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【人的資本についての戦略的な発信に関する現状と今後の動向】
第1回「人的資本に関する発信媒体の最新動向」

2024年05月30日 植原健吾、織田真珠美、村井庸平、大矢知 亮、リョウ 苗蕾、太田康尚太田壮祐


1.はじめに
近年、人的資本経営に関する注目が高まっており、日々のニュースなどで目にする機会も増えている。Googleトレンドにおける「人的資本」の検索数は図表1の通りであり、2019年頃から徐々に検索され始め、2021年10月頃から検索数が増加、2022年10月以降は安定的に高い水準で検索されている。このように、2020年頃から人的資本という考え方が徐々に注目され始め、2024年現在では浸透・定着してきている様子がうかがえる。



「人的資本」への注目が高まったきっかけと考えられる、主要な発表された指針等は図表2の通りである。



 まず、2020年9月、経済産業省の「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書~人材版伊藤レポート~」が公表された。このレポートでは、経営環境の変化に応じた人材戦略の構築を促し、中長期的な企業価値の向上につなげる観点から、経営陣、取締役、投資家それぞれが果たすべき役割等に関する提言がされている。
 その後、2021年6月、「コーポレートガバナンスコード」が改定され、企業の中核人材における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標に関する開示、人的資本への投資等の開示に関する補充原則が追加された。
 2022年5月には、2020年公表の人材版伊藤レポートに関する深堀りを行った「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~」が公表された。このレポートでは、前版で提言された「3つの視点・5つの共通要素」を具体化する際に、実行すべき取り組みや、推進の際の工夫が記載されている。
 2023年1月には、「改正企業内容等の開示に関する内閣府令」が公布・施行され、2023年3月31日以降に終了する事業年度に係る有価証券報告書において、人材育成の方針や社内環境整備方針および当該方針に関する指標の内容、多様性指標等の開示が求められるようになった。
 人的資本情報の開示の目的が、人材戦略や各種取り組みを通じた中長期的な企業の価値創造のストーリーをステークホルダーに示すものであることを踏まえると、男女間賃金格差や女性管理職比率といった法定開示の内容だけでは不足していると考えられる。そのため、法定開示にとどまらず、独自の指標を開示する企業が徐々に増加している。

2.人的資本情報の開示媒体について
 法定開示にとどまらず、さまざまな人的資本情報の開示を行う企業が増えているが、その人的資本情報は有価証券報告書や統合報告書など、さまざまな媒体でバラバラに開示されていることが多い。これは、各種媒体の所管が広報・IR部門やCSR部門、経営企画部門などに分かれており、人事部門は、各所管部門の求めに応じて情報提供のみ行うことが多いためであると考えられる。そのため、本来の目的であった、中長期的な価値創造ストーリーの全体像を理解することが難しくなっている。
 このような状況下、経営戦略やパーパスの実現に向けた人材戦略および具体的な取り組みに関する情報を一元的に集約し、人的資本経営の推進による会社の持続的な成長のストーリーを対外的に発信することを目的としたレポート(以下、Human Capital Reportとする)を発行する企業も現れている。
 これまでの人的資本情報の代表的な開示媒体の位置づけは図表3の通りである。



 最も幅広に情報を開示している媒体としては、統合報告書が挙げられる。統合報告書おいては、企業価値向上に向けた人材戦略、タレントマネジメント方針および具体的な取り組みやKPIが簡潔に記載されていることが多い。
 一方、Human Capital Reportにおいては、人的資本経営に対するトップの考え方や、推進体制、経営戦略の実現に向けた人材戦略、および、その達成に向けた取り組みやKPIが詳細に記載されている。
 Human Capital Reportの発行により、企業の「人」に対する考え方や具体的な取り組みについてステークホルダーはより深く理解し、中長期的な価値創造のストーリーへの納得度が向上することが期待される。
 統合報告書は任意開示媒体であるが、企業価値レポーティング・ラボによる「日本の持続的成長を支える統合報告の動向2023」によると、統合報告書発行企業数は、2004年に1社であったところから、2010年22社、2020年609社、2023年には1,017社と急増している。この背景にはESG投資の拡大や非財務情報の開示ニーズの高まりがあると考えられる。
 Human Capital Reportの発行企業は、現在数社程度にとどまるが、近年の人的資本経営に関する関心の高まりを踏まえると、統合報告書のように今後発行企業数が増加していく可能性もある。しかしながら、Human Capital Reportについては「型」が定まっておらず、現在発行されているHuman Capital Reportも、発行企業によりその構成・内容はさまざまである。そこで、Human Capital Reportに関する国内外の動向および今後の展望について、第2回以降詳しく見ていくこととする。

以上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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