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介護支援専門員の資質向上に資する研修等のあり方に関する調査研究事業

2021年04月12日 高橋光進福田隆士齊木大


*本事業は、令和2年度老人保健事業推進費等補助金老人保健健康増進等事業として実施したものです。

1.調査研究の背景・目的
 介護および医療や福祉の実践の方法や技術、介護保険をはじめとする社会保障制度やそれを取り巻くさまざまな環境は、常に変化しており、介護支援専門員が修得すべき事項や期待される役割も同様に変化している。とりわけ独居、認知症、医療処置を要する要介護高齢者、精神疾患のある要介護高齢者等の増加、家族を含めた支援が求められるケースの増加等、介護支援専門員が実際に現場で対応している利用者像も多様化し、複雑化している。従って、介護支援専門員の養成研修のあり方は、制度改正や介護報酬改定等を踏まえつつ、介護支援専門員に求められる能力や役割の変化の観点から定期的に見直しを行う必要がある。
 上記の背景を踏まえ、本事業においては、介護支援専門員に求められる能力や役割の変遷および昨今の制度改正の状況等を考慮しながら、現行の介護支援専門員の養成研修のあり方等について、見直しの方向性を整理することを目的とした。

2.調査方法・進め方
 本事業では、以下の実施内容、進め方で検討を行った。

(1)検討委員会の設置・運営
 本事業では、学識経験者、実務者等の有識者からなる検討委員会を設置し、各種検討を行った。検討委員会は全6回の実施とした。

(2)介護支援専門に求められる能力・役割の整理
 現行の法定研修の内容の見直しから5年間における、制度改正、介護報酬改定、要介護高齢者を取り巻く環境の変化等を踏まえ、介護支援専門員に求められる能力・役割について再整理を行った。

(3)養成研修のあり方に関するこれまでの検討経緯と課題の整理
 養成研修の位置付けと内容について整理した上で、養成研修のあり方に関するこれまでの検討経緯と課題について取りまとめを行った。

(4)養成の目指すべき方向性の検討
 介護支援専門に求められる能力・役割の変化、養成研修にあり方に関するこれまでの検討経緯や課題等を踏まえ、養成の目指すべき方向性について検討委員会での検討を行った。

(5)養成研修のあり方の見直しの方針の検討
 養成研修のあり方に関するこれまでの検討経緯や課題、養成の目指すべき方向性を踏まえ、具体的な養成研修のあり方の見直しの方針について検討委員会での検討を行った。

(6)全国介護支援専門員研修向上会議の開催
 現行の研修の実施状況および今後の環境変化を見据えた研修のあり方について、課題の共有(グループディスカッション)や好事例の横展開(事例発表)を行い、全国的に研修の質の底上げを図ることを目的に、全国介護支援専門員研修向上会議を開催した。

(7)報告書の取りまとめ
 (1)~(6)における検討を踏まえ、報告書の取りまとめを実施した。

3.結果の概要・考察
 本事業においては、主に(1)養成研修を取り巻く環境等の変化、(2)養成研修のあり方に関するこれまでの検討経緯と課題、(3)介護支援専門員の養成の目指すべき方向性、(4)介護支援専門員の養成研修のあり方の見直しの方針、(5)全国会議支援専門員研修向上会議の開催、について検討・整理を実施した。以下に主要な結果について整理する。

(1)養成研修を取り巻く環境等の変化
 要介護高齢者の状況など社会環境変化、介護支援専門員に関わる近年の介護保険制度や政策等の動向、介護支援専門員の業務環境の変化の3つの視点から、今後の介護支援専門員の法定研修のカリキュラムやガイドライン等の見直しにあたって考慮すべき環境等の変化について整理を行った。

(2)養成研修のあり方に関するこれまでの検討経緯と課題
 養成研修の位置付けと内容、養成研修のあり方に関するこれまでの検討経緯等を整理した上で、検討委員会での議論を踏まえ、今後の介護支援専門員の養成研修に関する課題を以下のとおり整理した。

・介護支援専門員の法定研修の位置付けの再定義(再確認)
・養成研修で捉えるべき介護支援専門員に今後さらに期待される役割の範囲の捉え直し
・養成研修の効果を高める研修の実施方法の見直しと実施体制の整備
・修了評価の見直し
・介護支援専門員の継続学習・生涯学習および質の高い養成研修を実現する体制整備

(3)介護支援専門員の養成の目指すべき方向性
 養成研修を取り巻く環境等の変化、養成研修のあり方に関するこれまでの検討経緯と課題、検討委員会で議論等を踏まえ、介護支援専門員の養成の目指すべき方向性について、以下のとおり整理を行った。

