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「個・孤の時代の高齢期」 課題解決に向け大きな一歩への期待

2023年06月13日 沢村香苗


 オピニオンで何度かご紹介している「個・孤の時代の高齢期」とは、心身や環境の変化 に対応しながら生活を維持し、死後の火葬納骨をはじめ債務の支払いや財産の配分、役割の引継ぎなど、自分の存在を完結させる手続きを予め「自ら」行わなければならないという、現代の高齢期の矛盾・困難を描写したものだ。

 「家族の小規模化や長寿化が進む中、多くの人が困難に直面することが予測され、たまたま関わった人のボランティア的な支援を今までのようにあてにするわけにはいかない。入院時の身元保証、死後の無縁納骨や空き家の処分、認知症の方の意思決定支援といった個別個別の事象対応ではなく、生活者1人に高齢期から死後にかけてどのような課題が生じるのかの全体像を把握し、家族の支援が得にくい場合にも生前・死後の尊厳を保てるような対策を講じるべきだ」と当該分野を所管する省庁や自治体の担当課にこのような提言をするのが、通常の筆者らの仕事だ。

 2017年の調査研究事業をきっかけに「個・孤の時代の高齢期」の課題に注目して以来、実際に支援にあたっている方々や先進的なサービスを実施している自治体等の方々との対話の機会を多く持ち、解決の必要性や緊急性を痛感してきた。一方で、対策の必要性を訴える先となる所管省庁や自治体にストレートな担当課は存在せず、出口の見つからない日々を長く過ごした。「この課題自体に身寄りがない」「のれんに腕押し以前に、押すのれんがない」というのが、仲間内での冗談でもあり、本当のところでもあった。

 この状況が今急速に変化しつつある。5月12日に、自民党議員の主催で「身寄りのない高齢者(おひとりさま)等の身元保証等を考える勉強会」の初会合が行われ、筆者はこれまでの調査研究事業をもとに課題の解説や将来に向けての提案を行う機会を得た。また、5月24日の衆議院予算委員会では、高齢期の諸手続きにおいて家族の支援が得られず困難に陥る事例があること、支援者がボランティア的な解決を図らざるを得ないこと、こうした課題を所管する省庁がないことについて、委員から問題提起と質問がなされ、岸田総理が「厚生労働省が実態把握を行う」と回答する一幕があった。翌5月25日の参議院内閣委員会では、孤独孤立対策推進法案の審議の中で、別の委員が筆者らの作成したホワイトペーパー「個・孤の時代の高齢期」から「SOLOマップ」を引用して単身高齢者問題への対応の必要性を訴えた。特に、今回、総理から厚生労働省を担当にすると明言があったことの意味は非常に大きい。

 ただ、高齢期に必要になる意思決定や手続きは多岐にわたり、厚生労働省のみが所管することには無理がある。実態把握を行った上で、関連のある省庁や民間企業などにも呼びかけ、解決のための座組を作ることが不可欠である。そこでの第一歩は、この課題に名前をつけることではないかと筆者は考えている。長く関わっていながら、この課題を言い表す、適切で包括的な「一言」を見つけられていない、本稿でも、「おひとりさま」、「身寄りのない高齢者」、「単身高齢者」と、様々な言葉を使ってしまっていることについては忸怩たる思いだ。さらに、そのいずれもが、家族がいても困難が生じうる、あるいは家族がいるからこそ事態がより困難になり得るという現実を反映できなくなってしまうという欠点をもつ。とれもが正確な表現とは言えない。

 私たちの生活は、空腹の解消から財産の処分に至る幅広い範囲の問題解決の繰り返しであり、独力でその問題解決を最期まで行うのは不可能であることが課題の本質なのだが、このことを一言で表すのが難しいのである。問題解決をできない結果のあらわれ方も、個人の状況によって様々であり、仕組みとして解決しようとする前に個別個別の状況の現れ方やその深刻さに目が行きがちである。そうなると、ケースバイケースの状況をどう乗り切るかという議論になってしまい、根本的な解決にたどり着けなくなる。

 この課題に名前をつけ、生じる出来事についても共通の理解をすることで、誰のために何を解決すべきなのかという方向性や分担を定めることがまず重要だ。これまでも、ホワイトペーパーや書籍を通じて働きかけてきたことではあるが、関係する人が一気に増える兆しがある今、改めてこれまでの成果を活用して議論を深め、問題の解決に向かっていきたい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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