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身寄りのない高齢者の生活上の多様なニーズ・諸課題等の実態把握調査

2024年04月19日 沢村香苗岡元真希子辻本まりえ齊木大


*本事業は、令和5年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業として実施したものです。

■本稿は令和5年度に実施した調査研究事業の概要と成果をまとめたものです。

1.事業の目的
(1)高齢者を取り巻く支援資源の減少

 『令和5年版厚生労働白書-つながり・支え合いのある地域共生社会-』は、第1章を「社会保障を取り巻く環境と人々の意識の変化」として、少子高齢化と人口減少、世帯や家族の規模の縮小、未婚率の上昇について述べている。また、人口規模の小さな市区町村の増加と大規模都市への人口集中、地方公共団体の職員の確保困難についても述べている。さらに、家族や地域との交流に対する人々の意識も、形式的なものを望む傾向にあるという調査結果が紹介されている。つまり、家族と地域の規模の縮小という量的な変化に、つながりの希薄化という質的な変化が加わり、個人をとりまく支援資源はかつてより大きく減少している。さらに、高齢期についていえば、長寿化に伴って支援を必要とする可能性のある期間は延長しており、支える側であった若い世代の家族が高齢になるという形でも、支援資源が減少している。

(2)福祉ニーズの複雑化
 また、同白書においては、歴史的な観点から、地域の相互扶助や家族同士の助け合いを補完・代替するものとして公的支援制度が整備されてきた一方で、個人や世帯の抱えるリスクが多様化しており、課題が複合化したり制度の隙間に落ち込んでいることも書かれている。
 これまで公的支援制度において、身寄りのなさ(近くに支援を提供する親族がいない)自体はリスクとしてとらえられておらず、身寄りのない高齢者(ただし、この課題は必ずしも高齢者のみに限るものではないことに留意が必要である)の抱える課題は制度の隙間に落ちがちである。その結果として、例えば保証人がいないために入院や入所や入居が円滑にできない可能性があることや、空き家や無縁遺骨といった死後の問題などが顕在化している。
 身寄りのない高齢者等の生活上の課題について、公的制度や事業が利用できない場合や、公的制度や事業の範囲外の支援が必要な場合は、何らかのきっかけで関わりをもったケアマネジャー、医療機関のスタッフ、生活保護のケースワーカー等が業務外かつ無償の支援を提供せざるを得ない場合があることがこれまで指摘されてきた。
 また、身元保証等高齢者サポート事業などの民間事業者が契約に基づいて支援することもあるが、契約の複雑さや倒産のリスク等、消費者問題となる危険性が以前から指摘されている。

(3)身寄りのない高齢者等に対する注目
 2023年5月24日の第211回国会(常会)予算委員会において、身寄りのない高齢者等の課題についての質問がなされ、そこでは支援者が職務範囲を超えて無償での支援を提供せざるを得ないことや身元保証等高齢者サポート事業の監督官庁がないことが問題と指摘された。
 また、2023年8月には国会議員らによる「身寄りのない高齢者(おひとりさま)等の身元保証等を考える勉強会」より、「身寄りのない高齢者(おひとりさま)等の身元保証等への支援~誰もが安心して歳を重ねることのできる社会へ~」と題した提言が出された。
 加えて、令和5年8月、総務省行政評価局において、「身元保証等高齢者サポート事業における消費者保護の推進に関する調査結果報告書」が公表され、事業の特徴を踏まえ、一般的な契約に比べ消費者保護の必要性が高いと考えられることから、今後、留意すべき事項や求められる対応の方向性について課題提起として取りまとめられた。
 さらに、2023年9月から12月にかけて首相官邸で行われた「認知症と向き合う『幸齢社会』実現会議」においても身寄りのない高齢者等の生活上の課題への対応が議題となり、とりまとめでは「家族が全面的に支援することを前提としない意思決定支援の仕組みが必要。介護・医療従事者、身元保証事業者が意思決定支援に取り組んでいるものの権限・主体が明確でない」と言及された。
 以上のように、2023年に入ってから「身寄りのない高齢者等」の抱える生活上の課題が注目されているが、課題の詳細や支援の内容については断片的な情報に留まっており、広い範囲で実態把握を行う必要があると考えられた。

(4)本事業の目的
 本調査研究は、身寄りのない高齢者等に対して提供される、生前から死後の対応を含めた様々な手続きの代理等の支援について、自治体・社会福祉協議会・身元保証等高齢者サポート事業などの民間事業者が現在どのように提供し、どのような課題があるかについて実態を把握することを目的とした。また併せて、把握した実態を踏まえ、身寄りのない場合であっても安心して生活が継続できる仕組みを提案することも目的とした。

