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JRIレビュー Vol.10,No.71

【特集 外国人材の望ましい受け入れに向けて】
9章 韓国における外国人材政策-共生社会に向け試行錯誤する取り組み

2019年11月28日 野村敦子


韓国は、1970年代半ばまでは労働力の送り出し国であった。しかし、急速な経済成長や教育水準の向上に伴い、非熟練分野での労働力不足が顕在化した。1990年代に入って、わが国の技能研修・技能実習制度に類似した産業研修生・研修就業制度が導入されると、労働力受け入れ国に転じた。もっとも、研修を建前とする同制度では必要な労働力を十分に確保できないばかりでなく、不法滞在や人権侵害などの問題が深刻化した。そこで、2003年の外国人雇用法や2007年の在韓外国人処遇基本法等の制定により、外国人材政策の抜本的な改革が行われた。2004年には雇用許可制が導入され、企業は合法的に外国人の非熟練労働者を雇用することが可能となった。

韓国の外国人材政策の特徴として、①高度人材(専門人材)に対する優遇措置、②雇用許可制に基づく非熟練労働者の受け入れ、③社会統合政策の推進、を挙げることができる。韓国では、研究者・技術者、専門家など高度人材に対して、専門人材としての在留資格(E1~E7)が付与される。専門人材の滞在期間は最長5年間とされ、一定要件を満たせば一般帰化や永住権を申請可能である。韓国国内で就労する専門人材の数は、5万人弱程度で推移している。また、ITやバイオなど先端分野の専門人材の招聘を目的として、ゴールドカードやサイエンスカードなどの優遇制度が設けられているほか、近年は、外国人起業家の誘致にも注力している。

雇用許可制は、政府(雇用労働部)が「国内で労働力を調達できない企業に対し、適正規模の外国人労働者(非熟練労働者)を合法的に雇用することを許可する制度」である。二国間協定を締結した国(16カ国)の外国人を対象とする一般雇用許可制(E─9:非専門就業)と、韓国系外国人(在外同胞)を対象とする特例雇用許可制(H ─2:訪問就業)がある。基本原則として、①労働市場補完性、②プロセスの透明性、③市場の需要の尊重、④短期循環(定住化の防止)、⑤差別禁止(均等待遇)、を掲げている。雇用できる業種や事業規模、人数等の制限があり、雇用主は国内で求人募集しても雇用できないことを証明(労働市場テストの実施)する義務がある。就業許可期間は3年とされているが、一定の条件のもと、最長で9年8カ月の就業活動が可能である。また、熟練技能人材(E─7)に在留資格を切り替えできる道も拓かれている。

韓国では、外国人の韓国社会への早期定着を促すために、2009年より社会統合プログラムが実施されている。韓国に居住する外国人が、韓国で生活していくうえで必要となる語学や一般教養を習得するプログラムである。韓国語・韓国文化教育と韓国社会理解教育について、所定の履修時間を受講すると、帰化のための筆記試験や面接の免除、手続き期間の短縮、ポイント制の加点などの優遇措置が付与される。そのほかにも、韓国語やパソコンなどの教育講座や相談業務、シェルターの運営など様々な外国人向けサービスが実施されている。

雇用許可制に対して、韓国政府は肯定的な自己評価をしており、ILO(国際労働機関)などの国際機関からも高い評価を得ている。韓国政府等の報告書によれば、産業研修生・研修就業制度に比べ、採用プロセスが透明化され、送り出しにかかるコストや不法滞在者が大きく減少したほか、労働環境の改善が図られている。外国人労働者の導入に伴う経済効果は、2016年において総額74.1兆ウォン(生産効果54.6兆ウォン、消費支出効果19.5兆ウォン)になると推計されている。韓国の生産年齢人口はすでに減少に転じており、経済成長を維持するためには外国人労働者の受け入れ数の増加が必要との主張も見られる。

外国人材政策の抜本的な改革から15年以上が経過するなか、様々な課題も顕在化している。①政府の体制にかかわる課題:縦割り体制による重複や分断、②外国人労働者にかかわる課題:劣悪な労働環境や雇用のミスマッチの発生、③雇用主にかかわる課題:需要とのギャップや受益と負担の不一致、④韓国社会にかかわる課題:定住化に伴う社会的コストの発生や韓国人の雇用への影響、などである。こうした状況下、韓国政府は2018年3月に「第三次外国人政策基本計画」を発表し、改革の方向性を示している。第一次・第二次計画に比べ、外国人の権利強化や自立の視点を打ち出すなど、より国民の理解と社会包摂を意識した内容となっている。韓国は雇用許可制導入後も、外国人材政策の在り方について試行錯誤しているものの、韓国の外国人受け入れ制度の枠組みのみならず、受け入れ後の社会包摂に対する認識や取り組みなどは、わが国の先行事例として重要な視座を提示しているといえよう。
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