*本事業は、令和3年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業として実施したものです。
1.本調査研究事業の背景
体幹機能や座位保持機能が低下した高齢者が、椅子等に快適に座ることができるよう支援する個別ケア手法の一つとして、シーティングが考えられる。
適切なケアの一環としてシーティングを実施することによって、本人にとって快適な座位姿勢がとれるようになり、日常生活動作が改善し、社会的な活動への参加が広がり、最終的には生活の質(QOL)の向上につながることが期待できる。
しかし、介護の現場では、「シーティングとは何か分からない」「シーティングをどのように行っていけばよいのか」等と悩むことがあるという意見も聞かれる。また、椅子に座ることができるにもかかわらず、車椅子に座っている高齢者がいる介護現場等もある。
このような背景から、令和2年度老健事業「車椅子における座位保持等と身体拘束との関係についての調査研究」では、シーティングの基本的な考え方を学び、本人や家族の生活の質(QOL)の向上を目指すことができるよう、高齢者ケアにおけるシーティングの定義を整理し、「高齢者の適切なケアとシーティングに関する手引き」および啓発資料を制作した。その際に、今後の課題として、介護現場におけるシーティングの実態把握が必要であることが挙げられた。
2.本調査研究事業の概要
上記の背景を踏まえ、本調査研究では、介護現場におけるシーティングの実態等をアンケートおよびヒアリング等によって調査するとともに、適切なシーティングにより高齢者の尊厳の保持やその人らしい自立した生活の支援や生活の質(QOL)の向上に寄与した事例収集や、身体拘束に関する整理を実施した。
また、介護現場で活用できるシーティング研修プログラムと研修教材を作成し、試行研修を企画・実施した。
(1)検討委員会の設置・運営
事業の各種検討を円滑かつ効果的なものとするために、シーティングや福祉用具、医療介護における安全管理等に関わる有識者からなる検討委員会を設置・運営した。
検討委員会は、事業の方向性や進め方、調査項目、調査結果の整理・活用、研修企画、研修資料作成等に関して、適宜確認・助言を得る場とし、合計4回実施した。
(2)介護施設向けアンケート調査の実施
特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護付き有料老人ホームに対してアンケート調査を実施し、シーティングの実施状況やシーティング実施における課題、シーティングを実施した事例、シーティングにおける研修実態やニーズなどを整理した。
(3)介護施設向けヒアリング調査の実施
アンケート調査を踏まえ、シーティングにおいて効果的な取り組みをしていると思われる介護施設を抽出し、シーティング事例の深堀のためのヒアリング調査を実施した。
(4)シーティング関連団体向け既存研修に関するヒアリング調査の実施
研修プログラム、研修教材を作成するにあたり、シーティング関連団体に対して、ヒアリング調査を実施し、既存の研修プログラムや研修内容の整理を行った。
(5)研修プログラム、研修教材の作成
介護施設向けシーティング事例調査およびシーティング関連団体向け既存研修に関するヒアリング調査を踏まえて、研修プログラムおよび研修教材の原案を作成した。
(6)研修プログラム、研修教材の確認
研修プログラムおよび研修教材の原案を基に、実際に介護施設向けのシーティング施行研修を実施し、受講生アンケートを通して使い勝手や分かりやすさの確認を行った。
3.本調査研究事業の成果
(1)シーティング事例に関する整理
特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護付き有料老人ホームに対してアンケート調査を実施し、介護現場におけるシーティングの実態と実施事例等を収集した。また、アンケート調査を踏まえ、シーティングにおいて効果的な取り組みをしていると思われる介護施設に対してヒアリング調査を実施し、シーティングを実施した背景や目的、シーティングの各プロセスにおける実施事項、実施したシーティングの効果、シーティング実施にあたって直面した課題等を整理した。
(2)シーティングに関する研修プログラムおよび研修教材の作成、試行研修の実施
介護施設向けシーティング事例調査およびシーティング関連団体向け既存研修に関するヒアリング調査を踏まえて、介護職員がシーティングの基礎を学べる研修プログラムおよび研修教材を作成した。この教材を基に、介護施設向けのシーティング試行研修(オンライン)を実施した。研修後、受講生アンケートを通して使い勝手や分かりやすさの検証を実施した。
(3)「高齢者の適切なケアとシーティングに関する手引き」への追記
シーティングのさらなる普及啓発にあたり、 「シーティングと身体拘束の違い」を理解することの重要性が確認されたことから、昨年度作成の「高齢者の適切なケアとシーティングに関する手引き」に「シーティングと身体拘束の違い」を追記し、手引きの「追補版」として一般公開した。
4.今後の課題
本事業の成果を踏まえ、高齢者ケアにおけるシーティングのさらなる普及が実現されるための課題として以下の事項が考えられる。
(1)シーティングに関する調査や事例収集の必要性
本事業では、脳卒中や認知症といった疾患・症状に対するシーティング実施事例や、多職種連携事例等を収集することができた。今後は、シーティングに積極的に取り組めていない施設に対する実態調査等を行い、その現状を踏まえた対応について検討する必要がある。また、グループホームや介護医療院といったその他の入所系事業所や、ショートステイ、通所系、訪問系事業所等におけるシーティング提供の実態についても調査する必要がある。
(2)介護現場におけるシーティングのさらなる普及促進
本事業では、シーティングの意義を中心とした「導入・基礎レベル」の内容を学ぶための研修教材を作成した。今後、本研修教材を用いた施設内でのシーティング研修の実施状況や、それによるシーティング実施状況の変化等について追跡調査を行う必要がある。
(3)高齢者家族や行政職員等に対するシーティングの普及促進
今後は、介護現場のみならず、家族や行政職員等に対するシーティングの普及促進についても考えていく必要がある。例えば、在宅において家族介護者等による適切なシーティングが実施されることにより、在宅高齢者のQOLが向上する可能性がある。また、本事業における試行研修のカリキュラムの一つである「シーティングと身体拘束の違い」は、行政職員にとっても有用な内容であると思われる。このようなことから、今後は介護現場を超えたシーティングの普及についても検討を進める必要がある。
※詳細につきましては、下記の報告書等をご参照ください。
■報告書

■シーティング実施における基礎研修(動画)

■シーティング実施における基礎研修(テキスト)
■高齢者における適切なシーティング実施に関する手引き(追補版)

【問い合わせ先】
リサーチ・コンサルティング部門 高齢社会イノベーショングループ
シニアマネジャー 石田 遥太郎
TEL:080-7938-4740 E-mail:ishida.yotaro@jri.co.jp