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医療のデジタル化におけるデジタルセラピューティクス(DTx)導入の推進に関する提言

2021年01月29日 リサーチ・コンサルティング部門 ヘルスケア・事業創造グループ、山本健人、安部航司、小倉周人川崎真規


取りまとめ 山本健人
メンバー 安部航司・小倉周人川崎真規

*本事業は、日本イーライリリー株式会社の協賛を受けて実施したものです。

【提言資料】

<本提言の概要>
●今般の新型コロナウイルス感染症による公衆衛生危機を通じて、社会のデジタル化の重要性が一層認識され、官民挙げた医療のデジタル化が推進されている。このような中、デジタル技術を活用することで、医療の「個別化・最適化」「簡易化・省力化」を実現し、ポストコロナ時代における効率的・効果的な医療を提供することが可能となる。
●一方、現在の医療・健康分野のデジタル化は、データ活用やオンライン診療の文脈が中心であり、SaMD(※1)やデジタル治療(※2)といったデジタルツールの治療への活用については議論が始まったばかりである。SaMDやデジタル治療が患者・医療従事者・社会に対して提供できる価値に鑑み、適切な活用のためのルール作りが必要であり、議論を深めるべき。
●デジタル治療とは、身体的、精神的、および行動的な状態を幅広く予防、管理、または治療するために、高品質のソフトウェア・プログラムを使用して、患者に対し、エビデンスに基づいた治療介入を提供するものである。このデジタル治療によって、「正確な患者情報を継続的に取得・把握」することが可能となり、「個別化された継続的な介入による治療効果の向上」といった、患者への治療の個別最適化が実現できる。また、正確な患者情報に基づいてAI等を活用した治療支援を活用することで、「医療従事者の負担の軽減」の実現や、患者の行動変容や治療継続による重症化予防等による「医療費適正化」といった簡易化・省力化に寄与する点も、デジタル治療のもたらす価値といえる。さらに、今後まったく新しい作用機序によって、革新的な治療モダリティとなり、これまで想定し得なかった価値を生み出す可能性もある。一方で、デジタル治療は、治療に用いられるものであり、しっかりとしたエビデンスに基づく必要がある。また、データセキュリティの確保など、医薬品や機器とは異なる規制の必要性も有している。
●現行の承認・償還制度下では、医療機器としての該当性、薬事承認で要求されるエビデンスレベル、保険償還でのリターンのそれぞれの予見性に懸念がある。そのため、デジタル治療における開発投資が進みにくいというのが実態であり、政府は規制改革推進会議等において検討を進めている。
●ドイツや米国では、デジタル分野の特性を考慮して、安全性と一定の有効性をもとに承認・保険償還することで上市を加速しながら、上市後に実臨床データで有効性を検証・評価することを意図した制度が施行されている。こうした事例から得られる示唆を踏まえて、日本でのデジタル治療の活用を推進させるべく、以下のような取り組みが必要と考えられる。
・薬事承認に関する規制整備保険償還に関する規制整備
・有効性・安全性再評価の仕組みの確立
●今後の医療のデジタル化における政策推進にあたっては、デジタル治療のもたらす新しい価値を認め、デジタル治療の開発や、医療や社会の普及のための環境整備として、①医療のデジタルインフラ整備、②薬事承認・償還に関する規制整備、③その他デジタル治療の開発促進・普及のための環境整備を計画的に実施すべきと考える。
●また、デジタルという新たな価値を創造する分野において、今後、患者、医療提供者、社会にどのような技術が求められるのか、それに対してどういった開発・普及をしていくべきか、幅広い関係者のインプットを得て、エビデンスに基づく政策決定を進めていくべきである。

※1:SaMD(Software as Medical Device)
診断や治療、予防、緩和などへの使用を目的とするソフトウェア。汎用PC等にインストールしたうえで機能させるものが対象であり、ハードウェアの医療機器の一部分として組み込まれるものは除く
※2:デジタル治療(デジタルセラピューティクス)とは
米国のデジタル治療提供企業の業界団体Digital Therapeutics Allianceの定義では、デジタル治療(デジタルセラピューティクス )とは、身体的、精神的、および行動的な状態を幅広く予防、管理、または治療するために、高品質のソフトウェア・プログラムを使用して、患者にエビデンスに基づいた治療介入を提供するもの とされている。

<本提言の帰属>
本提言は、株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 ヘルスケア・事業創造グループが公正・公平な視点を心がけて、患者・医療従事者視点で中長期的な観点から社会貢献をしたいと考え、意見を取りまとめ、提示するものである。

<本件に関するお問い合わせ>
コンサルタント 山本 健人
E-mail: yamamoto.taketo@jri.co.jp
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