JRIレビュー Vol.7, No.125
頼れる親族がいない高齢者の収入と資産を踏まえた民間事業者による支援の活用可能性の検討 -高齢者等終身サポート事業者の活用に向けて-
2025年06月30日 岡元真希子
これまで頼れる親族のいない高齢者の問題は、貧困と結び付けて捉えられることが多く、その支援は低所得者対策を通じて行われてきた面が強い。しかし、中・高所得者層における未婚率の上昇に伴い、今後は「お金はあるが頼れる親族がいない」高齢者が増えることが見込まれる。
高齢期には、介護保険や公的福祉サービスでは対応できないニーズが数多く発生する。頼れる親族がいないと、入院や介護施設への入所を断られることもある。現在、高齢者に対する親族代わりの支援は、パッチワーク的に提供されている。認知症の場合は成年後見制度の利用、経済的に困窮している場合は生活保護の受給によって、入院・入所しやすくなることもある。判断能力と経済力がある場合には、民間の高齢者等終身サポート事業者を利用するという選択肢もある。しかしどれにも当てはまらず、ケアマネジャーや介護・医療従事者、近隣住民などが無償で支援しているケースも多い。
国民生活基礎調査をもとに、高齢者等終身サポート事業者を利用する資力がある人の割合を推計した。子どもがいない独居高齢者のうち、収入・預貯金の両面から、民間事業者を十分利用する資力があるとみられる人は23%、収入または預貯金のいずれかの面から利用しうるとみられる人まで含めると45%に上った。これを子・配偶者ともいない高齢者の数に当てはめると、前者は86万人、後者は169万人となる。
現在の高齢者等終身サポート事業者の利用者は、最大でも6万人程度にとどまるとみられ、上記の潜在利用者数に比べて少ない。経済的負担が大きいこと、サービスの必要性を感じにくいこと、事業者が都市部に集中していることなども理由だが、事業者に頼るよりも親族に頼るほうが望ましいという考えが根強いことが最大の理由である。しかし遠縁あるいは高齢の親族に期待できることには限りがある。優良な終身サポート事業者を活用することで、親族の負担や、ケアマネジャー等による無償の業務外支援を減らすことができる。
高齢者が必要とする支援のうち、金銭管理や意思決定の伴走支援などは、親族が担うことの強みが大きいが、日常生活支援、入院・入所時の身元保証、死後対応の多くの部分は、民間事業者も充分担いうる領域である。親族代わりの支援を民間事業者が提供する場合には、適切な手続きを経て、記録を残し、第三者の目が行き届く環境のもとで、利益相反などのリスクに配慮しながら、知識やスキルのある職員が対応する必要がある。それらを満たすることができれば親族と同等以上の支援ができる可能性もある。利用者が安心して事業者を利用できるよう、これらの条件を満たしている事業者の選択の指針を整備をする必要がある。
頼れる親族のいない高齢者がまだ少数だった時代は、緊急・臨時の対応として、近くに居合わせた人が無償で支援することが多く、現在もそのような支援が好事例として紹介されることも多い。しかし、そうした高齢者が急増する今後は少数の例外的対応ではなくなる。高齢者のなかには経済的に厳しい状況にある人と、そうではない人がいる。無償の支援だけでなく、相応の対価を本人が負担する民間サービスという選択肢が広がることにより、親族がいないことに起因する制約を減らし、高齢者本人が希望する生活を実現する可能性が高まると考えられる。
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