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【ニューノーマルにおけるスポーツの価値】
第2回 ニューノーマルにおけるスポーツ競技団体の新たなミッション

2020年09月08日 東一洋


はじめに
 日本総研では「スポーツを通じて『身体的/精神的/社会的』幸福度を高める社会の実現」というビジョンを掲げ、その達成に向けた活動を行っている。そのなかで、スポーツの価値の再定義を試みることがあるが、それは自ずとスポーツ競技団体のあり方を再定義することにもつながってくる。
 本稿では、コロナ以前よりその萌芽の見られたスポーツ競技団体の新たな試みに注目しつつ、ニューノーマルにおけるスポーツ競技団体の「新たなミッション」について提案する。

1.スポーツ競技団体の役割
 スポーツ競技団体といえば、日本サッカー協会(JFA)や高校野球連盟(高野連)などが有名であるが、当然競技の数だけ存在し、中央団体(日本が冠に入るケースがほとんど)や都道府県レベルの団体なども存在し、その数は正確に把握されていない。もし読者の一人があるスポーツ種目を考えついたら、自身でその団体を作ることもできるので、そもそも正確な数字は存在しない。ちなみに日本スポーツ協会に加盟している団体数は、約150弱となっている(平成30年4月1日現在)。
本稿では、特にNF(National Federations;各スポーツ競技について国内のスポーツを統轄する団体)と呼ばれる国内競技連盟およびその構造に注目することにする。
NFの役割とは、次表にみるように、その競技の「普及」と「競技力の向上」がどの団体にも共通なのであるが、ここで注目すべきは日本サッカー協会の「社会貢献・国際貢献」である。次にこの日本サッカー協会の「社会貢献・国際貢献」について紹介する。



2. 日本サッカー協会によるJYDプログラム
 日本サッカー協会のJYD(JFA Youth & Development Programme)のミッションとは、「パートナー企業との協働によるフットボールイノベーション&ソーシャルイノベーション」であり、特にソーシャルイノベーションの領域として「地方創生、スポーツツーリズム、健康づくり、みどり溢れる社会へ“芝生化推進”、サッカー場の整備推進PPP/PFI等の活用、フットボールスタジアム、総合型地域スポーツクラブとコミュニティ支援、学校部活動支援、ファンエンゲージメント(新たな楽しみの創出)、FAのガバナンス改革、ハラスメントの防止など」を規定している。簡単に言えば、JFAが企業と連携し地域課題や社会課題の解決に向けたアクションを起こす、というものである(日本総研もこのプログラムの趣旨に賛同し、サポーター契約を締結(2019年11月)、特に施設整備推進領域でのコンサルティングパートナーとなっている)。JYDプログラムの中で当社がサポートしているのは「JFAグリーンプロジェクト」であり、サッカー発祥の英国に比べ、非常に貧相な芝生の環境を官民の力で整備していこうとする取り組みである。
 その取り組みに通底する概念は“Citizenship”である。小学生がボールを蹴ることができる公園を勝ち取るため、議会の仕組みや役所のルールを自ら学び、最後には区議会・行政を動かしたという東京・板橋区の例が話題になったことをご存じの方も多いと思う。市民としての権利と義務を認識し、自らの環境を変えていくことが“Citizenship”の本来的意味の一つではないか。「JFAグリーンプロジェクト」の本質はまさにそこにある。
 この「芝生の上でボールを蹴りたい、サッカーがしたい」という純粋な思いを具体化していくことも「社会課題解決・地域課題解決」の1ルートであるが、同じくサッカーのJリーグの実施している「シャレン!」もまた違うルートでの「社会課題解決・地域課題解決」のプログラムである。

3.Jリーグの「シャレン!」の取り組み
 Jリーグの「シャレン!」は社会連携活動のであり、「社会課題や共通のテーマ(教育、ダイバーシティ、まちづくり、健康、世代間交流など)に、地域の人・企業や団体(営利・非営利問わず)・自治体・学校などとJリーグ・Jクラブが連携して、取り組む活動(右図)」である。Jリーグではこの「シャレン!」を通じてSDGsにも貢献すると宣言している。
 この「シャレン!」についても日本総研では、2020Jリーグシャレン!アウォーズ・パブリック賞を受賞しソーシャルインパクトボンドを活用した『ヴォルティスコンディショニング プログラム(SIB)』を支援してきた経緯がある。
 また今年度は、ヴァンフォーレ甲府が経済産業省の令和2年度「地域企業イノベーション支援事業」に応募・採択され、クラブをハブとして県民の運動機能の改善やQOL向上に資する事業を実施する企業が参画可能なプラットフォームを構築し、医療費削減等の社会課題解決と当該企業群の収益向上を目的とする活動を支援中である。
 このように、サッカーの世界ではクラブチームや協会が「地域課題・社会課題」の解決に対して積極的にコミットする動きがすでに始まっているのである。



