コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

アジア・マンスリー 2020年4月号

中国経済の一層の減速要因となる「国進民退」

2020年03月26日 三浦有史


中国経済はかつてない減速圧力にさらされている。中国を取り巻く環境は中長期的にみても厳しく、習近平政権は国有企業を優遇する「国進民退」によって一層の減速に直面する可能性がある。

かつてない減速圧力
2019年の実質経済成長率は+6.1%と、21年ぶりの低さとなった。2020年の目標成長率は3月開催予定の全国人民代表大会で前年の「+6.0~6.5%」から引き下げ「+6%前後」に設定されるとみられていたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、大会は延期された。目標成長率についてもさらに引き下げられる可能性がでてきた。中国国内の経済学者のなかには、2020年の成長率を+4.5%とする見方もある。

中国を取り巻く環境は中長期的にみても厳しい。労働力人口の減少や生産性の伸びの鈍化に伴い、潜在成長率が趨勢的に低下するからである。15~64歳の人口は2013年の10億582万人をピークに減少が続いており、2050年には7.6億人になるとされる。かつては外国投資の導入や都市化の推進によって簡単に引き上げることができた生産性も、発展段階が進むとともに従来の伸びが期待できなくなった。

ここに対米関係の悪化に起因する輸出の不振が加わり、中国はかつてない減速圧力にさらされている。中国を世界一の製造強国に押し上げる「中国製造2025」が議題となる米国との次期通商協議は難航が予想されるため、輸出産業が息を吹き返すとは考えにくい。習近平政権は改革に取り組むことで成長率を引き上げるとしているが、その効果も限られる。
世界銀行と政府のシンクタンクである国務院発展研究中心は、「包括的な改革」に取り組んだとしても、潜在成長率は2021~30年に+5.1%、2031~40年に+4.1%、2041~50年には+3.0%に落ち込むとしている(右図)。改革に消極的な「限られた改革」の場合は、+4.0%、+1.7%、+2.3%となる。習近平政権が改革に踏み切ったとしても、中国経済の減速スピードを緩やかにすることしかできないのである。

国有企業が足かせに
習近平政権は、発足当初から中国が「新常態」にあり、もはや従来のような高成長を望めないことを強調してきた。中国では、当時、+8.5~11.5%の成長率が「超高速」であり、新常態によって+6.5~8.5%の「中高速」へ移行し、その期間が10~15年続くと考えられた。しかし、中国の「中高速」期はわずか7年で終わった。2011年に+9.6%であった成長率は2012年に+7.9%となり「中高速」へ移行したものの、2019年には+6.1%と「中高速」の下限を割り込んだ。

低所得国を脱した国の潜在成長率が低下することは「中所得国の罠」としてよく知られるが、中国は改革の先送りによって、減速スピードが増幅されている。これを象徴するのが投資効率の低下である。中国は2017年時点で1元のGDPを生み出すために6.9元の投資を必要とするが、これは2008~17年の10年間の平均5.7元、1998~2007年の同4.0元を大幅に上回る。

効率低下の元凶となっているのは国有・国有持ち株企業である。サービス業を含む国有・国有持ち株企業の資産がどれだけの利益が生み出したかを示す総資産利潤率をみると、2007年をピークに低下している(右上図)。その一方、資産負債比率はほとんど変化していない。国有・国有持ち株企業は、過剰債務下で成長ペースが鈍化する中国経済を象徴する存在といえる。

投資における「国進民退」
より深刻な問題は、国有・国有持ち株企業の穴を埋める役回りを担ってきた民営企業も不振にあえいでいることである。民営企業は、有限責任企業、株式有限企業など様々な企業があるが、なかでも私営企業の停滞が顕著である。私営企業は企業数の爆発的増加によって、売上が40%を上回る伸びを記録し、2000 年代の経済成長をけん引したが、もはやその勢いはない 。これは、国有企業が躍進する一方で、民営企業が市場からの退出を余儀なくされる「国進民退」が進んでいることを示唆する。

中国では、「経済に占める国有・国有持ち株企業の割合が減少すること」=「市場経済化が進んでいること」と考えられてきた。実際、鉱工業統計をみる限り、国有・国有持ち株企業は過去20年で大幅に低下し、2018年時点で企業数の4.9%、売上の23.4%を占めるに過ぎず、民営企業が市場からの退出を余儀なくされる「国進民退」が進んでいる証拠は見当たらない。

しかし、投資に目を向けるとそうともいえないことがわかる。固定資産投資に占める国有・国有持ち株企業の割合は2016年から上昇に転じている(右下図)。同じ現象はリーマン・ショクに伴う大型の景気対策が打ち出された2009年にもみられたが、非常時でない時期にこれだけ長期にわたって国有・国有持ち株企業の割合が上昇するのは過去に例がない。この背景には、過剰債務問題を警戒する政府がシャドーバンキングを含む企業への資金供給を絞った結果、民営企業が資金調達難に陥ったことがある。2019年の債券市場における純資金調達額(債券発行額-債券償還額)は、国有・国有持ち株企業がプラスを維持する一方で、民営企業はマイナスとなった。

政府内に民営企業に対する資金供給を増やすべきという意見はあるものの、効率の悪い国有・国有持ち株企業に優先的に資金が供給されるメカニズムそのものを見直すべきという声は少ないため、投資に占める国有・国有持ち株企業の割合は今後も上昇すると見込まれる。投資における「国進民退」は、新型コロナウイルスの蔓延や輸出の低迷よりも長期にわたって経済を下押しするため、中国の潜在成長率は冒頭の図に示した「限られた改革」のケースに近づく可能性が高い。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