①基本的な考え方
(ア)専門職としての自己研鑽
 介護支援専門員の知識・技術、あるいはそうした知識・技術の基盤となる基本的な考え方や倫理観などの修得や研鑽は、法定の養成研修の有無にかかわらず、専門職が専門職として自ら実施すべきとの考えを基本とする。

(イ)養成研修の位置付け
 養成研修は、介護支援専門員に求められる知識・技術のうち最低限必要なものの修得を図るものとの考えを基本とする。

②養成研修の内容の見直しの方向性
(ア)重視すべき内容
 介護支援専門員に期待される役割や能力のうち、これからの養成研修で中長期的、重点的に取り組むべきものとして以下が挙げられる。

・サービス調整に加えて、意思決定支援と相談援助を提供すること
・医療をはじめ多様な地域資源との連携のハブとしての役割を担うこと
・専門職として公正・中立な関わりを実践していると説明できること
・(主任については)他の介護支援専門員の指導・助言をより効果的に展開できること
・(管理者については)ケアマネジメント実践業務と両立するように介護支援専門員の継続学習・自己研鑽を促す環境を整えること

(イ)養成研修の受講前後の学習と関連した組み立て
 法定の養成研修では、介護支援専門員の専門職としての考え方と生涯学習の基盤となる体系的な知識・技術の習得に重点を置くことが妥当である。限られた実施時間をこうした知識・技術の修得に割けるよう、養成研修の学習内容をその受講前後の学習と関連して見直す必要がある。

(ウ)意義や必要性を説明できる資質の向上
 介護支援専門員には、表面的な知識に留まらず、「なぜそうしたケアが必要あるいは有効なのか」「なぜそうした制度・政策になっているのか」「尊厳が保持されるとはどのようなものなのか」といった問いに対して自分なりに説明できる資質が求められており、養成研修でも、こうした説明ができる資質の向上の観点を踏まえた見直しが必要である。

③研修を取り巻く環境の整備
(ア)オンライン研修環境の整備
 新型コロナウイルス感染症対応の観点および中山間地や島しょ部の介護支援専門員の養成研修への参加負担軽減の観点から、厚生労働省によるオンライン研修環境の整備が進められており、介護支援専門員には、オンライン研修環境を活用した学習に習熟していくことが求められる。

(イ)生涯を通じた自己研鑽を確保する環境の整備
 介護支援専門員には、専門職として生涯にわたる自己研鑽に取り組むことが求められている。そのため、オンライン研修環境などの、時間や場所の制約が小さく、移動時間や費用の負担も軽くて済む環境を活用することが重要になる。
 初めてオンライン研修環境を利用する者にとっては、学習環境の整備や学習環境への習熟が必要となる。しかし、これからの専門職の生涯学習にとっては必要不可欠なツールであると捉え、前向きに取り組む必要がある。

(ウ)地域として資質向上に取り組む体制の整備
 保険者(自治体)や職能団体等の地域全体の整備に係る主体は、介護支援専門員が連携する相手方となるさまざまな専門職や関係機関等に対し、介護支援専門員の役割や機能に対する共通理解を促し、相互連携が円滑化するような体制づくりの推進が求められる。

(4)介護支援専門員の養成研修のあり方の見直しの方針
 前述の養成の目指すべき方向性および検討委員会での議論を踏まえ、今後の介護支援専門員の養成研修のあり方の見直しの方針について以下のとおり整理した。

・研修内容の見直し・拡充
・体系的な知識を学ぶための時間の確保
・オンライン研修環境への対応
・講師・ファシリテーター資源の充実化
・修了評価の確実な実施
・地域として取り組む体制の構築

(5)全国会議支援専門員研修向上会議の開催
 現行の研修の実施状況および今後の環境変化を見据えた研修のあり方について、課題の共有(グループディスカッション)や好事例の横展開(事例発表)を行い、全国的に研修の質の底上げを図ることを目的に、全国介護支援専門員研修向上会議を開催した。
 参加者に実施したアンケート調査から、「全国介護支援専門員研修向上会議」が各地域の工夫や好事例を共有・横展開する場として効果的に機能しており、各地域における資質向上の取り組みの水準を高めることに貢献していることが確認できた。
 「全国介護支援専門員研修向上会議」は、これまで厚生労働省の予算事業や補助事業の一環として不定期に実施されてきており、法制度上の位置付けが明確になっていない。各地域における資質向上の取り組みの水準向上に向けて、制度化および年に1回などの定期的かつ継続的な開催に向けた議論を行うことが必要であると考えられる。

※詳細につきましては、下記の報告書をご参照ください。
【報告書】

本件に関するお問い合わせ
リサーチ・コンサルティング部門 コンサルタント 高橋光進
TEL: 090-5530-8020   E-mail: takahashi.mitsunobu.y3@jri.co.jp
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