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医療情報連携とデータ利活用の促進に向けた課題解決への議論に着手

2022年10月17日 ヘルスケア・事業創造グループ、川崎真規山本健人、辻恵子、土屋敦司、上田健史


本編資料
議事概要

医療情報連携とデータ利活用の促進に向けた課題と解決策を提言する議論の場を設置
 日本総合研究所(以下、日本総研)は、2022年8月22日に「第1回ヘルスケアデジタル改革ラウンドテーブル」(以下、ラウンドテーブル)を開催いたしました。
 医療情報連携とデータの利活用がさらに進むことで、医療従事者などの業務負担軽減、医療技術のイノベーションの促進につながると考えられます。また、医療情報連携とデータ利活用に向けた取り組みは、持続可能で質の高い医療提供体制の構築と、国民の健康寿命延伸と健康・医療産業の促進に欠かせないものと考えられます。しかし、医療情報連携とデータ利活用の促進に向けては、データの標準化、セキュリティの強化、利活用にあたってのルール整備などさまざまな課題があります。
 そこで、日本総研は、政府の政策検討動向を踏まえつつ、患者・医療従事者視点でビジョンを設定し、医療情報連携とデータ利活用の促進に向けた課題とその解決策を検討し提言する有識者による議論の場を設けました。第1回では、「ヘルスケアデジタル化のメリット(現状とあるべき姿を描いたユースケース)」「ヘルスケアデジタルに関する問題」「課題解決の方向性」という日本総研から提示した大きな論点に対し、ご議論いただきました。
参考:「ヘルスケアデジタル改革ラウンドテーブル」開催について

医療情報のデジタル化には医療機関の業務改善の視点が重要
 デジタル化のメリットとして、医療機関や介護施設・薬局での患者情報の共有、災害・セキュリティリスクへの迅速な対応、研究開発における活用が挙げられました。
 しかし、一次利用・二次利用といった医療情報を使うことだけでなく、その手前で医師・医療従事者が患者データを入力する労力を考慮しなければならないという点が指摘されました。電子カルテがあるのにも関わらず、紙カルテ時代の診療報酬制度にのっとっており二重入力の手間が発生している状況があります。医療現場での間接業務を減らすために、「一度提出した情報は、二度提出することを不要とする」ワンスオンリーの概念が重要であるという示唆がありました。

標準化に関しては医療機関やベンダーへのインセンティブが必要
 医療情報を共有するためには医療データの標準化が必要ですが、現状のシステムは地域や医療機関ごとに多様であり、情報基盤が整備されていません。現在の地域医療連携ネットワークのビジネスモデルは、医療機関が自発的にお金を出して、良い医療を患者に提供するために構築するというものです。また、異なるベンダーが提供しているシステムでは、完全なデータ相互乗り入れができないという課題があります。
 そのため、病院経営にメリットがあるように、医療機関にインセンティブを設けることが必要であるという意見がありました。また、ベンダー側に対しては、データの相互乗り入れを可能にするための改良が円滑に進められるよう、行政からのインセンティブやビジネスモデルの転換が必要であると示されました。

日本は過度に同意偏重となっており、非効率が生じやすい点が課題
 診療情報を病院間でスムーズに共有するためには、患者の同意が必要となる場合があります。しかし、医療機関はインフォームドコンセント(※1)が浸透しているため同意取得の手続きが複雑で、また各システム間で情報を連携できない縦割りの問題もあり、容易に情報を共有できない現状があります。
 まずは一次利用として、診療目的に応じて医療機関同士が情報共有することを目指す必要があります。さらに、二次利用をする場合の現行の複雑なルールを解消するために、ヘルスケアデジタル化の仕組みをシンプルにつくることが望ましいという示唆がありました。

提言の策定にあたって、包括的なシステム像やデジタルを前提とした制度・診療報酬体系の検討を射程に入るべき
 医療分野におけるデジタル化の全体像・包括的なシステム体系として、ゼロトラスト(※2)の考え方を念頭に置き、シンプルで分かりやすい設計にすべきという意見が挙げられました。その際に、エストニアが推進する医療データ連携の政策(※3)の考え方やシステム像が、検討の参考になると紹介されました。また、データを活用して、治療によってどの程度患者が回復したかというアウトカム(成果)を評価する新たな診療報酬制度を検討するべきと付言されました。

今後のアクション
 今回の第1回ラウンドテーブルでの議論を踏まえ、日本における医療情報連携とデータ利活用に向けた実現可能な提言を行います。具体的には、第2回を2022年10月25日、第3回を2022年12月(日程未定)にラウンドテーブルを開催します。ラウンドテーブルの検討結果をもとに、2022年10月頃に提言要項を公開、12月頃に提言本文を公開する予定です。いずれも日本総研ホームページで公開します。

参加者(敬称略)
構成員
森田 朗(東京大学 名誉教授) ※座長
石井 夏生利(中央大学国際情報学部 教授)
伊藤 由希子(津田塾大学総合政策学部 教授)
落合 孝文(渥美坂井法律事務所 外国法共同事業シニアパートナー、日本医療ベンチャー協会 理事)
黒田 知宏(京都大学院医学研究科 教授)※第1回ラウンドテーブル欠席
近藤 則子(老テク研究会 事務局長)
松村 泰志(独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター 院長)
宮田 俊男(早稲田大学理工学術院教授、医療法人DENみいクリニック 理事長)
美代 賢吾(国立国際医療研究センター 医療情報基盤センター長)

オブザーバー
内閣府 規制改革推進室
総務省 情報流通行政局 地域通信振興課デジタル経済推進室
経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課 ※第2回ラウンドテーブルよりオブザーブ予定

日本総研
川崎 真規(リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー)
山本 健人(リサーチ・コンサルティング部門 マネジャー)

(※1) インフォームドコンセント:医師等の医療従事者から医療行為について、十分な説明を受け納得した上で、その医療行為に同意すること
(※2) ゼロトラスト: 「何も信頼しない」を前提に対策を講じるセキュリティの考え方で、限られた利用者のみが使えるネットワークであれば安全であるなどの境界防御前提には立たないことを指す。
(※3) エストニアが推進する医療データ連携の政策:エストニアでは、国内全ての病院での診断・検診結果が電子的に記録されるようになり、患者は自身の診断・検診結果をインターネット上のポータルサイト(Patient Portal)で閲覧できるようになっている。総務省「平成27年版 情報通信白書|情報連携による効率的・効果的な地域医療の提供)(平成27年7月)参照。
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