2.事業の主な内容
(1) 身寄りのない高齢者への支援に関する実態把握調査

 身寄りのない高齢者の支援を行っている可能性が高い民間事業者(身元保証等高齢者サポート事業者などの団体、高齢者を支援対象としている居住支援法人、自立相談支援事業受託者)、市区町村社会福祉協議会、自治体が現在行っている支援の実態ならびに課題を把握することを目的として実施した。調査期間は令和5年11月30日(木)~12月21日(木)(※12月28日(木)到着分まで集計対象とした)だった。

①調査の対象と回収率
●民間事業者調査
a)身元保証等高齢者サポート事業者、単身高齢者の支援を行っている公社等(395ヵ所)
b)高齢者を支援対象としている居住支援法人(568ヵ所)
※aのリストにも載っている場合はaの宛先を優先した。また複数の都道府県で指定を受けているなどの理由により同一法人名・同一住所の団体が複数ある場合は名寄せし、法人本部にまとめるなどした。
c)自立相談支援事業受託者(119ヵ所)
※自立相談支援機関が自治体直営の場合、社会福祉協議会が受託者の場合は除外した。

有効回収数222件(有効回収率20.5%)

※上の表は複数回答。
居住支援法人の指定・自立相談支援事業の受託の両方にあてはまるという回答は5件

●社会福祉協議会調査
市区町村社会福祉協議会(1,825ヵ所)※政令指定都市は区社会福祉協議会
 有効回収数649件(参考:市区町村社協総数に占める回収数の割合35.6%)
 ※回答のなかには、都道府県社協による回答も含む

●自治体調査
1,741市町村(市792、町743、村183、特別区23)
 ただし、高齢部局として介護保険担当課(室)、福祉部局として福祉事務所設置市町村の生活困窮者自立支援制度主管部局のそれぞれに依頼した。
有効回収数1,075件
(自治体数913、参考:市区町村総数に占める回収自治体の割合52.4%)
※回答のなかには、福祉事務所ごとの回答も含んでいる
(複数自治体をカバーしていても回答は1件としてカウント)


②調査内容
(a) 支援の実態把握
 4つの事例(生活支援、入退院、サ高住への転居、死後対応)を提示し、各事例について7~9つの場面に着目し、以下の点を尋ねた。
 ・支援経験の有無
 ・支援実態(自分の団体で行う、連携先に依頼する、その場面の支援は行わない、など)
 ・支援の難しさ(時間や人手に起因する難しさ、権限の不明確さに起因する難しさ)
 ・場面の発生頻度(最も頻繁に発生する場面とその頻度)
(b) 支援するための事業について
 ・いわゆる「身元保証」に含まれる、生活支援・入退院支援・入所入居支援・死後対応を提供しているか
 ・提供している場合の、実施方法、連携先、人員体制、利用者数
 ・課金方法(契約時、定期払い、利用の都度など)、預託金の有無と使途、預託金の保全
 ・寄附・遺贈の受入、契約時の利用者の意思確認、解約・返金に関する説明 など
(c) 現在ならびに今後の対応に関する方向性 (社協・自治体のみ)
 ・身寄りのない高齢者が入院・入所を断られる状況の発生頻度
 ・現在の対応方法と今後の対応方針

 (a)については、民間事業者・社会福祉協議会・自治体共通の設問とした。
 (b)については、事業・サービスとして身寄りのない高齢者の支援を実施している場合に、利用実績や体制、課金などについて尋ねた。大部分は民間事業者・社会福祉協議会・自治体共通の設問としたが、一部、自治体にはあてはまらないもの(例:事業の採算など)については自治体のみ回答対象外とした。
 (c)については、社会福祉協議会・自治体のみを対象とした。

(2) 学識経験者・現場有識者による委員会での検討
 調査研究事業の実施にあたっては学識経験者・現場有識者による委員会を構成し、調査設計ならびに結果の取りまとめや提言について検討した。
●委員会構成


3.事業の主要な成果
(1) 対象者の特徴と既存の制度・施策
 (資力や判断能力があっても課題を抱える)

高齢期には自らの心身機能の変化や、環境の変化(例えば配偶者の病気や家の老朽化など)によって、過去に経験の少ない、重大な問題を解決しなければならない場面が多く発生しうる。テーマとしては生命や財産にかかわるような、それまでの人生で経験したことがない事項に関する判断、結果が重大かつ不可逆的な事柄が含まれるし、自らの心身機能の低下や環境の変化によって問題解決のリソースが不十分になった状況において問題を解決することを余儀なくされる。

