オピニオン
「プライマリ・ケアを核とした地域医療」「価値に基づく医療の実装」「持続可能な社会保障制度を目指す合意形成の在り方」に関する提言
~持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けて~
2023年04月20日 持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム 健康・医療コンソーシアム事務局 ヘルスケア・事業創造グループ、川﨑真規、高橋洋絵、田川絢子、富樫健、辻恵子、野田恵一郎、福谷文音、望月弘樹、山本健人、南雲俊一郎
持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チームは、「健康・医療政策コンソーシアム」(以下「本コンソーシアム」/(※1))の活動として、国民の社会保障への不安を軽減し、多くの方が安心して豊かな人生を送れる社会の実現を目指し、「プライマリ・ケアチーム体制の整備」「価値に基づく医療の実装」「マクロでの給付と財源の均衡性確保」の3つのテーマで提言をまとめました。
本提言は、以下からご覧になれます。
提言概要
提言資料(文章)
提言資料(プレゼンテーション資料)
【背景】
日本総研は、持続可能で質の高い医療提供体制を構築することなどを目的に、2022年7月に医薬・医療機器の業界団体や医療・IT関連企業、医師が所属する学会、医療や経済の専門家、そして患者団体などと共に本コンソーシアムを設立しました。本コンソーシアムに属するさまざまな立場のステークホルダーと共に、健康・医療、デジタルヘルス、社会保障に関する政策について、日本における医療提供体制のありたい姿から考える、抜本的かつ本質的な議論を実施してきました。これまでは、官民問わずこのような議論の場が十分にはない状態でした。そこで日本総研は本コンソーシアムの活動を中長期的に実施し、人々の健康と健康・医療産業が関連して増進・発展するための規制改革や政策提言の社会実装(政策への反映)を目指した議論を行い、本コンソーシアムの活動成果として以下3つのテーマで提言をまとめました。
【テーマ】
テーマ1:プライマリ・ケアチーム体制の整備
提言:地域ごとの多職種連携によるプライマリ・ケア提供体制の構築
現在、国民への医療は、一部の疾患を除き医学モデル(※2)に基づき提供されています。一方で、わが国の人口動態や疾病構造は大きく変化しており、この変化に適応しながら国民の一生涯の健康を診ていくためには、身体的・心理的・社会的な健康に関する広範なニーズを考慮した全人的アプローチが求められています。
そこで本コンソーシアムでは、国民一人一人のさまざまなニーズや状況に応じた予防・医療・介護の提供を行うため、多面的な生活モデルを前提とし、地域特性に応じたプライマリ・ケアチーム体制の在り方について提言しています。現状、プライマリ・ケアチーム体制のあるべき姿は明確に定義されておらず、国としても検討が進められていない状態です。そのため、まずは国全体としてプライマリ・ケアのあるべき姿の具体化が示されるべきです。そして、そのあるべき姿の実現に向けて、プライマリ・ケア教育制度の充実とデジタル活用が検討すべき事項として挙げられます。さらに、あるべき姿を各地域で展開する具体案として、各都道府県などで住民と地域特性を踏まえたプライマリ・ケアチーム体制を構築する際の助けとなる指針を今後作成すべきと考えます。
テーマ2:価値に基づく医療の実装
提言:提供する医療の価値に基づいた診療報酬制度の構築
わが国では、医療費の増大やその負担増などの社会課題が広く認識されており、限られた医療財源を効果的に活用する必要があります。しかし、社会保障制度の約3割を占める医療分野は、外来医療を中心に、医療サービスの投入量に基づき報酬が決まり、これら医療サービスの投入量の増大を統制する制度は十分には実装されていません。さらに、個々の医療の効率などを測ることを目的とした全国レベルでのヘルスデータの蓄積や分析はほぼなされていません。
そこで本コンソーシアムでは、現状の医療サービスの投入量評価中心の制度から、医療サービスの価値評価を重視した制度へシフトしていくべきと提言しています。このためには、まずは価値に基づき医療サービスが評価・改善されている社会像をグランドデザインとして示すべきと考えます。そのうえで、グランドデザインを実現するために、どのようなデータやシステム基盤を整備すべきか順を追って議論されるべきと考えます。そして、薬や材料だけでなく、医療全体を対象にデータが蓄積・分析されることで、診療報酬制度・公的医療保険の給付範囲の検討などをエビデンスに基づきより迅速かつ効果的に行うことができると考えます。
テーマ3:マクロでの給付と財源の均衡性確保
提言:医療制度の情報提供による国民的議論の活性化
持続可能で質の高い医療提供体制を構築するためには、プライマリ・ケアチームによる提供体制の構築と、価値に基づく医療の評価を推進することが重要となります。そして、それだけでは不十分であり、国民が必要としている日本の医療のあるべき姿とは何か、国民はどのような改革や変化を期待しており受け入れることができるのか、そういった国民のニーズに耳を傾け、国民との議論を行いながら施策を実施する必要があります。しかし、現状の社会保障制度や税制度は非常に複雑であり、教育や情報提供を受ける機会も限られており、社会保障制度に関するあるべき姿について国民自身が意見を持ち、議論を行うための基礎的な理解が十分とはいえない状況です。
そこで本コンソーシアムでは、日本の社会保障制度のあるべき姿を国民全体で議論すると共に、マクロでの給付と負担の均衡の在り方について議論を尽くすことを提言しています。国民全体で議論を行う前提として、まずは社会保障制度全体に対する国民の理解を深めることが必要となります。そこで、国民が医療や社会保障制度の現状と将来、考えられうる選択肢等について理解し、自分ごととして捉えることができるようになるために情報提供を強化すべきです。情報提供の際には、情報の非対称性に留意し、恐怖や不安をあおるのではなく、社会保障制度に関する論点が国民自身の生活にどう結びつき、これらが議論されることで具体的にどのようなメリットにつながるのかといった、適切なコミュニケーションができるように取り組むべきです。次に、年齢・性別など異なる国民それぞれの立場から、現行の社会保障制度ありきではなく、国民自身が将来どういう医療を受けたいかなどのありたい姿を基点とした議論を行う国民的議論の場の設定が必要と考えます。
(※1) 健康・医療政策コンソーシアム
持続可能で質の高い医療提供体制を構築することなどを目的に、医薬・医療機器の業界団体や医療・IT関連企業、医師が所属する学会、医療や経済の専門家、そして患者団体などと共に設立した研究会。
健康・医療政策コンソーシアム」設立について(ニュースリリース/2022年7月12日)
(※2)医学モデル
疾患は患者の特定の生理学的機能障害に起因すると考え、病因を排除したり、メカニズムの異常を正常化したりすることで疾患を治癒すること