リサーチ・フォーカス No.2024-054
【サプライチェーン再編シリーズ②】
有力な生産移転先ベトナムに供給制約の影―労働力や電力に不安、他のアジア諸国・地域にもチャンス―
2017 年から 4 年続いた第一次トランプ政権期には、関税引き上げなど米国による対中制裁の強化が、グローバル企業の脱中国の動きを加速させた。それにより米国の貿易構造は大きく変化し、輸入全体に占める中国のシェアは大きく低下した。一方、中国以外のアジアやメキシコ・カナダのシェアが大きく上昇しており、なかでもベトナムの上昇が際立った。音声・画像受信機を中心に多くの商品で、中国からの輸入が減少する代わりに、ベトナムからの輸入が増加した。ベトナムは中国に代わる「世界の工場」としての機能を高めたと言えよう。
2025 年 1 月に発足する第二次トランプ政権でも同様に、関税の大幅引き上げを中心に、米国による対中政策はますます厳しくなる見込みである。近年の対米輸出の増減パターンを分析したところ、ベトナムが中国に対して高い競争力を有しており、グローバル企業にとって生産移転先の有力候補であることが示された。ベトナムにおいて、多くのグローバル企業が生産と貿易の拠点を新たに設けることで、ベトナムの設備投資や輸出が増加し、成長の勢いが強まると見込まれる。
しかし、そうしたメインシナリオに対し、①生産年齢人口の伸びの鈍化、②脆弱な電力インフラ、③国内の経済規模に比べ過大な輸出、といったベトナムの弱点により、生産キャパシティが予想外に早く限界を迎える、というリスクシナリオも想定しておく必要がある。これらの弱点は直ちに表面化するものではないが、トランプ新政権が過激な対中強硬策を採る場合、生産移転が急激に進み、そうしたリスクシナリオが顕在化する可能性が高まる。
上記のリスクシナリオに向かう場合、アジアでは、台湾、タイ、マレーシア、インドへの生産拠点移転が次善の選択肢となる。また、日本やドイツといった先進国も蓄電池などで生産拡大の大きなチャンスを得る可能性がある。
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