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リサーチ・フォーカス No.2024-012

円安が阻む好循環、抜本策は成長力強化―日米の生産性格差が円安の底流に―

2024年06月06日 西岡慎一後藤俊平


円安が賃金・物価の好循環を阻んでいる。本邦企業の海外への販路が輸出から現地法人にシフトするなかで、海外収益が現地に滞留する傾向が強まっており、円安による為替差益が国内に還流しづらくなっている。製造業では海外現法の売り上げは2023年に176兆円と輸出の1.7倍に達し、海外での内部留保は全体で50兆円にのぼる。そのため、かつてに比べて円安による経済へのプラス効果は低下している。

円安が分配面に及ぼす影響も大きい。なかでも、輸入原材料を多く使用する中小企業や非製造業では円安で収益が圧迫される。試算によれば、円安が10%進行すると大企業(製造業)では収益が8%増加するのに対し、中小企業(非製造業)では2%の減益となる。こうした減益圧力を価格転嫁で吸収できない場合、中小企業(非製造業)では賃金が2%押し下げられる可能性がある。こうしたセクターに従事する労働者は6割にのぼり、円安が賃上げ継続に水を差す恐れもある。

円安は日米金利差の拡大に起因している。日銀は為替変動が物価に及ぼす影響を注視し、緩和バイアスが強かったこれまでの政策スタンスを中立方向に戻そうとしている。円安による悪影響を踏まえると、こうした動きは妥当といえる。

ただし、日米金利差の底流にはわが国における生産性の停滞がある。1990年代から日米間の生産性格差が拡大するとともに、実質ベースの円ドルレートは一貫して円安で推移している。わが国では、貿易財およびサービス部門の生産性が米国に比べて伸び悩んでおり、稼ぐ力で劣っている。これが、財・サービスの貿易赤字と円安の進行を招く要因となっている。利上げや為替介入だけでなく、実効性のある成長戦略の着実な履行が過度な円安を防ぐ抜本策となる。


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