JRIレビュー Vol.1,No.112
日本経済見通し
2023年12月26日 井上肇、北辻宗幹、後藤俊平
足許の日本経済は緩やかに回復しているものの、一部で足踏みがみられる。先行きは内需主導で緩やかに回復する見通しである。好調な企業収益が物価高を上回る賃上げや設備投資の拡大などの前向きな支出につながり、個人消費など内需が増加していくことで、経済の好循環が定着していくとみる。
コロナ禍で積み上がった過剰貯蓄の取り崩しや雇用・所得環境の改善などにより、個人消費は緩やかに回復する見通しである。サービス消費のさらなるリバウンドの余地は限られる一方、価格上昇が落ち着く耐久財が回復をけん引すると予想する。
高水準の企業収益を支えに、企業の設備投資は増加する見通しである。人手不足の深刻化を背景に省力化などに向けたデジタル投資が活発化するほか、地政学リスクの高まりや円安などから生産拠点の国内回帰が進むとみている。
外需の面では、世界的な半導体サイクルや設備投資循環が底入れすることで、財輸出は持ち直しに向かうと予想する。一方、インバウンド需要の回復ペースは鈍化する見込みである。この背景には、景気が低迷している中国からの訪日客の急速な増加は見込みにくいほか、それ以外の国・地域以外からの訪日客はすでにコロナ前を上回る水準に達していることが挙げられる。
物価の面では、輸入インフレが落ち着く一方、賃金上昇を伴うホームメイドインフレが定着する見通しである。賃金上昇幅の拡大に伴い、人件費の増加を価格に転嫁する動きが拡大することが見込まれる。中間投入に占める人件費の割合が高いサービス品目を中心に価格が上昇し、日銀版コアCPIは前年比+2%程度の伸びが定着すると予想する。
賃金と物価の好循環が定着していくなかで、日本銀行は2024年春以降、金融政策の正常化を開始すると見込んでいる。もっとも、当面は実質金利がマイナス圏で推移し、緩和的な金融環境が景気を下支えする見通しである。
深刻化する人手不足の問題に対応し、持続的な成長を実現するには、供給力の強化が喫緊の課題である。労働力の確保には、女性の労働参加やシニアの雇用延長の促進に加え、外国人労働者の受け入れ拡大が不可欠である。労働生産性の向上には、中小企業の省力化投資の支援や企業の新陳代謝の促進などが重要である。
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