4.スポーツ競技団体の新たなミッションとは
 スポーツはサッカーだけではない。野球やサッカーといったプロ競技種目、その直前にある種目、プロ化とは縁はないが人々が日常的にする種目、若い頃はやっていたがやめてしまった種目、海でしかできないもの、冬山でしかできないもの、千差万別・多種多様である。
 それらの普及・強化を目的としたスポーツ競技団体の新たなミッションとして「その種目を利活用した地域課題・社会課題の解決」を加えることを提案する。その競技種目そのものに注目するのではなく、それを「使う」ことに注目するのである。
 コロナ禍において様々なスポーツが自粛される中、「#いまスポーツにできること」や「#Staystrong」といったハッシュタグで様々な競技団体やアスリートが発信している。「その種目を利活用した地域課題・社会課題の解決」を新たなミッションとする土壌が生まれつつあると言える。

5.具体的なアクションに向けて
 ただ理念に言葉だけを追加することに意味はない。実際にプログラムとして走らせる必要があるが、ここで大きな課題が顕在化する。NFの組織としての脆弱性である。笹川スポーツ財団実施の中央競技団体現況調査(2018年)では、調査対象の63団体のうち、正規雇用者数が「0~9人」の団体が50団体と全体の8割を占めていた。これは中央競技団体の数値である。都道府県や市レベルの団体ではさらに少ないことは明白である。「普及と強化」で手一杯の競技団体に、この上新たなミッションを課すことは一見非現実的である。野球やJリーグとかサッカー日本代表で資金とスタッフの潤沢なプロスポーツの競技団体しかそうした活動が出来るはずがない、という声が聞こえてくる。また登録者数の偏在もあろう。地方部での競技者(登録)数はたかが知れているのではないか。さらに大きな課題としては、マイナーな種目の競技団体単独では何もできないという点である。
 従って、そこで次のような発想の転換を提案する。
 まず、団体がすべてをやるという発想からの脱却である。「地域課題・社会課題解決」のビジネスモデルを構築すれば、民間企業と連携することが出来るのである。JFAのJYDプログラムも民間企業の協力を得ている。競技団体のスタッフの負荷を上げることなく、民間企業の人的リソースを投入できる可能性がある(下図左)。
 次に、中央(=東京:競技者数多い)と地方(少ない)という構造からの脱却である。「普及と強化」にこだわる以上、この構造の縛りから抜けられないが、新たなミッションの下では、この構造から脱却が可能である。すなわち、中央の競技者を地方に呼び込むという発想である(下図中)。
 さらに、これまでのような競技縦割り発想から脱却し、特定の「地域課題・社会課題解決」に向けての競技横断的な仕組みを構築することである(下図右)。



6.地域課題・社会課題解決のためのスポーツワーケーションと競技団体の役割
 日本総研では、今年度スポーツイノベーションチームを組成し、「スポーツワーケーションによるライフスタイル改革」に着手した。この詳細については、「ニューノーマルにおけるスポーツの価値 第1回 スポーツワーケーションによるライフスタイル改革」を参照されたい。
 前述のスポーツ競技団体の「新たなミッション」である「地域課題・社会課題解決」の具体的な取り組みとして「スポーツ競技団体のスポーツワーケーションへの参画」を提案したい。
 まず、一つ目のビジネスモデル化による民間企業とのコラボレーションであるが、これについては、スポーツワーケーションのビジネスモデルが検討されつつある状況であるのでスポーツ競技団体は安心して参画いただけると思う。
 次に、中央と地方の偏在に関する課題であるが、実はスポーツワーケーションでは逆にこれがチャンスなのである。すなわち、東京や大阪といった都心部で働いている人がターゲットとなる可能性が大きいことから、地方部の競技団体は地方に訪れた競技者(競技者という表現となっているが、実際はそのスポーツをしながら働きたい人のこと)に対し、教室の開催やイベントの開催といった通常の事業の延長線上でサービスを提供すればよい。
 最後が今後にとって最重要な事項であるが、スポーツワーケーションは「地域課題・社会課題」の解決のためのメニューの一つでしかない。今後、別の分野(例えばSDGsで掲げられているようなもの)で取り組む場合には、競技種目縦割りで行うことは避けたい。例えば、「ジャパン・スポーツ・オリンピック・スクエア」に入居している国内競技団体などスポーツ関係の61団体間で情報共有し、共同プロジェクト化を検討するべきではないか。

以 上


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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