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【日本総研 サステナビリティ・人的資本 情報開示状況調査(2024年度)】
人的資本編 第3回 指標・実績・目標の動向(後編)

2025年02月03日 芦田章吾、髙橋千亜希、方山大地、太田康尚國澤勇人


1.はじめに

 日本総研では、人的資本の開示要請をふまえ、2023年に有価証券報告書における情報開示の状況について調査(以下「前回調査」)を行ったが、新たに「日本総研 サステナビリティ・人的資本 情報開示状況調査(2024年度)」(以下「本調査」)として、2回目の調査を実施した。
 本稿では、前回(第2回)と同様に開示指標に焦点を当て、指標の目標値や実績値の開示状況について解説する。 尚、調査内容については、第2回を参照されたい。

 第1回調査の背景・概要
 第2回指標・実績・目標の動向(前編)
 第3回指標・実績・目標の動向(後編)<本稿>
 第4回必要な人材像の特定・開示動向
 第5回開示対象範囲の考え方・人的資本投資の検討状況


2.指標の目標・実績の開示状況を調査する背景

 本調査の背景には、有価証券報告書での目標や実績の開示が必ずしも十分でない現状がある。金融庁「令和5年 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項等」(※1)では、金融庁が示すサステナビリティに関する企業の取り組みの開示における留意事項として「人的資本(人材の多様性を含む)に関する方針、指標、目標及び実績のいずれかの記載がない又は不明瞭である」が挙げられている。

3.調査の結果

 1.実績値と目標値の開示割合の比較

 調査の結果、有価証券報告書における人的資本に関する指標のうち、本調査対象企業99社における実績値の開示割合は、96.3%、目標値の開示割合は75.4%であった。
 また、2回目の開示を行った企業76社における2カ年の変化としては、実績値は1回目の開示(前回調査)では、87.9%であったのに対し、2回目の開示(本調査)では95.5%であった。また、目標値は1回目の開示では45.5%であったのに対して、2回目は69.3%であった。(図表1)



 目標値の開示割合は昨年から増えているものの、実績値に比べて低い。これは、各社とも目標値を検討中であるか、もしくは、目標の達成が不確実であることから目標値の開示を控えようとしていえることが原因と推察される。この点、いわゆる「結果指標」については、必ずしも自助努力のみで達成できないこともあり、目標値の設定・開示は容易ではない。一方で、各種施策の進捗を測る、いわゆる「プロセス指標」であれば目標値の設定・開示は可能であろう。結果指標の設定・開示に躊躇する企業には、プロセス指標の検討・開示を求めたい。(※2)

 2.実績値と目標値のカテゴリー別の開示割合の比較

 次に、内閣官房非財務情報可視化研究会の「人的資本可視化指針」を参考に分類した計20のカテゴリー別に、実績値、目標値の開示割合を確認した。
 調査対象企業99社のカテゴリー別の開示割合を確認すると、実績値は上記図表1のとおり全体的に高水準でありカテゴリーによって大きな差はない。一方、目標値ではカテゴリーによる差がある。(図表2)



 次に、2回目の開示を行った企業76社における実績値・目標値の変化を確認した。





 目標値について、カテゴリー別の変化を見ると、図表4のとおり、この1年で➁育成、③スキル・経験、⑥維持、➆サクセッションといったカテゴリーの開示割合が高まっている。この点、別稿において、投資家はその企業において必要となる人材の種類やスキルの開示を求めていることを紹介した。②育成③スキル・経験の目標値の開示割合の高まりは、投資家の期待に沿うものになっていると言えよう。

4.おわりに

 本稿では、指標の実績値、目標値の開示割合の傾向について、本調査対象企業99社の状況、および、2回目の開示を行った企業76社の2カ年の変化について述べた。本調査対象企業99社の多くが実績値を開示しており、人的資本情報の管理は企業内で進んでいることが分かった。一方、目標値の開示割合は実績値に対して少ないが、増加傾向にあり、投資家の期待に近づいているのではないだろうか。引き続き、各企業の開示内容を注視したい。
 次回(第4回)は、経営戦略を実行する上で必要な人材の像について、有価証券報告書においてどのような開示がなされているかについて紹介する。

(※1) 金融庁「令和5年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項等
p.25
(※2) エンゲージメントサーベイで例えると、結果指標とは「サーベイスコア」を指し、プロセス指標とは「サーベイの回答率」などが挙げられる。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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