでのプロセスを整理した。

 ワークシートによる介護人材の需給状況の把握は、介護人材確保施策の検討全体の「きっかけ」となるものである。しかしながら、ワークシートの活用を通じて、把握できる情報には限界があることが、過年度調査および本事業での検討において示唆されている。そこで、需給推計を実施して終わりではなく、推計結果の検証・掘り下げのための実態把握をヒアリング調査やアンケート調査等の手法を用いて丁寧に実施することが、実際の運用にあたっては重要になる。本事業では、以下の3点について検討・整理を行った。

●主要なパラメータの推移を、全国平均や他の都道府県と簡易的に比較することができるツールの枠組み
●実態把握のための手法・進め方について、ヒアリング結果や先行調査研究等を基に具体的な取り組み事例の整理
●各施策と介護人材の供給に影響を与え得るパラメータの関係性の簡易的な整理(「供給量に影響を与える要素の構造展開と施策の関係性の整理」の作成)

(4)今後の推計実施に向けた提案
 本事業における各種調査および検討結果を踏まえ、今後の需給推計の実施に向けた、推計の精度向上、施策への活用のためのワークシートおよび運用のあり方の検討においては、以下の点に留意し、推進することが必要であると考えられる。

●第8期計画での推計実施を踏まえた有効性検証および改善点の抽出・改善対応
●推計精度のさらなる向上のために必要な情報・データおよび整備方針の検討
●施策への活用・施策の効果検討等に活用できる仕組み・運用のあり方の検討・設計
●市区町村での介護人材確保対策の検討に活用できるツール・考え方の検討・整理
●都道府県と市区町村、事業者の連携・役割分担の考え方の整理
●介護人材の確保に資する施設・事業所運営効率化の手段の検討・考慮

※詳細につきましては、下記の報告書をご参照ください。
【報告書本編】
【別冊資料1 本推計ワークシート活用の手引き】
【別冊資料2 市区町村向けワークシート活用の手引き】

本件に関するお問い合わせ
リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 福田隆士
E-mail: fukuda.t@jri.co.jp
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