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受け身の従業員をどう変えるか?
~従業員のプロアクティブ化を促進するための処方箋~

2023年06月06日 方山大地、宮下太陽下野雄介


1.プロアクティブ人材とは何か

1‐1. 今まさに求められるプロアクティブ人材
 近年、企業経営者が「自社には自律的に行動できる人材が少ない」「企業にキャリアを委ねてしまい、自身でキャリアを築こうとしない」といった悩みを抱いていることがある。一部の企業では、「ぶら下がり人材」「受け身の人材」といった名称で呼ばれることもあり、人材マネジメント上の大きな悩みになっている。こうした課題は、自社人材が主体的に自身の仕事の幅を広げたり、社外に出てスキル・知識向上をしたりすることが少ない状況を意味していると言える。日本全体の生産年齢人口が減少して外部労働市場での人材獲得競争が激しくなる中、企業も自社の人材が受け身である状態を放置しておくわけにもいかなくなってきている。
 日本企業において終身雇用が終わりを迎えつつある中、従業員が企業にキャリアを委ねてしまい、依存する関係性が続く状況は好ましくない。だからと言って、日本の法制上、企業が受け身になっている従業員をすぐに雇用調整するわけにもいかない。むしろ、企業に求められているのは、従業員が自社に在籍している間は自律的に行動して組織貢献し、自身のキャリアを自らの力で築いていける状態に導いていくことなのである。
 こうした動きは、自社の人材を「資本」として捉え、その人材に適切な「投資」を行って付加価値向上を図る人的資本経営の文脈でもまさに求められている動きである。企業が人的資本経営を実践していくためには、中長期的な事業成長のために必要な人材の質・量(=人材ポートフォリオ)を定め、そうした人材を戦略的に確保・育成していくことが求められる。必要な人材の質・量を実現する上で、外部から必要な人材を積極採用することも一つの手段であるが、やはり多くの企業は今いる人材の付加価値向上を図らざるを得ない。そのため、自社の人材を自律的に行動して組織貢献できる存在に変革していくことは、人的資本経営を実践していく上でも重要な一要素であると考えられる。
 上記の状況の中で今求められている存在が、プロアクティブ人材である。プロアクティブ人材とは、主体的かつ自律的に行動して自身の将来のキャリアを自ら構築していくことができる人材である。学術的には、「プロアクティブ行動(Proactive Behavior)」という概念で研究が進んでおり、「個人が自分自身や環境に影響を及ぼすような先見的な行動であり、未来志向で変革志向の行動」(Grant & Ashford, 2008)であると定義づけられている。前述の人的課題を抱えている日本企業においては、「いかに従業員のプロアクティブ化を促進し、プロアクティブ人材を育成していくか」が重要なのである。後述するように、プロアクティブ行動は高い職務成果やワークエンゲージメント等と強い相関を有することも明らかになっており、企業側にも良い影響を及ぼす行動であると言える。
 本稿では、まずプロアクティブ行動の類型を整理した上で、実態調査を通じて見えてきた日本企業における従業員のプロアクティブ行動の課題を特定する。その上で、今後日本企業が従業員のプロアクティブ行動を促進し、プロアクティブ人材を育成していくために必要な取り組みについて展望していく。

