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【ライフスタイル系のスマートフォンアプリの実態と取り組むべき施策(後編)】
-独自調査から見えてきた実態と改善ポイント-
ライフスタイル系スマートフォンアプリの取り組むべき施策

2023年01月26日 谷口卓也


はじめに
 BtoC向けスマートフォンアプリ(以下、アプリ)について、“企業等がユーザー側の利用をうまく促進できていないケースが多い”という問題認識の下、日本総合研究所では特にライフスタイル系のアプリ(※1)に注目した独自のアンケート調査を実施した。
 前編ではライフスタイル系のアプリが直面する問題、中編ではアンケート結果から見えたライフスタイル系アプリの実態を説明した。後編となる本稿では、前編と中編で触れてきたライフスタイル系アプリの問題点や実態に焦点を絞って、企業等が取り組むべき施策を説明する。

企業等が取り組むべき施策

企業等の誤認Ⅰ:アプリは機能が豊富であればあるほど、ユーザーは利用する

アンケート結果(企業等の誤認Ⅰに関連するものを抜粋)
・シンプルで直感的に使いやすいから使い続ける
・さまざまな機能の権限許可がユーザーのアプリの使用を妨げる

取り組むべき施策Ⅰ:カスタマージャーニー起点の機能設計
 提供側の企業等は、ペインポイント(顧客が商品・サービスを購入・利用しているときに生じる課題や悩み、不幸せな状況)を洗い出し、いかにユーザーがメリットを感じる機能提供をできるかが重要である。
 例えば、某ホームセンターでは、アプリで欲しい商品の店舗の在庫数を確認、在庫の取り置きができる、また、店舗到着後もアプリの店内マップから望みの商品がどこに並んでいるか簡単に分かり、購入時に同じアプリ内のバーコードをスキャンしてポイントを貯められる。こういった一連のユーザー視点の体験を設計した上で、必要な機能を検討していくべきである。

企業等の誤認Ⅱ:優れた自社アプリを構築すれば、自社の商品やサービスを購入する

アンケート結果(企業等の誤認Ⅱに関連するものを抜粋)
・商品情報は見るが、買うアプリ(楽天市場、Amazonなどの総合ショッピング系アプリ)は決まっているユーザーが多い
・初回クーポン使用や無料トライアルのためにインストールし、継続的に使うつもりはない

取り組むべき施策Ⅱ-1:オフラインチャネルと連動した利用促進
 ライフスタイル系のアプリを提供する企業等は、店舗や駅やイベントスペースなど、オフラインチャネルとの連動がカギとなる。オフラインチャネルとの連動は、ECに特化した巨大な総合ショッピング系アプリに対抗する場合に有効である。
 例えば、某スーパーマーケットでは、レジ前のポスターにアプリのQRコードを掲載し、レジの待ち時間にアプリをインストールするとその場でクーポンが利用できる仕掛けをつくって、アプリをインストールさせている。また、決済時に顧客が購入した商品と同じカテゴリーの商品のクーポン(QRコード付き)をレシートに印字して、アプリに誘導する仕掛けなどもつくっている。このような施策を打つことで、アプリの利用率とクーポンの利用率を上げている。
 アプリと合わせてクーポンが利用されると、顧客の購買履歴が貯まり、顧客の属性情報と絡めて分析できる。その分析結果をもとに、顧客が欲しいタイミングで欲しい情報を送ることができ、再来店を促す、といった施策のレベルアップにつながる。初回のみではなく、継続的にインセンティブを与えることが重要である。

取り組むべき施策Ⅱ-2:他の商品・サービスとの連動した独自の価値提供
 アプリ単体の機能を良くする取り組みだけでなく、他の商品・サービスと連動させることで新たな価値を提供することが重要である。それが自社グループの商品・サービスであればなお良いと考える。施策Ⅰのカスタマージャーニーを起点としたサービス設計がポイントである。
 例えば、某スポーツメーカーやヘルスケアサービスの提供企業では、購入したランニングシューズやエクササイズ器具にセンサーを付けて、走行ベースや運動量をアプリで管理できる。また、属性情報や購買履歴・運動履歴などをもとに、無料で独自の運動メニューのレコメンドなども行っており、ユーザーの生活の一部に入り込んで存在感を発揮している。

企業等の誤認Ⅲ:個人属性や趣味趣向などさまざまな観点で分析することは有効である

アンケート結果(企業等の誤認Ⅲに関連するものを抜粋)
・必要以上の個人情報の取得はユーザーのアプリの使用を妨げる
・“欲しい”お知らせが来るから使い続ける(不要なプッシュ通知が多いとアプリの使用を止める)

