先端技術リサーチ
ブロックチェーンと生成AIにおける電力消費の現状:利用1件あたりのワット数から考察する
2024年12月09日 先端技術ラボ 金子雄介
本レポートは、ブロックチェーンやAIモデルの電力消費量について、システム全体と共に、利用1件あたりのワット数を試算した。さらに、従来型サービスとの比較を行った。併せて、電力消費に関する動向や解決の方向性について、最近の事例を示した。
全世界の電力消費量は増加傾向であり、その一因として、暗号資産(のインフラであるパブリックブロックチェーン)や生成AIの利用拡大が指摘されている。企業がグリーントランスフォーメーション(GX)を進めるためには、まず現在の電力消費量を把握することが重要である。しかし、ユーザ企業の観点では、ITサービスの利用に伴う消費電力量を把握しにくい問題がある。なぜなら、ブロックチェーンや生成AIのサービスに伴う電力消費の大部分が自社外で発生するためである。このことは、Scope3排出量の算出を将来精緻化するにあたっての障壁となりうる。
ブロックチェーンや生成AIモデルの電力消費量を考えるにあたり、システム全体の消費量と、処理1件あたりの消費量を、それぞれ把握することが有効である。1件あたり電力消費量を知ることで、ユーザ企業にとっては省エネ施策を企画する際の基礎データになり、各ユーザにとってはIT活用に伴うエネルギー消費について意識向上の契機となる。
暗号資産の代表格であるビットコインの年間電力消費量(2023年)は1,211億kWhで、これは世界全体の電力消費量の0.44%を占める。また、取引1件あたりの消費量は794kWhで、これは現在のクレジットカード決済の72~105万倍に相当する。電力消費量が莫大となる主因は、台帳のコンセンサスアルゴリズムにProof-of-Work(PoW)型を採用しているためである。これをProof-of-Stake(PoS)型に移行したイーサリアムは、移行前後で電力消費量が数千分の1に減少した。一方、両者とも、台帳を数千以上のノードで複製保管していて、それに要する電力消費量(年間約1000万kWh)も極めて大きい。
AIモデルの電力消費は、開発時と利用時(推論時)に区分される。開発時の電力消費量は、米国やEUでは事実上の上限規制があり、上限内で開発・提供を行う動きがみられる。
利用時の電力消費量は、1件あたり数Whである。これは従来のGoogle検索(1件あたり0.3Wh)の約10倍であり、社会的に許容範囲といえよう。ただし、今後の普及次第では、消費量が大幅に増える恐れがあり、従来型との使い分けが必要になる可能性がある。
参考
・金子雄介, パブリックブロックチェーンの電力消費と環境負荷低減策の考察,
電子情報通信学会技術研究報告, 121(408) 83--88 (2022)
・Yusuke Kaneko, Electricity Consumption and Environmental Impact Reduction
Measures in Public Blockchain, in Proc. 2022 IEEE International Symposium on
Technology and Society (ISTAS) (2022), DOI: 10.1109/istas55053.2022.10227105
・金子雄介, ブロックチェーンと生成AIの利用1件あたりの電力消費量,
電子情報通信学会技術研究報告, 124(295) 9--16 (2024)
ブロックチェーンと生成AIにおける電力消費の現状:利用1件あたりのワット数から考察する
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