リサーチ・フォーカス No.2024-037 最低賃金引き上げ、格差縮小と労働供給増に期待-中小零細企業の生産性向上策と再編策をセットで- 2024年10月09日 藤本一輝、西岡慎一最低賃金が上昇している。2024 年10 月から最低賃金(時給)が全国平均で51 円引き上げられ、1,055 円となった。全国平均の引き上げ幅は過去最大であり、そのうち27 県では国が提示した目安を大きく上回った。さらに、石破新首相は「2020 年代中に最低賃金を1,500 円に引き上げる」考えを明らかにし、2030 年代半ばとしていた従来の政府目標を大幅に前倒しした。これが達成されれば、わが国の非正規雇用者の所得が大幅に上昇し、所得格差の縮小につながる可能性がある。わが国のカイツ指標(平均賃金に対する最低賃金の比率)は主要国のなかで上位に浮上するなど、国際的にみたわが国最低賃金の割安感も解消に向かう公算が大きい。最低賃金の大幅上昇で「年収の壁」による就業調整の動きが縮小し、非正規労働者の労働時間が増加する効果も見込まれる。一方、賃上げ余力が小さい企業にとってみれば、最低賃金の上昇はすでに重い人件費負担のさらなる増加につながる。なかでも中小零細企業でその影響は大きく、最低賃金が1,500 円まで引き上げられた場合、中小企業(資本金1千万~1億円)の経常利益は41%、零細企業(同1千万円未満)は50%下押しされる計算になり、6%の下押し影響にとどまる大企業(同10 億円以上)を大きく上回る。そのため、最低賃金の大幅な引き上げを実行するためには、中小零細企業を対象に生産性向上や整理・再編に向けた施策をセットで実行する必要がある。これには、中小零細企業の価格転嫁や設備投資を後押しする政策を拡充するほか、M&Aを促進する環境整備などが挙げられる。また、従業員の配偶者を優遇する企業内制度の見直しなど、労働参加意欲を阻害しない仕組み作りを進めることも重要である。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)