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コーポレートガバナンス・コード改訂案を読み解く ~より鮮明となるモニタリングモデルへの移行とサステナビリティ重視の姿勢~

2021年04月06日 山田英司


 2021年3月31日、スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(以下「フォローアップ会議」)の第26回において、コーポレートガバナンス・コードおよび投資家と企業の対話ガイドラインそれぞれの改訂案が、議論の上で公表された。これらの改訂案は、すでに公表されている東証市場構造改革、特にプライム市場への移行を想定している上場企業の取り組みに大きな影響を及ぼすものと想定される。さらに、新市場への移行時期は2022年4月に設定されており、ガバナンス報告書の改訂期限のタイムラインについても、おおむね2021年12月(プライム市場特有の改訂にかかるものは株主総会後)と示されている。そのため、具体的な対応については早々に取り組む必要があると想定される。
 これらを踏まえ、本稿ではコーポレートガバナンス・コード改訂案における重要なポイントを整理した上で、主にプライム市場移行を目指す企業へのインパクトについて考察する。
 まずは、改訂案のアウトラインを整理する。改訂案そのものは従来のコーポレートガバナンス・コードに議論の結果を適宜加除する形となっているが、理解を促すために、フォローアップ会議資料にて、改訂案の視点を以下のように整理している。
1.取締役会の機能発揮
2.企業の中核人材における多様性の確保
3.サステナビリティを巡る課題の取り組み
4.その他(グループガバナンス、監査の信頼性確保、総会運営など)

 上記の視点のうち、本稿では特に重要なポイントである、取締役会の機能発揮とサステナビリティ強化について解説と論考を行う。

取締役会の機能発揮
 コーポレート・ガバナンス改革では、取締役会の監督機能の強化が、過去からの重要な課題となっているが、さらに、今回の改訂によって、プライム市場に上場する企業には「より高度なガバナンス水準」が求められている。
 この「高度なガバナンス水準」であるが、プライム市場が「我が国を代表する投資対象として優良な企業が集まる、国内のみならず国際的に見ても魅力あふれる市場」と定義されていることに鑑みると、市場で一定の地位を占める米国、英国の機関投資家を意識しており、つまりは米国、英国のモニタリングモデルを意識していることは間違いがない。
 具体的には、監督機能を担う独立社外取締役が取締役会の3分の1以上、必要に応じて過半数を要請していることが示されており(原則4-8)、まずは数的な充実が求められている。さらに指名委員会・報酬委員会は任意の委員会としつつも(原則4-10)、プライム市場上場企業では、独立社外取締役が主体となり機能強化が要請されていること(補充原則4-10①)、さらには取締役会が実効的な機能を果たすために意思決定や監督を行うに必要なスキルの特定と、当該スキルを有する取締役を構成するための方針とスキルマトリックス等による開示(4-11①)などが改訂版で示されている。つまりは、モニタリングモデルの移行を進めるため、取締役会の機能の明確化、独立社外取締役の質的・量的な充実が具体的に要請されているのである。

サステナビリティへの対応
 近年の企業経営では、ESGやSDGsなどサステナビリティ要素が重要視されているが、今回のコーポレートガバナンス・コードの改訂においても、サステナビリティ重視が色濃く打ち出されている。
 具体的には、改訂案の基本原則2の考え方の中で、サステナビリティを重視する背景が大幅に加筆されており、これを受けて、取締役会におけるサステナビリティに関する議論の深化を促すことが要請されている(補充原則2-3①)。さらに、サステナビリティに関するより一層の情報開示が求められており、特に、プライム市場上場企業に対しては、「TCFDまたはそれと同様の仕組み」に基づいた開示要請が示される(補充原則3-1①)など、より踏み込んだ対応が求められている点に着目すべきである。
 そして、これらの対応を行うためには、サステナビリティに関する方針を決定することや、執行状況を適切に監督することが取締役会の重要な機能とされている(補充原則4-2②)。
 なお、これに関係して、投資家と企業の対話ガイドラインの改訂版では、重要な視点として、取締役会もしくは経営陣の下に「サステナビリティ委員会」が設置されているかが挙げられていることも重要なポイントである。

プライム市場上場企業へのインパクト
 今回の改訂案により、取締役会のモニタリングモデルへの移行と、サステナビリティ重視の方向性が明確になり、特にプライム市場を指向する企業においては、様々な対応を迫られることとなるであろう。
 特に、独立社外取締役の確保については、数千人が不足するといわれる中での増員対応もさることながら、質的な向上も重要である。特に、サステナビリティについての意思決定や監督が可能な人材についての争奪戦が今後激しくなるであろう。
 また、スキルマトリクスは単にスキルを一覧表示するのではなく、「企業が一定のスキルを有した候補者をどのように選定すべきか」という方針を開示することである。この方針そのものが、中長期的に取締役会の監督機能をどのように持続させるかという、「ボード・サクセッション」の考えにつながるのである。
 なお、今回の改訂案では、親子上場に関して、上場子会社がプライム市場を指向する場合、独立社外取締役を過半数とするか、利益相反取引・行為を審議する特別委員会の設置かを求めており、今回の改訂を機に、親子上場についての対応も一段と進展すると想定される。

 本稿では、コーポレートガバナンス・コードの改訂案について、モニタリングモデルのさらなる移行と、サステナビリティの重視を中心に論考した。確かに、プライム市場を指向する企業にとって、今回の改定案は大きなインパクトとなっており、様々な対応が求められるであろう。一方で、モニタリングモデルへの移行は、CEOを中心とした経営陣に執行権限を委譲することでもあるため、並行して「強い執行体制」を構築することも重要である。そして、この「強い執行体制」の構築のためには、サステナビリティや多様性は欠かすことができない視点であることは言うまでもない。形式的なガバナンス対応にとどまらず、中長期的な企業の成長を促すために、「強い執行体制」と「適切な監督体制」の両輪を持続的に維持することが重要であることを念頭に置いて、一連のガバナンス改革が進むことを筆者は期待する。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

(参考リンク)
連載:「コーポレート・ガバナンス改革の展望
書籍:「ボード・サクセッション
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役員報酬・コーポレートガバナンス
サステナビリティ経営
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