図表 1 高齢期の問題解決の場面の例

(出所:ホワイトペーパー「個・孤の時代の高齢期」width="15"、日本総合研究所、2022年)



 解決策(たとえば介護保険サービスや成年後見制度など)が存在するだけでなく、それを利用しようと決めるための判断や意思決定、さらに利用のための手続きまでを行わなければ、問題は解決しない。現状では、頼れる親族が身近にいない場合、業務として何らかの支援を身近で提供する人(ケアマネジャーや医療ソーシャルワーカーや自治体職員や後見人など)が、業務外の分野についてもこのプロセスを代理せざるを得ないことがある(いわゆるシャドウワーク)。本人が問題を解決できず、それを代理する保証人もシャドウワークをする支援者もいない場合は、問題が解決できずに残る、またはさらに複雑化してしまう。身寄りのない高齢者等はそのようなリスクが高いとみなされ、サービスから排除されてしまう。

図表 2 問題解決のプロセスと解決できない場合の結果



(2) 対象者の特徴と既存の制度・施策
 (資力や判断能力があっても課題を抱える)
 資力が低いために生活保護を受給していたり、判断能力が不十分になったために成年後見制度や日常生活自立支援事業を利用している場合は、ある程度、特定の主体が本人の問題解決を伴走支援する。それらの対象となっていない人に課題が生じた場合、自治体や社会福祉協議会といった公的な機関にとっては「制度の隙間」として支援が困難とされることが多い。しかし、これまで見てきた高齢期の課題は誰にでも生じうる。資力があり、判断能力も日常生活を送る上では十分にある高齢者(図表 3の網掛け部分)は「隙間」というほど少ないわけではないと考えられる。
 いつ判断能力が不十分になるかわからないというリスクがあるために、身寄りがなければサービスから排除されうるし、資力があっても、例えば銀行に行けないなどの理由で、それを有効に使えなくなることがありうる。何らかの事業を利用して支援を受けようとしても、選択肢が十分にあるとはいえない。自らの判断力と資力ですべての問題を解決できる人は現段階では少ないと考えられる。

図表 3 様々な人が問題を抱えうる



 場面によって利用できる制度やサービスは異なるため、いくつかの場面を取り上げて整理した。制度・事業やサービスは黄色・点線囲み、はっきりとした制度はないものの、その場の状況に応じて提供される場合があるものについてはグレー・一点鎖線囲みで図示した(図表 4~図表 7)。なお、図はあくまでもイメージの例示であり、地域によって異なる場合がある。

 日常的金銭管理については、判断能力と資力がある人であれば、士業に対する財産管理委任契約に基づく支援や、身元保証等高齢者サポート事業者に対する預託金のなかから支払いを依頼するなどの方法がある。施設によっては入所者の小遣いを管理するサービスを提供している場合もある。判断能力が不十分な場合には、日常生活自立支援事業を利用することもある。さらに判断能力が低い場合には、成年後見人・保佐人・補助人による財産管理の支援を受けることもできる。

図表 4 【生活支援】日常的金銭管理支援(現金の引き出しや振込など)に関する支援(イメージ)



 身元保証等高齢者サポート事業者の多くは、入院中に必要なものを届けるなどの生活支援を提供しており、このような役割を期待して医療機関が入院に際して、患者に対して身元保証等事業者との契約を求める場合もある。資力と判断能力がある人であれば、介護保険外サービスや家政婦によるサービスとして同様のサービスを購入することもできる。成年後見人もこれらの有償のサービスを手配することが可能である。しかし資力が高くない場合には、ケアマネジャーや地域包括支援センター職員など、無償で引き受けてくれる人が行う場合も多い。

図表 5 【入退院】入院中に必要なものを届ける際の支援(イメージ)



 転居時のごみの処分についても、身元保証等高齢者サポート事業者と契約をすれば、事業者自身あるいは事業者が廃品処理業者や引越業者などに委託をしてごみや不要な家電製品等の処分を行うことができる。また、住宅確保要配慮者であれば、居住支援法人による支援を受けることも可能であり、居住支援法人が引っ越し支援を実施する際の補助金が出る自治体もある。しかし資力が不十分な場合には、民生委員や近隣住民など、無償で支援をしてくれる人を見つけて依頼する必要がある。

図表 6 【入所入居】転居時のごみの処分に関する支援(イメージ)



