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一時保護所職員に対して効果的な研修を行うための基礎的な調査研究

2022年04月19日 牛島康晴、小島明子沢村香苗、今川成樹、菅章


※一時保護所職員に対して効果的な研修を行うための基礎的な調査研究(以下、「本事業」)は、令和3年度子ども・子育て支援推進調査研究事業の国庫補助を受けて実施したものです。

本事業の目的
 児童相談所等が行う一時保護(児童福祉法第33条)は、子どもの最善の利益を守るため、子どもの安全の迅速な確保、適切な保護を行い、子どもの心身の状況、置かれている環境などの状況を把握するために、子どもを一時的にその養育環境から離す制度である。こうした目的に照らし、一時保護は必要な場合に躊躇なく行われなければならない一方、子どもや保護者の権利の制限を伴うことから、必要最小限の期間で行うとともに手続きの透明性が確保されることが重要である。 また、一時保護した子どもについては、安全・安心な環境で適切なケアが行われることが必要であり、それぞれの子どもの特性や背景への理解が重要である。特に一時保護は、多くの子どもにとって初めて社会的養護に触れる機会であることから、子ども自身に納得してもらうことが社会的養育全体にとって極めて重要である。さらに、一時保護の解除に際しては、一時保護中に把握した子どもおよび家族等の状況等を踏まえ、子どもの安心・安全が再び損なわれることのないように慎重にアセスメントが行われるとともに、親子再統合に向けた支援を行う必要がある。そのため上述の業務の質の担保のために、個々の職員の資質を向上することが求められている。
 しかし、一時保護所の職員に関しては、児童福祉司や児童心理司等と異なり研修プログラムが確立されておらず、指導内容、指導の実施方法等は個々の自治体の裁量に任せられている。また、一時保護所の業務は多忙であることから、「職員の研修時間を確保することが難しい」、「座学1日ですぐOJT」「途中転入が多く受講タイミングが合わない」等の実情がある。
 本事業は、以上の背景を踏まえ、個々の一時保護所や研修実施機関における研修実施状況および研修実施内容について調査し、本格的な一時保護所職員研修プログラムの構築に資する基礎資料として取りまとめるとともに、その結果を基に、新たに一時保護所職員として着任する職員が、業務従事に当たって最低限知っておくべき内容を把握できるようなハンドブックを作成した。

本事業の主な内容
 本事業における主な実施事項は、以下のとおりである。
1.一時保護所職員向け研修実施状況のアンケート調査
2.都道府県・政令指定都市・中核市・特別区を対象としたヒアリング・書面照会
3.新任一時保護所職員向けハンドブック作成

調査結果のまとめ

アンケート調査結果のまとめ
 アンケート調査結果から得られた示唆は次のとおり。

・子どものケアに当たる児童指導員等はおおむね福祉職採用・保育士採用の者が多く、一定程度の知識的バックグラウンドを有している。
・児童指導員等は経験年数3年未満の者が多数を占めている。
・警察からの身柄通告について、「ぐ犯少年」「非行少年」を理由とする件数は多くはないが、件数が少ないからこそ、ぐ犯・非行傾向のある保護児童対応について学べる研修メニューが求められている。
・一時保護所職員向けの研修は、各児童相談所・一時保護所が業務の傍ら個別に企画・実施しているとする自治体が多く、現場の裁量に任されている。
・規模が大きい(常勤職員数が多い)ほど、初任職員への配慮や研修企画・実施に関して積極的に取り組んでいる傾向が見受けられた。一方で規模が大きいほど入所率が高い傾向も見受けられ、リソース不足が課題として生じやすいことが想定される。
・研修企画に関して、その内容やレベル感を定めるための標準的なプログラムやスキルセット、スキルアップイメージを示すことが求められている
・一時保護所間での情報共有の場、交流研修の場を求められている。
・新任一時保護所職員は、着任~6カ月の間に、業務に係る知識については「児童の権利擁護、一時保護の目的、虐待の類型に係る知識」、技術については「子どもの安全に係る緊急性の判断、子どもの年齢にあった形のコミュニケーション、アンガーマネジメントの技術」、態度については「子どもに対する受容的・共感的態度、先輩職員に臆することなく相談する態度、子どもの権利を守り尊重する態度」を習得・獲得することが現場の感覚に照らして求められている。
・新任一時保護所職員は、着任後6カ月~1年の間に、業務に係る知識については「一時保護生活における子どものケア・アセスメント、被虐待児への対応、虐待が及ぼす子どもへの影響に係る知識」、技術については「的確な業務引継ぎ、記録の作成、子どもの年齢にあった形(発達心理学や発達障害の知識も加味して)のコミュニケーションの技術」、態度については「自身の対人関係のパターンやコミュニケーションの特徴の自覚、自己研鑽の姿勢、チーム内外の情報交換を頻繁に行う態度」を習得・獲得することが現場の感覚に照らして求められている。
・新任一時保護所職員は、1年~3年の間に、業務に係る知識については「性的な被害を受けた子どもや触法少年、文化慣習の違いなど、個別具体の類型における子どもへの対応に係る知識」、技術については「LGBT、文化・慣習・宗教等による日課の違い、発達障害など、個別具体の子どもの特性に応じた対応の技術」、態度については「自身と他の職員の二次受傷防止に努める、自分なりの指導の軸を持つ態度」を習得・獲得することが現場の感覚に照らして求められている

