オピニオン
健康・医療データの連携・利活用の検討に必要となる論点について議論
2022年12月06日 ヘルスケア・事業創造グループ、川﨑真規、山本健人、辻恵子、土屋敦司、上田健史
本編資料
議事概要
日本総合研究所(以下、日本総研)は、政府の政策検討動向を踏まえつつ、患者・医療従事者視点で医療情報連携とデータ利活用によって実現したい姿をビジョンとして設定し、ビジョン達成に向けた課題とその解決策を検討し提言する有識者による議論の場としてのヘルスケアデジタル改革ラウンドテーブルを2022年8月より開始しました。
8月に実施した第1回では、「ヘルスケアデジタル化のメリット(現状とあるべき姿を描いたユースケース)」「ヘルスケアデジタルに関する問題」「課題解決の方向性」という論点に対し、議論いただきました。
そして、2022年10月25日に実施した第2回では、「医療のデジタル化の意義」「システムのあり方」「データガバナンス」という論点に対し、議論いただきました。その場で出された主な意見は、以下の通りです。
デジタル化の意義を国民・患者、医療従事者・産業・政府の観点から整理すべき
医療のデジタル化の意義としては、医療の質の向上、医療の技術革新、医療資源の最適化、社会保障制度の持続可能性確保が考えられます。これに対して、有識者からは、医療従事者の負担軽減や業務効率化の視点を加えるべきという意見が出されました。医療のデジタル化を主導する医療従事者のニーズを満たさなければデジタル化が進まないためです。
さらに、健康・医療データの連携・利活用が進むことで、医療従事者が見ることができる健康・医療データが増加します。ただし、これらのデータを見るために時間がかかったり、時間的に見られなかった情報があった際の責任範囲が不明だったりするため、現場でのデータ連携・利活用が進まない懸念が共有されました。医療従事者の健康・医療データを活用しやすい環境を実現するために、医療従事者の責任範囲についての共通認識がもてるような考え方を現場に明示すべきという示唆がありました。
複数のシステム間での健康・医療データの相互運用性の確保を国は推進すべき
プラットフォームを構築し、個人を軸として患者が自身のデータを管理する仕組みが必要ですが、誰が構築・管理するかは大事な論点です。必ずしも全てのシステムを国が構築する必要はなく、複数のシステム間でデータを利用できるようにするための仕組み、すなわちデータ連携基盤を構築・管理すべきという議論がありました。そのデータ連携基盤と接続する形で、民間企業が個別のシステムやサービスを構築・維持すべきと付言されました。
そして、プラットフォームに載せるデータは、出生から死亡までの健康情報、つまりライフコースデータも含めるべきという意見がありました。一方、電子カルテのデータは多種多様であるため、これらのデータからプラットフォームに載せる情報を選別する必要があると指摘がありました。
既存の法体系を踏まえ、本人と医療従事者などが閲覧できる情報を明確にすべき
本人が自分の情報にアクセスしたいとき、本人が望む範囲でアクセスできることは大事な権利であると示されました。さらに、アクセスできる情報は医療機関ごとなど組織単位で制限するべきという意見が聞かれました。「がん登録等の推進に関する法律(※1)」では、告知前に自身の容体を把握することを防ぐため、本人への開示を認めていません。そのような既存の法律・制度との調整が必要であるという意見もありました。
自分や公益のためにデータを一元的に蓄積・活用・管理する機能が必要
国民のプライバシーと両立する形で自分のため(一次利用)、公益のため(二次利用)のデータを一元的に蓄積・活用する中立的な機関が必要である点について、共通認識が図られました。第三者が、データから個人を特定し、その方のプライバシーが侵害されるリスクを軽減するため、中立的な機関が健康・医療データの公益利用のための出口規制を行うべきという意見もありました。
今後のアクション
今回の第2回ラウンドテーブルでの議論を踏まえ、2022年12月13日に第3回ラウンドテーブルを開催し、日本における医療情報連携とデータ利活用に向けた実現可能な提言の方向性と提言実装のアクションについて議論します。議論の結果を踏まえて、2023年初めに日本総研ホームページで提言を公開する予定です。
参加者(敬称略)
構成員
森田 朗(東京大学 名誉教授) ※座長
石井 夏生利(中央大学国際情報学部 教授)
伊藤 由希子(津田塾大学総合政策学部 教授)
落合 孝文(渥美坂井法律事務所 外国法共同事業シニアパートナー、日本医療ベンチャー協会 理事)
黒田 知宏(京都大学院医学研究科 教授)
近藤 則子(老テク研究会 事務局長)
松村 泰志(独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター 院長)
宮田 俊男(早稲田大学理工学術院教授、医療法人DENみいクリニック 理事長)
美代 賢吾(国立国際医療研究センター 医療情報基盤センター長)
オブザーバー
内閣府 規制改革推進室
総務省 情報流通行政局 地域通信振興課デジタル経済推進室
経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課
日本総研
川崎 真規(リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー)
(※1) がん登録等の推進に関する法律の概要:がんの罹患や転帰の状況を登録・把握し、分析し、がんの患者数や罹患率、生存率、治療効果の把握など、がん対策の基礎となるデータを把握することを目的とした法律。厚生労働省「がん登録等の推進に関する法律(概要版)」参照。
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。