取り組むべき施策Ⅲ:ユーザーの行動ログをもとに分析・データ活用
 ユーザーがアプリをインストールする時点では、最低限の属性情報(年齢、性別、居住地など)のみを登録してもらい、その時点での離脱リスクを減らすべきである。最近は、ユーザーがアプリ・ウェブサイトなどをまたいだ行動ログを個人単位・時系列で可視化できるサービスも出ており、「最低限の属性情報×行動ログ」を組み合わせて分析することでアプリの機能改善や販促は可能である。
 例えば、某アパレル会社では、ユーザーへのダイレクトメールの内容を個人属性や趣味趣向に応じて工夫し、自社アプリへ誘導していたが、あまり成果が上がっていなかった。ユーザーの行動ログをもとに、動画を何秒見たのか、写真やテキストは見たのか、などを分析し、アプリのページレイアウト等の改善を行った。他にも、ユーザーの行動ログを見ると、アプリには誘導できているが、ログインパスワードが分からず離脱していることが分かり、パスワード照会の流れを改善した。結果として、年間で1万人程度の離脱防止につながった。

企業等の誤認Ⅳ:自社のアプリ内で利用可能な独自ポイントを発行すると、ユーザーの囲い込みができる ※アンケート結果から誤認とは言い切れない

アンケート結果(企業等の誤認Ⅳに関連するものを抜粋)
・アプリの利用を促す方策としてポイントは効果がある
・他のアプリよりポイントが貯まるから日常的に使用する
・お得なクーポンがもらえるから日常的に使用する

取り組むべき施策Ⅳ:独自ポイントを活用した独自特典による差別化
 日本総研が行ったライフスタイル系のアプリの独自のアンケート調査結果から、ライフスタイル系のアプリを日常的に利用している理由として、最も回答率が高かったのは「ポイントを貯めるため」であった。この結果から、少なくともアプリの利用を促す方策としてポイントは効果があると考えられ、上記の企業等の誤認Ⅳ「自社のアプリ内で利用可能な独自ポイントを発行すると、ユーザーの囲い込みができる」は、必ずしも誤認とは言い切れない結果となった。
 ただし、独自ポイントを活用した施策を効果的にするためには、その特性を生かした他社に負けない工夫が必要である。独自ポイントの最大のメリットは、共通ポイントの制約に縛られることなく自由にサービスやキャンペーンなどのマーケティングができることである。単なるポイント還元や割引クーポン発行だけでは、共通ポイントと比較して優位性を発揮できない。顧客が魅力を感じる、独自性のある特典を提供することが重要である。
 例えば、イベントやアニメグッズの提供会社では、アプリで独自ポイントを貯めると会員ランクがアップし、会員ランクに応じて、限定イベントへの参加権や限定商品の先行予約権などの独自特典を提供している。このように独自ポイントを活用し、他社がまねできない魅力的な特典につなげることが、顧客の囲い込みに成功する要因である。
 一方で、独自ポイントを活用した施策としてよくある失敗は、ポイント還元率を高くしすぎて販促費が大幅に増える、また、共通ポイントとの相互交換を可能にすることで持ち出しが大幅に増えることなどである。こういった失敗は、結果として経営を圧迫する。特に低価格帯で商品・サービスを展開している企業等は、採算が取れる計画を慎重に策定することが重要である。

最後に
 3部構成で「ライフスタイル系のスマートフォンアプリの実態と取り組むべき施策」について、説明を行ってきたが、共通して言えるキーワードは“顧客視点と差別化”である。企業等はアプリ立ち上げ時期は、顧客視点や差別化を意識するが、運用が始まると目先の成果を出すために他社のまねをしたり、企業等側の都合で機能を追加したりすることが多くなっている。定期的に顧客視点のアプリになっているか、他社と明確に異なる機能やサービスを提供できているかをチェックすることが重要である。

(※1) ライフスタイル系アプリとはユーザーが日常的に使用する、交通系(電車・バスなどの交通系企業等が提供するアプリ)、生活インフラ系(ガス・電気などの生活インフラ系企業等が提供するアプリ)、自治体系(自治体が提供するアプリ)、買い物系(百貨店、ショッピングモール、スーパー、ホームセンター、アパレルブランドなどが提供するアプリ)、独自ポイント系(Tポイント等の共通ポイントではなく、特定の企業等の商品・サービスにのみ使用できるポイントに関するアプリ)などを今回の対象とした。
以上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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