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ホワイトペーパー「個・孤の時代の高齢期」を出しました

2022年11月08日 沢村香苗


 前回のメールマガジンでも触れたが、筆者が継続して関心を向けている課題が、「死後の手続きまで含めて、高齢期をどう生きるか」、言い換えれば「人生を完結するまでのプロセスはどうあるべきか」である。子世代や親族の助けを得ることが以前のように簡単ではなくなっている昨今、「老後の面倒」として片付けてしまうような生半可なものではなく、人生にどのようなことが起きうるのかを個々人が直視し、備えておく必要に、私たちは迫られている。「終活」という言葉が急速に普及したのには、人々がこのことを強く意識するようになったという背景があるだろう。
 「終活」は、医療、介護、住まい、家族やペット、金銭、所有物、人間関係など、個人の人生・生活にまつわるすべてのものを、心身機能の変化に応じてどう使い、どう変化させて、最後はどう引き渡すかという営みであり、個人がひとりで取り組むには物心両面で負荷が非常に大きい。子世代や親族が伴走できない今、誰がどう支援するかについての議論が必要だ。

 その議論の土台作りを目指し、この度ホワイトペーパー「個・孤の時代の高齢期」「個・孤の時代の高齢期_別冊」を公開した。その内容は以下のような構成になっている。
 第1章「おひとりさまをめぐる状況」では、単身化の進む社会で、ちょっとした手助けを必要としても、それを得にくい人が多くいること、判断能力が低下した場合に権利擁護の制度を使おうにも、その利用開始を代わって申し立ててくれる人もいないことを統計データを用いて示した。少子化、高齢化、単身化というマクロな変化が、私たち個人の生活に具体的にどのように影響するかを想像するための章である。また、おひとりさま、個・孤という言葉は、決して未婚者・独身者を指すのではないことをまず強調している。
 第2章「おひとりさまの高齢期に起こること」は、医療・介護関係者、自治体や地域包括支援センターや社会福祉協議会といった公的な機関、民間事業者である身元保証事業者へのインタビューを通じ、おひとりさまがいつどのような問題に直面するか、支援者がどのようにまきこまれ疲弊するのかといったリアルな状況を描いた。インタビューは別冊としたが、本編の前にぜひご一読いただきたい。
 少し横道に逸れるが、支援者の方から事例を伺うたびに、筆者の脳裏に「ポイント・オブ・ノー・リターン」という言葉が浮かぶ。きっと、それぞれのおひとりさまは、その日が来るまではずっと、(少なくとも主観的には)変わらない日常生活を送っている。今、現役世代の私たちが、他人の助けを借りて生活することを想定していないのと同じだ。まして一人暮らしや高齢者同士の二人暮らしであれば、自分を客観視する機会は乏しくなり、色々と不自由が増えていても気づきにくいのが常態だろう。それが、例えば病気になって入院することになって、初めて「身近に頼れる人がいないおひとりさま」であることが浮彫にされ、「困難事例」として周囲を巻き込んでいくことになる。この流れを何とか変えることができないだろうか、というのがこのテーマに筆者が取り組んでいる動機である。
 第3章「今後に向けた提言」ではこれからの政策のあり方として、そもそも高齢期に必要になる各種の手続きの負荷を減らすことや、選択の難度を下げることを提案している。様々な制度やサービスが用意されているのは先人たちの素晴らしい功績だが、高齢者が自らそれらを使いこなすのが難しいという現実にも目を向けるべきだと考えたからだ。また、いわゆる「老後の面倒」はこれまで家族が無償・無限の支援を提供してきた領域である。それを標準としてしまうと、現状のように、たまたま関わった支援者がボランティア的関与を強いられるという矛盾が続く。無償・無限から脱却し、有償・有限を前提とすべきことを強調した。さらに、可視化を重要なポイントとして挙げた。無償・無限と並んで、外からは見えにくい(過去には、見えなくても安全という前提があった)のが家族による支援の特徴である。この状況も反転させ、可能な限り個人の状態や提供される支援を可視化し、支援が適切に行われることを担保するとともに、支援を複数のリソースが提供できるような仕組みを構築すべきことを盛り込んだ。
 以上が本ホワイトペーパーの概要である。本稿をお読みくださった方には、すでに大まかな全容は掴んで頂けたと思われるが、ぜひ、本編にもお目通しいただきたい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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