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リサーチ・フォーカス No.2026-060

【日本産業政策提言シリーズ③】欧州産業政策の進展と日本への含意―産業政策における「ミッション」の重要性と対中競争へのヒント―

2026年10月30日 ネイサン・ベイリス、ジェイムズ・パターソン、井上肇、野木森稔


欧州は脱炭素を主導してきたものの、エネルギーコストの高止まりや中国企業との激しい競争により、製造業の停滞や産業空洞化の危機に直面している。こうした状況のなか、ドラギ・レポートを基にした新たな産業政策を急速に進めている。欧州委員会は、2025年に提示された「競争力コンパス」にて、米中とのイノベーション格差是正、脱炭素化と競争力強化の両立、過度な依存の削減と安全保障の強化、を競争力向上に必要な三つの変革とし、さらに「クリーン産業ディール(CID)」 を通じて低炭素・ネットゼロ技術などへの資金支援など脱炭素を進めながら産業競争力を高める方針を示した。産業脱炭素化銀行の設立や InvestEU の活用を通じ、公的負担を抑えつつ民間資金の誘発を図ることを目指しており、これらによって社会的課題の解決と経済成長を両立させる取り組みを強力に加速させようとしている。

CIDの中核をなす「産業加速法案(IAA)」は、単なる財政支援にとどまらない強固な制度改革を提示している。脱炭素化の障壁だった行政許認可手続きの迅速化、公共調達などで低炭素要件やEU域内製要件(「Made in EU」)を活用したリード市場の創出、さらに技術の域内蓄積を促すための対内直接投資(FDI)の条件付け、の3本柱で構成される。特に補助金を背景とする安価な製品や組み立て拠点化を進める中国企業を強く意識し、対抗できる企業を育成することで自律的なサプライチェーン構築を推し進めようとしている。

財政制約や対中競争といった共通の課題に直面する日本にとって、欧州の試みは示唆に富む。第1に、特定産業の育成自体を主目的にせず、脱炭素や経済安全保障といった明確な「ミッション」を起点に官民の投資を誘導することである。第2に、補助金に過度には依存せず、許認可の迅速化や公共調達による市場創出など「制度改革を中心とした政策」で持続性を担保することである。第3に、自国優先の過度な保護主義に陥るリスクを回避し、同志国との連携を模索しながら自律性と競争力を両立させることである。これら制度設計は今後の日本の政策推進の有用なモデルとなろう。


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