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Economist Column No.2025-056

急がれる高齢者等終身サポート事業者の課題への対応

2025年11月06日 岡元真希子


■高齢者等終身サポート事業に対する利用者の不安
高齢者等終身サポート事業は、親族からの支援が受けられない高齢者や障害者などが利用するサービスで、生活支援や安否確認、入院・入所時の手続き支援、死後の対応などを行う。身元保証人を引き受けてくれる親族がいないと施設入所・入院が難しいことも多いため、終身サポート事業者と契約する人も多い。相続人がいない人は、葬儀・納骨や家財処分などのために事業者と契約することもある。
しかし、利用にあたっての不安は大きい。まず、急な入院費や死後の清算のためのお金を預けることが一般的だが、その預託金が保全されるのかという点である。次に、自分が死んだ後のことは見届けられないが、契約通りに葬儀などが執り行われるのかという点である。現状では、終身サポート事業の実施に際して許認可や届出は不要で、誰でも事業を開始できるため、信頼に足る事業者を見分けるのは難しい。

■自治体が推進する終活支援
このような状況に対し、安心して終身サポート事業を利用できるように支援する自治体の動きが始まっている。静岡市では2024年から「静岡市終活支援優良事業者認証事業」を実施しており、高齢者等終身サポート事業者からの申請を受けて、事業者を認証する仕組みがある。さらに、今年10月の市長定例記者会見で「エンディングプラン・サポート」の相談受付を開始すると発表した(注1)。新事業は、市民が、認証を受けた終活支援優良事業者と死後事務委任契約を締結した場合に、
(1)死後事務委任契約の履行のための預託金を、市の外郭団体が預かって管理する
(2)死後事務が終了するまでの一連の過程を市が見届ける
ため、預託金の保全に関する不安が大幅に減り、契約遂行の確実性も高まるといえる。
また、愛知県岡崎市では、市と高齢者等終身サポート事業者が協定を締結しており、市民が協定事業者と死後事務を契約したことを市に登録しておくと、市が死亡時の連絡と死後事務の履行確認を行う仕組みがある(注2)。終身サポート事業者と契約をしていても、亡くなったことが事業者に伝わらないと、引き取り手のない遺体として自治体が火葬することになってしまう。死亡届を受理する自治体が、情報連携の役割を担うことによって死後の対応の迅速性・実効性が高まると考えられる。

(注1)静岡市 2025年10月21日 市長定例記者会見 資料1『未来のあんしんに向けた取組「エンディングプラン・サポート」の開始
(注2)岡崎市 終活応援事業・死後事務登録制度

■事業の安定性・継続性に関する課題
このような枠組みの下であれば、比較的安心して終身サポート事業を利用しやすい。しかしながら、これらの事業をもってしても万全とはいえない。なぜなら、利用者が契約してから亡くなるまで長い期間が経過するケースが多く、数十年先までの事業者の安定性・継続性を保証することは、困難なためである。
事業者が倒産した場合であっても、預託金が保全されていれば、他の事業者と契約することによって同様の支援は受けられる。しかし、預託金を取り戻し、代わりの事業者を探して手続きをするのは、心身の機能が低下した高齢者にとっては難しい。認知症などにより判断能力が低下してしまったら、契約を締結することもままならない。入会金や事務手数料などは戻ってこない可能性が高く、その費用負担も発生する。
事業者の中には、預託金や利用料を少額に抑え、利用者が亡くなった後の寄付・遺贈や死因贈与に頼って経営しているところもある。「相続財産を残したい親族もいないし、料金が安いに越したことはない」と考える人もいるかもしれないが、寄付・遺贈や死因贈与を事業者が受領するタイミングならびに金額は予測困難である。利用者が長生きするほど、事業者の立替費用が増えるため、経営が立ち行かなるリスクも大きく、経営が破綻してしまったら、約束していた支援も受けられなくなる。さらに、利用者から「亡くなった時に全財産を寄付する」と約束されていたら、利用者の生活の質の向上に向けた支援ではなく、事業者の取り分を増やすためにできるだけ財産を減らさない方向での支援を行う危険性もある。
このような状況に陥らないためには、利用者自身も終身サポート事業についての理解を深め、安定性・継続性が危ぶまれる事業者は避けるべきである。そのためには、基本的なことであるが、収入の構造に着目して事業者を選ぶことが望ましい。加えて、利用者がより安心して高齢者等終身サポート事業を利用できるように、自治体が後押しをすることが欠かせない。その際、自治体任せにするのではなく、事業者が収入の内訳や寄付の受領実績などに関する情報を開示し、利用者がそれらの情報をもとに判断して選択し、それを自治体が支えるという三者それぞれが役割を分担することが求められる。

(関連レポート)岡元真希子『頼れる親族がいない高齢者の収入と資産を踏まえた民間事業者による支援の活用可能性の検討-高齢者等終身サポート事業者の活用に向けて-』JRIレビュー Vol.8, No.126(2025年6月30日)


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