■足元好調な入場者数
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の入場者数が好調だ。6月28日には一般来場者数が17.7万人と過去最多を記録しただけでなく、この1カ月間の一日当たりの平均来場者数も約13万人と、USJとディズニーランド・シーを合算した一日当たりの年間来場者数の約12万人を上回っている(USJが約4.4万人、ディズニーランド・シー合計が約7.5万人<注>)。来場アンケートでも約8割が満足と答えている。そして心配された収支についても黒字化の目途も立ちつつあり、多くの関係者の表情も明るくなっている。
筆者も先日、関西にて多くの方にインタビューさせて頂いたが、最初は一日券で入場したが、一度行ってリピートしたくなり、年間通期パスに切り替えたという人の多さに驚いた。また、物販や飲食の売上もかなり好調であるほか、あまり日本人には馴染みがない国のパビリオンを訪れて、改めて世界の広さに感嘆した人も多くみられた。人気なのはパビリオンだけでなく、テーマウィークなどでの真面目な討論会も満員になるところが増えている。筆者は、住友館主催のウェルビーイングに関するパネルディスカッションにファシリテーターとして登壇したが、パネラーの住友系企業の経営陣の力強い発言を、満員の観衆が熱心に聞いていることが印象に残った。
開催前には多くの批判もあった万博であったが、関係各位の努力の結果、それを乗り越えて世界的なイベントにふさわしいものとなりつつある。まさに、2025大阪・関西万博の逆襲が始まったといってよいだろう。
<注>AECOMのデータを基に日本総合研究所試算
■後半に向けて必要な対応
もっとも、閉幕の10月13日まではまだ日数が残っており、最後まで息切れしないような対応が重要だ。この2カ月間のように、アンケート結果を踏まえオペレーションを毎日高度化して、少しでも多くの人々が楽しめるようにすることはもちろんのこと、酷暑の時期を迎えるなか、人々が熱中症等にならないような対応も急ぐべきだ。さらに万博会場だけでなく、万博来場者を大阪・関西、さらにはその他の地域にも誘客して、全国にこの盛り上がりを波及させるような対応も進める必要がある。
■この勢いをレガシー創出に
さて、万博といえば1970年の大阪万博が成功例として挙げられるが、藤山【2025】によると、その1970年が関西の域内総生産のピーク(全国に対するシェアが19.3%)となり、その後長らく低落傾向となった。その意味では、1970年万博はイベントとして大成功であったが、経済的なレガシーを残したかという観点では反省の対象であるといえるだろう。2025年の万博は、その反省を踏まえ、逆に関西の成長の起爆剤にすべきである。足元で関西の域内総生産の全国に占めるシェアは15%強で下げ止まっており、ここで万博のレガシーが新たな成長力を生み出せれば、この地盤沈下から抜け出す絶好の機会となる。
具体的には、まずは万博の人気コンテンツや象徴的なものを移築するなどして残し、地域のシビックプライドを高めていくことが考えられる。また、産業競争力強化の観点からは、万博でも注目され、関西の強みであるライフサイエンス、脱炭素等のエネルギー関連、中小企業、食・文化等の分野をさらに強化すべきである。そして、夢洲で2030年に開業予定となっているカジノ付き統合型リゾート(IR、Integrated Resort)を活用して、世界的な観光・MICE都市へと脱皮することも期待される。さらに、万博には158の国・地域が参加しており、万博を通じて関西・大阪は彼らとのネットワークが構築されている。今後の世界における成長地域としてグローバルサウスが注目されているが、それら国々とわが国の連携における重要な結節点に大阪・関西はなるチャンスがある。
最後に、関西は博覧会と不思議な縁があることを指摘したい。明治維新直後、東京が首都となるなか、京都・大阪ともに経済が衰退した時期があった。しかし、京都はまず、京都の活性化を願う豪商 3 人が発起人となって 1871年に日本で初めての博覧会を西本願寺で開催し、興業的にも成功を収めたほか、1895 年には第4回内国勧業博覧会を開催し、それをきっかけに道路・宿泊施設の整備が進められた。つまり、京都は観光都市としての基礎形成と経済復興の足掛かりに万博を活用した。また、大阪は 1903 年に最後にして最大の内国博である第5回内国勧業博覧会を成功させ、それを弾みに経済成長を遂げた。その後。1920 年代には近隣市町村の合併等の効果もあり、東京府東京市を上回る日本最大の大都市となった(大大阪時代)。このように、明治期の博覧会は関西経済復活の嚆矢となったイベントであった。今回の2025大阪・関西万博も、後世の歴史家からそのような評価が得られることを期待したい。
<参考文献>
“Theme Index Museum Index 2023”, AECOM, 2025年6月29日閲覧
https://aecom.com/wp-content/uploads/documents/reports/AECOM-Theme-Index-2023.pdf
藤山光雄「開幕後の大阪・関西万博をみる視点 ~機運醸成、関西での観光促進、成長産業の育成、夢洲のまちづくり~

石川智久「万博成功に向けて:1970 年万博の示唆 ―①理念・エンターティメント性・希望を重視した全体設計、 ②オールジャパン体制、③若手・ベンチャー活用、 ④レガシー創出等が重要 ―

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