オピニオン
地方創生第二幕
2024年10月08日 瀧口信一郎
鳥取県に「鳥取市さじアストロパーク」という日本屈指の103cm反射望遠鏡と宿泊コテージが付設された4基の望遠鏡からなる天文台があります。1988年に竹下登元首相が推進した「ふるさと創生交付金事業」により、全国の自治体に配布された1億円を使い、旧佐治村(現在の鳥取市佐治町)が1994年に建設したものです。今年、めでたく30周年を迎えています。1億円で金塊を購入する自治体もあったなか、星空の美しい地域特性を生かして、今も輝きを失わない施設を残した旧佐治村の方々の慧眼に敬意を表します。
古くは、田中角栄元首相の日本列島改造論、竹下登元首相のふるさと創生、安倍晋三元首相の地方創生など、都市と地方の格差が問題になる度に地方活性化が大きな政治テーマとして復活してきます。
この度、2024年10月1日に就任した、鳥取県出身の石破茂新首相は地方創生交付金を倍増することを表明しました。初代地方創生担当相を務めた石破首相にとって地方創生はライフワークでもあります。2014年に地方創生本部が設立されて以来、10年ぶりに地方創生が大きく動き出します。
しかし、地方創生は補助金で箱ものを建設することではありません。地方創生は、正式には「まち・ひと・しごと創生」であり、人口減少に歯止めをかけ、東京圏への過度の人口集中を是正し、それぞれの地域で、豊かで安心な地域社会の形成、地域社会を担う多様な人材の確保、地域での就業機会の創出を目指すものです。
地方創生は、地域の自律的な経済活動が成立して初めて持続可能なものになります。国の予算に頼る公共工事は持続可能な地域の経済活動ではありません。1990年代から2000年代に「地方分権」が唱えられ、中央政府による予算権限を地方自治体に移す動きもありましたが、地域の自律的な経済活動がない場合、国家予算を地方に移すことは日本全体の経済活動にはマイナスになりかねません。
2014年に始まり10年を経た地方創生の意義は、地域で事業を生み出そうという機運を高めたことです。単なる箱ものとならないように意識して生み出された地域の事業のなかに、地方銀行が融資先を見出し、地域で資金循環が起こりつつあります。「地域おこし協力隊」を出発点とし、都市から地方へ人が移住する動きも当たり前になってきました。
筆者は東日本大震災以降、ドイツの地域経済の一翼を担う生活インフラサービス会社シュタットベルケを参考に、地域資源を活用し、地域に発電、小売の事業の連鎖を生み出し、地域経済に貢献する地域エネルギー事業の創出に取り組んできました(※1)。
今回、石破首相により地方創生第二幕が開かれます。地方で出てきた事業の芽を、地域にしっかりと根を張り巡らせる経済システムに発展させることが大切です。これには地域の課題解決のため、個々の事業者が連携することが大切です。鳥取市佐治町は環境省の脱炭素先行地域に選定され、小水力発電、電気自動車の導入が決まっています。食料品店やガソリンスタンドも撤退して日々の生活にも支障をきたしている佐治町ですが、筆者はこの基盤を生かし、小水力発電の電力を電気自動車で利用する、地域交通サービスの創出に取り組む(※2)予定です。佐治町ではアストロパークを観光資源として生かしていくためにも地域外から人がアクセスしやすい地域交通サービスが求められており、好循環を生めば、経済システムとしての根になっていく可能性があります。
地方創生は事業間の連携で経済的なネットワークが強固になり、人材を集積できるようになってこそ、本格的に人口減少への対応力を持つことになるでしょう。
(※1) 瀧口信一郎「地方創生とエネルギー自由化で立ち上がる地域エネルギー事業」 JRIレビュー、2015 Vol.7, No.26
(※2) 瀧口信一郎「限界集落における交通と電力の地域インフラのリニューアル」 JRIレビュー、2024 Vol.8, No.119
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。