1‐2. プロアクティブ行動に関するモデルの整理
 そもそも、プロアクティブ行動とは具体的にどのような行動を指しているのだろうか。前述の通り、プロアクティブ行動についてはさまざまな先行研究が積み重ねられてきた。ただし、プロアクティブ行動が具体的にどのような行動を指すのかは、先行研究によっても多少の違いがある。例えば、Ashford & Black[1996]は、プロアクティブ行動を①意味形成行動②関係性構築③職務変更の交渉④ポジティブな認知枠組みの4つの行動で整理している。また、Grant & Ashford[2008]では、プロアクティブ行動は①キャリア戦略とイノベーション②社会的ネットワーク構築③組織社会化行動④問題解決行動⑤学習と自己開発活動の5つの行動であると定義づけられている。
 このように、先行研究によって行動の内容および類型数に多少違いはあるものの、プロアクティブ行動の定義に関して共通している要素が主に2つあると考えられる。第一に、自身の職場など周囲に働きかける行動であるという点が挙げられる。自身の仕事やキャリアを巡る環境をより良くしようとして、職場の人や社外の人と積極的に関わろうとする点は、プロアクティブ行動の定義に含まれている要素の一つである。第二に、将来を見据えた自発的な行動であるという点が挙げられる。プロアクティブ行動は、何かしら課題が生じてからそれに対応するために起こる行動ではなく、自身の将来を見据えて自発的に起こす行動である。こうした要素を踏まえると、プロアクティブ行動全般について、「個人が積極的に周囲の環境に働きかけ、自身の将来の仕事やキャリアを作り上げていく行動全般」であると捉えることができるだろう。
 本稿では、前述の先行研究も踏まえ、実企業でプロアクティブ行動の実践度合い、すなわちプロアクティブ度を測定・活用することも考慮してプロアクティブ行動を以下の4つの行動として整理した。4つの行動とは、①革新行動②外部ネットワーク探索行動③組織化行動④キャリア開発行動の4つである。(各行動の定義は表1を参照)それに併せて、実企業において従業員が各行動をどの程度実践しているかを捕捉するために、各行動に対応した質問項目も表2の通り策定している。表2の質問項目は後述の実態調査でも活用している。




1‐3. 従業員のプロアクティブ行動が企業にもたらす効果
 従業員が前節で述べたようなプロアクティブ行動をとると、企業にとっては良い効果をもたらす。先行研究においても、従業員のプロアクティブ行動が、従業員の学習促進や組織内における役割認識に正の効果をもたらし、離職意思に負の効果をもたらすことが指摘されている(Ashforth, Sluss, & Saks, 2007)。そのため、従業員のプロアクティブ行動を促進することは、企業にとっては有益な側面の方が大きいと考えられる。
 より実務的には、主に以下の3つの効果が企業にもたらされると想定される。第一に、従業員の日常業務の生産性向上が挙げられる。従業員が単に与えられた仕事をこなすだけでなく、積極的に自身の仕事の幅を広げたり、新しいやり方を実践したりすることで、従業員が普段取り組んでいる仕事の生産性が向上することが期待される。
 第二に、従業員発の新しいアイデアやイノベーションの創出に対する期待の高まりが挙げられる。従業員が日常の仕事の場面から離れたところで社内・社外問わずに積極的にネットワーキングをすることによって、新しいアイデアやイノベーションのヒントとなる情報に触れる機会が必然的に多くなることが想定される。従業員がそうした情報を自身の職場に還元し、新しいアイデアやイノベーションを生み出そうとする動きにつながっていくことが期待される。
第三に、従業員が自発的に自身のキャリアを考え、必要な知識・スキルの習得に自ら取り組むようになる点である。企業側が従業員に対して必要な知識・スキルを指示して習得させていく必要性は小さくなり、従業員自らが学習に向かうようになることが想定される。ただし、企業側が何もしなくても良いわけではなく、組織内での研修を提供したり、外部研修の受講機会を与えたりするなど、一定のサポートは必要不可欠である。
 もちろん、従業員によってプロアクティブ度も異なるため、上記の3つの効果が常に企業にもたらされるわけではない。しかし、少なくとも従業員のプロアクティブ行動を促進することは、従業員本人および経営側の双方にとってプラスであると言える。そのため、前述の「ぶら下がり人材」「受け身の人材」といった企業の人材マネジメント上の課題に対してプロアクティブ行動の促進を図りながらアプローチしていくことは、効果的なアプローチ方法であると考えられる。


■ホワイトペーパーの全文は下記をご覧ください。

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目次

1.プロアクティブ人材とは何か
2.日本企業におけるプロアクティブ人材の実態
3.従業員のプロアクティブ化を促進するマネジメント・ソリューションの必要性
4.まとめ

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