ヒアリング・書面照会結果のまとめ
 ヒアリング・書面照会結果を踏まえて明らかとなったポイントは以下のとおり。

・子どもとの関係の作り方(個人)
 問題行動ばかりに目が行きがちだが、好ましい行動についても目を配り、たとえ小さな変化であっても子どもを褒めることでエンパワーメントしていくことが重要である。また問題行動については、その行動の背景にある子どもの心情については共感・受容することが大事だが、その問題行動自体については毅然と対応し、子どもがその問題行動に代わる適切な行動を獲得できるように支援することが求められる。

・子どもとの関係の作り方(集団)
 集団生活上のルールをしっかりと共有し、そのルールの設定理由を説明して子どもに納得してもらうこと、そしてルールを通して、子ども自身と、その他の子どもが一時保護所での生活について嫌な思いをしないことが重要である。一方で、影響力の大きい1人の子どもが入所すると、集団の雰囲気がさっと変わるので、子どもの集団の雰囲気については注意深く観察することが必要である。

・子どもへの学習支援の実施方法
 学年相応の学力レベルに達していない子どもがほとんどである。学力水準を学年相応に引き上げるという考え方ではなく、一時保護所は学びなおしの場であると捉えて、「わかる、できる」という感覚を子どもの中に惹起させ、学習のモチベーションを高めることを重視することが好ましい。

・一時保護所内ルールについて
 集団生活を行う上でルールの設定は必要だが、ルールを守ること自体が目的化しないよう留意する必要がある。そのルールを通じて達成しようとする事柄が何なのか職員自身が理解するとともに、そのルールの目的について子どもが納得することが必要である。

・行動観察の視点、行動観察記録の書き方およびその指導方法
 新任職員はトラブルの記録ばかり書いてしまうという状態に陥りやすいため、子どもの普通の日常での様子や、子どもの好ましい行動も捉えて記録することを教えることが必要である。行動観察の視点については一時保護所によってさまざまであることからある程度の指針を示す必要がある。

・保育士や社会福祉士が感じるギャップ
 保育士採用の職員については、保育所勤務の場合と異なり、子どもから暴力を受け、けがをする可能性があることについて、一時保護所の着任前にしっかりと伝える必要がある。また子どもとの接し方についても、例えば一時保護所には性的虐待を受けていた子どもなどが入所しており、身体的距離感について一定の配慮が必要であることに当初戸惑いを覚えたとの言が聞かれたことから、虐待の影響を踏まえての子どもとの接し方にについてイメージの共有を図ることが必要と考えられる。

・新任職員への配慮
 責任感が強いほど、一人で抱え込み精神的に消耗してしまうため、業務の進め方についてわからないことが生じたり、悩みが生じたりした場合は臆せずに先輩や同僚、上司に相談してもよいことを前提として認識してもらう必要がある。併せて、新任職員によるそうした相談や悩みを受容できる雰囲気づくり・チーム作りを職場としても進める必要がある。

新任一時保護所職員向けハンドブックの作成
 アンケート調査、ヒアリング・書面照会調査の結果を踏まえ、新任一時保護所職員向けハンドブックである「はじめて一時保護所に着任する職員のためのハンドブック-一時保護ガイドラインに沿った実践のために-」を作成した。

※詳細につきましては、下記をご参照ください。

一時保護所職員に対して効果的な研修を行うための基礎的な調査研究
はじめて一時保護所に着任する職員のためのハンドブック-一時保護ガイドラインに沿った実践のために-

【本件に関するお問い合わせ】
リサーチ・コンサルティング部門 コンサルタント 牛島 康晴
TEL: 080-7940-4665 E-mail:ushijima.yasuharu@jri.co.jp
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