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【ヘルスケア】
高齢者の「身元保証人」問題をご存じですか―自分でできないことを誰に頼めばいいのか

2020年05月13日 沢村香苗


 筆者らが2017年に実施した「地域包括ケアシステムの構築に向けた公的介護保険外サービスの質の向上を図るための支援のあり方に関する調査研究事業(注1)」は、身元保証等高齢者サポート事業に関する実態調査です。内容を直接的に示す言葉がタイトルに入っていないにもかかわらず、行政機関・医療介護福祉機関・一般企業といった様々な主体から多くの問い合わせが寄せられています。決して一般的に知られてはいませんが、一部の人々が強い関心を持っている身元保証問題とは何か、またその背景にある真の課題についてご紹介します。

 就職時の身元保証人とは異なり、筆者らが取り上げたのは高齢者の入院や介護施設等の入居の際に求められる身元保証人の問題です。現在、身元保証人を頼める身近な人がいない高齢者が増えています。家族・親族の数の減少だけでなく、関係の希薄化によって、たとえ実の子供であっても頼めない・引き受けてもらえないことがあるのです。身元保証人がいないことを理由に入院や入居を断ることは厚生労働省の通知で禁止されていますが、順番が後回しになるなどの形で実質的に入院や入居が困難になることは少なくありません。

 医療施設や介護施設等は身元保証人に対し(1)緊急時の連絡先、(2)入院費・施設利用料の支払い代行、(3)生存中の退院・退所の際の居室等の明け渡しや退院・退所支援、(4)入院計画書やケアプランの同意、(5)入院中に必要な物品を準備する等の事実行為、(6)医療行為(手術や検査・予防接種等)の同意、(7)遺体・遺品の引き取り・葬儀等の実行を求めているとされています(注2)。しかし身元保証人の役割に明確な定義はなく、高齢者の入院・入居後に起こりうる全てのことに、本人に代わり対処することを期待されているというのが現実に近いでしょう。子世代がその役割を当然のように果たした時代は終わりつつあり、自分のことが自分でできなくなった時、代わりに対処する人がいないことは、医療施設や介護施設だけでなく、多くの高齢者にとっても大きな不安要因です。

 冒頭の調査の対象となった「身元保証等高齢者サポート事業」は、身元保証人を有償で引き受ける民間サービスです。まだそれほど広く普及してはおらず、契約者が1000人を超えるのは全国で2つの古参事業者のみで、多くは地元密着型の中小規模事業者です(調査時点)。一部のコンサルティング会社は「資格不要で規制もなく、設備投資も不要の有望な新規事業」だと喧伝していますが、立ち上げ期はそうでも、実際に契約者が高齢になるにつれて上記の役割を果たすための業務量は大きく増加します。また、介護保険サービスで高齢者が支払うのは実際の費用の1割に過ぎないので、介護保険外のこのサービスが合理的に価格設定をしようとすると契約者には10倍の価格だと感じられ、適切な設定が難しいという課題があります。家族(無償)と比較されればなおさらです。調査で話を伺った古参の事業者も安定的な経営には困難を感じていました。

 人が年老いて最終的に亡くなることの周辺には実に多くの意思決定や手続きがあります(注3)。それらを自分でできなくなった時の補完手段は不足しています。筆者は、家族や身近な人が高齢者の肩代わりをすることを基準とし、それに最も近い存在を探すという思考はもはや時代にそぐわないものになっており、誰もが利用可能な新たな手段を探索する段階にあると考えています。Connected Seniorsコンソーシアムはその1つの試みです。今年度の活動にもぜひご注目ください。

(注1) 地域包括ケアシステムの構築に向けた公的介護保険外サービスの質の向上を図るための支援のあり方に関する調査研究事業

(注2) 「身元保証等」がない方の入院・入所にかかるガイドライン(半田市地域包括ケアシステム推進協議会、平成26年9月作成 平成29年2月改訂)

(注3) 公的介護保険サービスにおける身元保証等に関する調査研究事業

この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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