 亡くなった後の自宅の家財撤去・残置物処理については、死後事務委任契約に基づく支援を士業や身元保証等高齢者サポート事業者が行うことができる。民間の遺品整理業者に生前予約することもできるが、履行確認が難しい。社協の中には独自事業として家財撤去・残置物処分を実施している場合もある。しかしそれらの契約がなく、本人が現金を残していたりしなければ、大家の負担で片付けたり、近隣住民等に無償の支援を依頼する場合もある。

図表 7 【死後対応】残置物処理に関する支援(イメージ)



(3) 自治体・社会福祉協議会・事業者の支援の現状

 自治体・社会福祉協議会・民間事業者に対して、共通の想定事例(生活支援、入退院、転居、死後対応)に基づいて、その事例に含まれる場面において誰が支援を行うかを尋ねた。なお、事例の対象者は生活保護や成年後見制度や日常生活自立支援事業は利用していないものとした。

 自治体は、他の主体と比較すると、多くの場面について支援を実施しないと回答した割合が高かった。ただし介護保険の利用に関連する場面や、死亡届や火葬許可書といった公的手続きに関連する場面、また転居先の検討場面ではその割合は低かった。事業者は身元保証等高齢者サポート事業者として本人と契約していたり、自立相談支援事業や居住支援事業の中で本人と接点を持つため、実施しないと答えた場面は全般的に少なかった。

図表 8 支援を実施しない場面



 死後事務については、いずれの主体も経験がない割合が高かった。死後事務委任契約を結んでいる事業者であっても、実際に契約者が死亡し対応をする経験はまだ少ないと考えられる。また、自治体は全体的に支援の経験がない割合が低く、守備範囲を超えた支援を提供せざるを得ない状況があると推察できる。

図表 9 支援の経験がない場面



 特に時間や人手がかかる場面については、ほぼ共通の結果が得られた。遺族年金受給の書類作成、相続財産清算人の選任申立てといった公的な手続きのほか、転居時のごみの処分や死後の残置物処分、救急車への同乗や入院時に必要なものを届ける場面が、時間や人手を要する場面だった。

図表 10 時間や人手を要する場面



 自治体や社会福祉協議会は事業者と比較して権限が不明確で支援の提供が難しい場面を多く挙げた。支援関係が明確な事業者であっても、医療同意への付き添い場面は権限の問題があると回答していた。これは、医療同意は本人だけの権利(一身専属権)であるにもかかわらず、実際には代理で署名を求められることがある、といった場合の難しさを反映していると考えられる。また、携帯電話の解約については、たとえ死後事務委任契約があったとしても、携帯電話事業者やその窓口担当者の判断で、本人や家族以外の手続きが断られることがあるという回答が多くみられた。

図表 11 権限が不明確な場面



4.提言
(1) 対象者の特徴と既存の制度・施策

 本調査研究事業の結果を踏まえた提言(図表 12)として、目指す姿を「高齢になり、心身機能が低下しても、誰もが生前から死後にかけて生活の質と尊厳を保ち、社会やサービスから排除されないこと」とした。
 この目指す姿に関しては、もとより複数の領域において施策がある、または検討が行われている。社会的包摂に関する理念・施策としては、地域共生社会や孤独・孤立対策がある。個別の課題については介護保険制度や墓地埋葬法があり、制度やサービスを利用するための意思決定については権利擁護関連の制度・事業や意思決定支援ガイドラインが存在する。また、民間事業では任意後見契約や死後事務委任契約等がある。改めてそれらを高齢者の生前死後の課題解決支援という観点から整理することが出発点となるだろう。
 今後の検討については、狭義の支援と広義の支援の両方について行うことが必要である。狭義の支援は、高齢者の生前死後にかけての意思決定や手続きを円滑に行うための手段を整えることに注目したもので、制度や事業を活用して個人が自ら将来に向けた意思決定やその実現手段を準備しておけること、またそれが行えなかった場合にも周囲が対応できることを目指す。狭義の支援はセーフティネットの考え方に近く、生前から死後にかけて生活の質と尊厳を保つための最低限の手段を整えることに関連している。
 広義の支援は、孤独・孤立対策や地域共生社会の理念に包含されるものと考えられる。広義の支援は個人と地域のつながりをつくる・保つことで、狭義の支援によって保たれるべき生活の質の水準を維持向上することに関連している。広義の支援の重要な目的は、身寄りのない高齢者等が社会とかかわりを持ち、参加の機会を得ることによって安心感や活躍の場を得、生活の質が向上することであり、それは狭義の支援への自発的な取り組みの動機を高めることにもつながる。
 この課題は複数の分野にまたがっているが、一方で個人に連続的に起こる課題でもあり、分野ごとの対応だけでなく、それらを個人の観点からまとめる上位の対応が必要である。国が何らかの形で身寄りのない高齢者等(身寄りのない人)が生前から死後にかけての生活の質と尊厳を保ち、社会やサービスから排除されないための施策の考え方を示し、地域の実情や課題に応じて多機関が連携するための事業(重層的支援体制整備事業も含む)に接続することが望ましい。

図表 12 「身寄りのない高齢者の生活上の多様なニーズ・諸課題」に関する今後の検討に向けた提言



図表 13 「身寄りのない高齢者の生活上の多様なニーズ・諸課題」に関する今後の検討(詳細)



5.狭義の支援に関する提言
 狭義の支援は、本調査研究事業の対象である、身寄りのない高齢者の生前・死後の問題解決に直接的に必要となるものである。
手続きの可視化・スリム化、相談機能
 「あらかじめ意思決定をする(事前の意思決定)」段階においては、個人が取り組めるように、「いつ、何をするか」を規定することが重要である。その前提として、生前死後にかけてどのような手続きが必要になるかの可視化と、その負荷を下げるためのスリム化を行う。また、課題が広汎であり個人の状況によって異なるため、個別に相談に乗り必要なサービスとつなげる機能も必要となる。

情報の連携
 意思決定の段階であらかじめ決めたことを実行に移す際、身寄りのない高齢者等の場合は個人の情報を連携したり、実行に移す判断を行う主体がないために様々な困難が生じる。事前に備えたことが実効性を持つためには、第三者が備えに関する情報を持ち、本人の状態を把握した上で、しかるべき時に備えてあったことを実行に移せる仕組みが必要である。

多機関連携による対応・ガイドライン整備
 また、問題を早期に発見し対処する危機対応の仕組みも引き続き必要である。すでにいくつかの地域や医療機関等では身寄りのない人に関する対応のガイドラインが作成されており、多機関連携による解決がはかられている。現在は、緊急搬送や入院時に身寄りのない高齢者等への支援が必要になるケースが多いことから、ガイドラインもこの場面への対応が中心となっていることが多いが、本事業で調査の対象としたような他の場面についても範囲とし、身寄りのない高齢者等への支援がその場その場での特例的な対応ではなく、一般的なものとして、また多機関が連携して行われるような方向づけがなされることが望ましい。

金銭管理・死後事務・日常的手伝いの担い手確保・指針提示
 身寄りのない高齢者等の生前死後には問題解決を必要とする場面が多くあり、時間軸や場面を幅広くとらえるべきである一方、金銭管理・死後事務・日常的手伝いは現状で担い手が不足しており、支援者の負担が高いため、優先的に解決がはかられるべき領域である。特に金銭管理や死後事務は個人の財産に関わる事項であり、トラブルを恐れながらの支援を強いられることへの負担感が実態把握調査で強く表明されている。金銭管理や死後事務については、どのようなことを行うのか、どのようなリスクがあるのかを整理したうえで、家族以外が支援をする際の指針を示すべきである。

狭義の支援のための基本的な体制
(本人の情報の明確化と伝達)

 特に身寄りのない高齢者等の場合は、本人に関する情報を伝達することが困難になりがちであるため、何らかの形で情報を外部化し、本人が伝達できない場合にも必要な情報が流通するような仕組みが必要である。

(三者関係)
 意向を実現するための契約・取り決めの相手となる支援者・受任者と本人の二者関係になることは、契約が履行されたかどうかの確認ができないことや、履行が難しい場合の相談先がないこと、関係性の濫用を疑われるリスクがあることなどから、本人だけでなく支援者・受任者にとっても不利益がある。そのため、少なくとも本人と支援者・受任者だけでない第三者を含んだ関係とする。第三者は上述した情報の伝達も担っている

図表 14 狭義の支援のための基本的な体制



※詳細につきましては、下記の報告書本文をご参照ください。
身寄りのない高齢者の生活上の多様なニーズ・諸課題等の実態把握調査 報告書

<関連資料>
ホワイトペーパー「個・孤の時代の高齢期」width="15"もご参照ください。

本件に関するお問い合わせ
創発戦略センター シニアスペシャリスト 沢村 香苗
TEL: 080-1090-0445   E-mail: sawamura.kanaeatjri.co.jp
 (メール送付の際はatを@と書き換えての発信をお願い致します)

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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